第23話 最後の命令
「――今度は、お前が俺を回収しろ」
声が消えた。
地下には静寂だけが残る。
俺は動けなかった。
「……今の」
ミラが俺を見る。
「聞こえた?」
「ああ」
「私にも聞こえた」
三十三番が険しい顔をしている。
「お前にも?」
「……」
「どういうこと?」
三十三番は答えない。
代わりに、一番を見る。
「命令が変わった」
「ああ」
一番が頷く。
「三十二番ではなく――」
その視線が俺に向く。
「俺を回収しろ、と」
「……」
俺は自分の徽章を見る。
文字はまだ残っている。
――回収対象:一番
「回収って……」
俺は一番を見る。
「俺が?」
「そうだ」
「どうやって?」
「知らない」
「お前までか」
「回収人なら知っているだろう」
「俺、まだ新人なんだけど」
ミラが頷く。
「そうよ。しかも今まで死体しか回収してない」
「そう」
「生きてる人を回収したことある?」
「ない」
一番が少しだけ笑った。
「なら、ちょうどいい」
「何が?」
「俺を死体にすればいい」
「嫌だよ!」
思わず叫んだ。
「物騒すぎるだろ!」
三十二号が笑う。
「相変わらずだな」
「何が?」
「自分が殺されるときも、そうやって騒ぐのか?」
「殺されたくないから騒いでるんだよ!」
ミラが呆れた顔をする。
「レイン、そこは普通だと思う」
「だろ?」
「うん」
一番が剣を納めた。
「安心しろ」
「何が?」
「俺はお前に殺されるつもりはない」
「じゃあ回収できないじゃん」
「そうだ」
「詰んでない?」
「だから、お前には仲間が必要だ」
一番が三十三番を見る。
「三十一」
「何だ」
「お前はまだ、レインを守るのか?」
三十一番は少し黙った。
「ああ」
「なら、お前も来い」
「どこへ?」
「北の山」
その言葉に。
俺は息を呑んだ。
「また?」
「ああ」
「北の山って……」
五十年前の事件が起きた場所。
俺が見つかった場所。
そして。
アルドが死んだ場所。
一番は言った。
「アルドの墓へ行く」
「空の墓?」
「違う」
「じゃあ何?」
「本当の墓だ」
俺は眉をひそめた。
「そんなものがあるのか?」
「ああ」
「どこに?」
「誰も知らない場所にある」
「じゃあどうやって行く?」
一番が俺を見る。
「お前が知っている」
「……俺が?」
「夢で見たことがあるはずだ」
俺は考える。
雪山。
血。
アルド。
何度も見る夢。
だが、今まで場所なんて意識したことがなかった。
「……」
目を閉じる。
頭の奥。
雪。
崖。
大きな岩。
そして。
その奥にある――
黒い扉。
「……ある」
「何が?」
「扉」
一番が頷く。
「そうだ」
「でも、俺は行ったことがない」
「違う」
一番が言った。
「お前は――」
そこで言葉を止める。
「?」
「いや」
「何だよ」
「北へ行けば分かる」
俺はため息をついた。
「結局、またそれか」
三十二号が笑う。
「お前は本当にせっかちだな」
「謎が多すぎるんだよ」
「なら、全部見ればいい」
「……」
三十二号が俺を見る。
「ただし」
「何?」
「北の山には、五十年前から一度も回収されていないものがある」
「何?」
三十二号は答えた。
「アルドの遺体だ」
俺は息を呑んだ。
「でもアルドの墓は空だった」
「ああ」
「じゃあ遺体はどこ?」
「だから探すんだ」
「それを俺が回収する?」
「ああ」
俺は自分の仕事道具を見る。
いつもの遺体袋。
ロープ。
手袋。
簡単な道具。
今まで何百人もの死体を運んできた。
それなのに。
今回だけは。
回収する相手が――
伝説の勇者。
「……分かった」
ミラが驚く。
「え?」
「行く」
「本気?」
「ああ」
俺は徽章を握る。
「俺が何者なのか知りたい」
そして。
「アルドが何を残したのかも知りたい」
三十一番が頷く。
「なら、明日の朝出発する」
「明日?」
「早いほうがいい」
「今日は?」
「休め」
「……」
俺は少し考えた。
「一ついい?」
「何だ?」
「帰り道、ちゃんと分かる?」
三十一番が黙る。
ミラを見る。
ミラも黙る。
一番まで黙る。
「……」
「誰も分からないのかよ」
結局。
俺たちは記録院を出るまでに、三回道を間違えた。
そして翌朝。
俺たちは北へ向かった。
――勇者アルドの、本当の遺体を回収するために。




