第17話 三十三番
「五十年前の続きを始めよう」
三十三番はそう言って笑った。
俺は思わず一歩下がる。
「……続きって何だよ」
「そのままの意味だ」
「五十年前に何があった?」
「お前が知る必要はない」
「俺の話なんだろ?」
「違う」
三十三番は首を振った。
「お前は、あの事件の結果だ」
「結果……?」
「そうだ」
三十一番が剣を構える。
「三十三」
「何だ?」
「レインには触れるな」
「お前に命令される筋合いはない」
「ならば力ずくで止める」
三十三番が笑った。
「まだそんなに正義感が残っているのか」
「正義ではない」
三十一番は俺を見る。
「これは罪滅ぼしだ」
その言葉に、俺は引っかかった。
「罪滅ぼし?」
三十一番は答えない。
代わりに三十三番が言った。
「こいつは五十年前――」
「黙れ」
「お前が言わないなら俺が言おう」
三十三番が一歩前に出る。
「三十一番は、アルドを殺した」
「……!」
空気が止まった。
三十一番は否定しない。
「本当なの?」
ミラが尋ねる。
男は答えなかった。
俺は三十一番を見る。
「……俺の父さんみたいな人だった」
「違う」
「え?」
「俺はアルドの仲間ではない」
「じゃあ何なんだ?」
「監視役だ」
「監視?」
「ああ」
三十一番は剣を下ろさずに言う。
「アルドが何をしようとしていたのか、俺たちは知っていた」
「何を?」
「勇者になることを捨てようとしていた」
俺は眉をひそめた。
「勇者を?」
「ああ」
「じゃあ魔王討伐は?」
「最初から目的ではなかった」
「じゃあ、何のために北へ?」
三十一番は答えた。
「死ぬためだ」
俺は黙った。
ミラも何も言わない。
三十三番だけが笑っている。
「ようやく話が繋がってきたな」
三十一番が睨む。
「黙れ」
「お前は五十年間、何も話さなかった」
「必要なかった」
「そして今、レインが全部を知ろうとしている」
「……」
三十三番が俺を見る。
「だから教えてやる」
「何を?」
「アルドは自分で死を選んだ」
「……」
「そして、死ぬ直前に一つだけ願った」
「何を?」
三十三番は俺を指差した。
「自分の代わりに生きる存在を残すこと」
俺は言葉を失った。
「それが――」
「お前だ」
風が吹いた。
森の木々がざわめく。
「俺は……アルドの代わり?」
「そうだ」
「じゃあ、俺が死んだら?」
三十三番が笑う。
「アルドが完全に死ぬ」
「意味が分からない」
「まだ分からなくていい」
「ふざけるな!」
俺は怒鳴った。
「俺は俺だ!」
三十三番の笑みが消える。
「そう言えるうちはな」
その瞬間。
三十三番が消えた。
「え?」
次の瞬間。
俺の目の前にいた。
刃が振り下ろされる。
キンッ!
三十一番が受け止めた。
「走れ!」
「でも!」
「いいから!」
ミラが俺の腕を掴む。
「レイン!」
「分かった!」
俺たちは走った。
後ろで金属音が響く。
キン!
ガン!
ザッ!
「強い……」
ミラが呟く。
「三十一番は?」
「知らない!」
「置いていくの!?」
「俺にどうしろっていうんだ!」
走る。
木々の間を抜ける。
そのとき。
俺の頭にまた映像が浮かんだ。
雪。
血。
五人の人間。
そしてアルド。
アルドが誰かに何かを渡している。
小さな布。
赤ん坊を包むような布。
そこには――
三十二
アルドが言う。
『これを……』
誰かが答える。
『本当にこれでいいのか?』
『ああ』
『この子は何になる?』
アルドは少しだけ笑っていた。
『俺がなれなかったものになる』
「……!」
俺は足を止めた。
「レイン?」
「今……」
「何?」
「思い出した」
ミラが近づく。
「何を?」
「アルドが……」
俺は息を整える。
「誰かに俺を預けてた」
「あなたを?」
「たぶん」
「誰に?」
俺は首を振った。
「分からない」
だが。
一つだけ覚えている。
アルドの最後の言葉。
『この子だけは――』
そこで映像が途切れる。
「……」
俺は頭を抱えた。
「何て言ったの?」
ミラが聞く。
俺は答えた。
「『この子だけは、死なせるな』」
その瞬間。
森の奥から声がした。
「違う」
三十三番だった。
俺たちは振り返る。
三十一番の姿はない。
三十三番だけが立っている。
「アルドが言ったのは、そんな言葉じゃない」
「じゃあ何て?」
三十三番はゆっくり笑った。
「――『この子を、俺の死体として扱え』だ」
「……!」
俺の徽章が鳴った。
カン。
文字が浮かぶ。
――記憶の矛盾を確認。
そして。
――真実の記録を開始します。
三十三番が笑う。
「やっと始まったな」
俺は徽章を握りしめた。
「何が……?」
「お前自身の――」
三十三番は言った。
「本当の出生記録だ」




