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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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16/21

第16話 七人目

カン。


 また一つ。


 金属音が響いた。


 地下道の空気が震える。


「……七人目が起きた」


 三十一番がそう言った。


 俺は聞き返す。


「起きたって?」


「そのままの意味だ」


「五十年前に消えたんだろ?」


「ああ」


「じゃあ、死んでるんじゃないのか?」


 三十一番は少し黙った。


「死んでいる」


「じゃあ何で起きるんだよ」


「知らない」


「回収人なのに?」


「俺だって何でも知っているわけじゃない」


 珍しく困った顔をしていた。


 それが逆に怖かった。


「レイン」


 ミラが俺の袖を引く。


「逃げたほうがいいと思う」


「同感」


「どうする?」


「来た道は塞がってる」


「じゃあ別の道」


「そんな都合よく――」


 ゴゴゴゴ……。


 壁の向こうから音がした。


 石壁がゆっくり開く。


 俺とミラは顔を見合わせた。


「……都合よく開いたね」


「嫌な予感しかしない」


「私も」


 三十一番が先に進む。


「行くぞ」


「どこへ?」


「出口だ」


「本当に?」


「ああ」


「今度は迷宮のせいにしない?」


「……」


「無視された」


 俺たちは通路を進んだ。


 しばらく歩くと、古い階段が現れた。


 上へ続いている。


「出口?」


「そうだ」


 階段を上る。


 途中。


 壁に何かが刻まれていた。


 俺は足を止めた。


「これ……」


 文字。


 古い。


 だが読める。


 ――五十年前、七人が入った。


 その下。


 ――五人が戻らなかった。


 さらに下。


 ――一人は死んだ。


 そして最後。


 ――一人は残った。


「……七人」


 ミラが呟く。


「五人が戻らない」


「一人が死んだ」


「一人が残った」


 俺は指で文字をなぞる。


「じゃあ、アルドは?」


 三十一番が答える。


「その答えが、五十年間見つかっていない」


 俺は眉をひそめた。


「待って」


「何だ?」


「新聞では六人だった」


「ああ」


「墓は五つ」


「ああ」


「第六記録では『六人目を残す』」


「ああ」


「なのに、この記録では七人」


 三十一番は黙った。


「一人多い」


「そうだ」


「誰?」


「……」


「七人目って誰なんだ?」


 男は答えなかった。


 代わりに階段の上を見る。


「もうすぐだ」


 俺たちは階段を上った。


 地上。


 夜の森。


 冷たい風が吹いていた。


「出られた……」


 ミラがその場に座り込む。


「疲れた」


「俺も」


「今日だけで何回死ぬと思った?」


「数える気にもならない」


「私は三回」


「俺は五回」


「多くない?」


「仕事柄」


「その仕事、辞めたら?」


「今、真剣に考えてる」


 少しだけ笑った。


 だが。


 三十一番は笑っていなかった。


「帰るぞ」


「どこへ?」


「お前の家だ」


「母さんたちのところ?」


「ああ」


「追っ手がいるんじゃない?」


「もういない」


「どうして?」


「俺が始末した」


「……」


「怖いことをさらっと言うな」


 森を歩く。


 しばらくすると、三十一番が突然立ち止まった。


「レイン」


「何?」


「一つだけ確認したい」


「何を?」


「お前の夢だ」


「夢?」


「最近、同じ夢を見ることはないか?」


 俺は考えた。


 最近。


 そういえば。


 何度か同じ夢を見ている。


 暗い場所。


 誰かが立っている。


 顔は見えない。


 そして、毎回同じ言葉を言う。


「……ある」


 三十一番の表情が変わった。


「何て言われる?」


 俺は答えた。


「――『まだ死ぬな』」


 三十一番が息を呑んだ。


「やはり……」


「何?」


「それはアルドの夢だ」


「……え?」


「五十年前、アルドが死ぬ直前に見ていた夢と同じだ」


 俺は立ち止まった。


「俺が?」


「ああ」


「どうして?」


「分からない」


「またそれか」


「だが――」


 三十一番は俺の胸元を見る。


「一つだけ確かなことがある」


「何?」


「お前の中には、アルドの記憶が少しずつ戻ってきている」


 俺は何も言えなかった。


 その瞬間。


 頭の奥に激しい痛みが走った。


「っ……!」


 視界が歪む。


 知らない景色。


 燃える村。


 雪山。


 五人の仲間。


 そして――


 誰かが俺に向かって叫んでいる。


『レイン!』


「……!」


 俺は膝をついた。


 ミラが駆け寄る。


「レイン!」


「大丈夫……」


「顔真っ青よ!」


「平気……」


 だが。


 俺には見えていた。


 夢ではない。


 記憶。


 確かにそう感じた。


 五十年前。


 北の山。


 六人の男女。


 その中心にいる男。


 ――アルド。


 そして。


 その隣にいたのは――


「……俺?」


 自分と同じ顔。


 アルドではない。


 俺だった。


 幼い俺が。


 アルドの手を握っていた。


「……ありえない」


 呟いた瞬間。


 遠くから。


 声がした。


「ありえるさ」


 俺たちは振り返った。


 森の中。


 誰かが立っている。


 黒い外套。


 胸元には――


 『三十三』


 三十一番が剣を抜いた。


「……三十三番」


 男は笑った。


「久しぶりだな、三十一」


「お前は死んだはずだ」


「そうだな」


 そして男は俺を見る。


「だが――」


 ゆっくりと歩いてくる。


「死んだ者ほど、よく覚えている」


 俺の徽章が震えた。


 カン。


 文字が浮かぶ。


 ――三十三番、確認。


 その下に。


 ――回収対象:三十二番。


 俺は息を呑んだ。


 そして三十三番が、笑った。


「さあ、レイン」


「五十年前の続きを始めよう」

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