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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第15話 再製造

ゴゴゴゴゴ……。


 地下が揺れている。


 壁の奥から、何かが動いている。


「逃げろ!」


 三十一番が叫んだ。


「どこへ!?」


「来た道を戻れ!」


「でも、追っ手が――」


「俺が止める!」


 三十一番が剣を抜く。


 その瞬間だった。


 ミラが俺の袖を引っ張った。


「レイン!」


「分かってる!」


 俺たちは走った。


 来た道を戻る。


 だが。


 背後から――


 ズズズズズ……。


 何かを引きずるような音が聞こえる。


「……来てる」


「聞こえた」


「速く!」


 走る。


 走る。


 そして――


「止まって!」


 ミラが叫んだ。


 目の前に壁。


「行き止まり!?」


「違う!」


 ミラが壁を叩く。


 コン。


 コン。


 コン。


「これ……空洞よ」


「え?」


「中が空いてる」


 俺も壁を触った。


 確かに。


 微かに風が流れている。


「隠し扉か」


「たぶん」


 俺は徽章を取り出した。


 カン。


 壁に触れた瞬間。


 ゴゴゴゴ……。


 石壁が横へ動いた。


「便利だな、これ」


「最初から使えばよかったんじゃない?」


「俺もそう思う」


 中へ入る。


 扉が閉まった。


 直後。


 ドンッ!


 何かが扉にぶつかった。


 ミラが息を呑む。


「……来た」


 俺は扉を押さえる。


 意味がないと分かっていても。


 そのとき。


 暗闇の奥で、何かが光った。


「……あれ?」


 小さな灯り。


 近づく。


 そこには――


 古い机。


 そして、一冊の本。


 表紙に文字がある。


 『三十二番 製造記録』


「……」


 俺は本を手に取った。


 ページを開く。


 最初の一行。


 ――第一号、失敗。


 次。


 ――第二号、失敗。


 さらに。


 ――第三号、失敗。


 数字だけが続いている。


 二十七。


 二十八。


 二十九。


 三十。


 三十一。


「……」


 俺はページをめくる。


 最後のページ。


 そこには――


 三十二号


 そして、その横に。


 成功


 俺は息を止めた。


「……成功って」


 ミラが本を覗き込む。


「レインのこと?」


「たぶん」


 だが。


 その下には、別の文字があった。


 ――ただし、記憶を持たない。


「記憶……?」


 さらに下。


 ――死亡時にのみ、完全な記憶を継承する。


「何だよ、それ……」


 俺の手が震えた。


「俺が死んだら……記憶が戻る?」


 ミラが首を振る。


「そんなの……」


 言葉が続かない。


 俺はページをめくった。


 次のページは破られていた。


「ここだけない」


「誰かが破ったのね」


「たぶん」


 そのとき。


 背後から声がした。


「そこまで読んだか」


 俺は飛び上がった。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 三十一番だった。


「驚かせるな!」


「お前たちが勝手に奥へ入ったんだ」


「追いつくの早すぎるだろ!」


「俺は三十一番だ」


「その番号、足が速くなる効果でもあるのか?」


「ない」


「じゃあ普通に追いついてきたのか……」


 三十一番は本を見る。


「それを見つけたか」


「知ってるの?」


「ああ」


「これ、何?」


「お前の記録だ」


「俺の?」


「正確には、お前を作った記録だ」


 俺は本を閉じた。


「誰が作った?」


 三十一番は答えない。


「アルド?」


「……」


「そうなのか?」


「違う」


「じゃあ誰?」


「俺たちだ」


「……」


 俺は目を見開く。


「五十年前の仲間?」


「ああ」


「勇者一行が?」


「違う」


 三十一番は首を振った。


「俺たちは、勇者一行ではない」


「じゃあ何なんだよ」


「回収人だ」


 また、その言葉。


「俺たちは、アルドが死んだあとに残されたものを回収するために作られた」


「じゃあ、アルドは何を残した?」


 三十一番は答えた。


「五人」


「五人?」


「そして最後に――」


 男が俺を見る。


「お前を残した」


 俺の胸がざわついた。


「じゃあ『六人目を残す』って記録は……」


「ああ」


「俺のこと?」


「そうだ」


「でも、俺は五十年前には生まれてない」


「だから問題なんだ」


「……?」


 三十一番が低い声で言う。


「お前は五十年前に『残された』」


「でも俺が生まれたのは二十八年前」


「そういうことになっている」


 その言葉に引っかかった。


「……そういうことになっている?」


 三十一番は黙った。


 俺は一歩近づく。


「俺の誕生日は?」


「知らない」


「出生届は?」


「知らない」


「母さんは?」


「お前を拾った」


「父さんは?」


「同じだ」


「じゃあ――」


 俺は息を呑む。


「俺は本当に、二十八年前に生まれたのか?」


 答えは返ってこなかった。


 代わりに。


 机の上の本が勝手に開いた。


 最後のページ。


 そこに、新しい文字が浮かび上がる。


 ――三十二号、覚醒条件を確認。


 俺の徽章が鳴る。


 カン。


 そして。


 ――死亡。


「……え?」


 ミラが青ざめる。


「レイン」


「何?」


「今……」


 俺の胸元を見る。


 徽章の文字が変わっている。


 ――三十二号、死亡済み。


「……」


 俺は自分の胸に手を当てた。


 心臓は動いている。


 ちゃんと生きている。


「俺、生きてるよな?」


「生きてる」


「じゃあ、何で……」


 三十一番が静かに言った。


「それが、お前が回収される理由だ」


「……どういう意味?」


 男は答えなかった。


 ただ、遠くから。


 また音が聞こえた。


 カン。


 カン。


 カン。


 今度は――


 三つではなかった。


 四つ。


 五つ。


 六つ。


 そして最後に。


 七つ目の音。


 カン。


 三十一番が顔を上げる。


「……七人目が起きた」


「七人目?」


 俺が聞き返す。


 男は、ゆっくりと俺を見る。


「五十年前に消えたはずの――」


「七人目の回収人だ」

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