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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第14話 似た男

「俺の死体を返してもらおうか」


 その言葉を聞いた瞬間。


 俺の背中に冷たいものが走った。


 目の前の男。


 古びた鎧。


 傷だらけの身体。


 そして――


 俺とよく似た顔。


「……アルド?」


 思わず口にした。


 男は答えない。


 ただ、こちらを見ている。


 三十一番が一歩前に出た。


「お前はアルドではない」


「……」


「そうだろう?」


 男は薄く笑った。


「五十年経っても、疑り深いな」


「お前は死んだ」


「そうだ」


「なら、ここにいるはずがない」


「だから言っただろう」


 男は俺を見る。


「俺の死体を返せ、と」


 意味が分からない。


 俺は思わずミラを見る。


 ミラも同じ顔をしていた。


「……レイン」


「何?」


「私、帰りたい」


「俺も」


「でも出口、あっちよね」


「たぶん」


「じゃあ何でこっちに来たの?」


「逃げたから」


「方向音痴?」


「違う」


「じゃあ何?」


「……迷宮が悪い」


「迷宮のせいにしないで」


 こんな状況なのに。


 少しだけ気が抜けた。


 だが――


 目の前の男は笑っていなかった。


「お前がレインか」


「……そうだけど」


「そうか」


 男は俺をじっと見る。


「大きくなったな」


 その一言で。


 空気が凍った。


「……何?」


 俺は男を睨んだ。


「俺を知っているのか?」


「知っている」


「いつ?」


「お前がまだ小さかった頃だ」


「俺が?」


「ああ」


 俺は一歩近づく。


「どこで?」


「北の山」


 父さんと母さんが俺を見つけた場所。


 心臓が跳ねた。


「……俺を見た?」


「見た」


「じゃあ、俺は誰なんだ?」


 男はしばらく黙った。


 そして――


「お前は、アルドではない」


「それは聞いた」


「勇者でもない」


「それも聞いた」


「だが、アルドの『死』から生まれた」


「……」


 言葉の意味が分からない。


「死から……生まれた?」


「ああ」


「人間はそんなふうに生まれない」


「普通はな」


 三十一番が口を挟む。


「それ以上話すな」


「なぜ?」


「まだ早い」


「五十年待った」


「だからこそだ」


 二人の間に緊張が走る。


 俺は思った。


 この二人は何かを知っている。


 しかも――


 俺よりずっと昔から。


「聞かせてくれ」


 俺は言った。


「俺は何なんだ」


 三十一番は黙る。


 アルドに似た男も黙る。


「……」


「答えられないのか?」


「違う」


 三十一番が言った。


「答えたら、お前はもう普通の生活に戻れなくなる」


「もう戻れないだろ」


 俺は自分の胸元を指した。


「三十二番だの、回収対象だの、勇者の死だの」


「……」


「俺の生活は、もうとっくに壊れてる」


 ミラが隣で小さく頷いた。


「私もそう思う」


「ミラまで」


「だって昨日まで死体運んでただけなのよ?」


「俺だってそうだ」


「それが今日になったら自分が死体候補」


「候補って言い方やめてくれ」


 アルドに似た男が、初めて少し笑った。


「お前たちは面白いな」


「笑ってる場合じゃない」


「そうだな」


 男は俺を見る。


「では、一つだけ教えてやろう」


「何?」


「お前の両親が言っていた『五十年前の事件』」


 男は古い壁に手を触れた。


「実際には、五十年前ではない」


「……?」


「事件は終わっていない」


 地下道の奥。


 壁の一部が、ゆっくり開いた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 その先に広がっていたのは――


 巨大な空間。


 中央に石造りの棺が一つ。


 その周囲には、六つの台座。


 五つは空だった。


 そして一つだけ。


 中央に何かが置かれている。


 俺は目を凝らした。


 それは――


 人の骨だった。


 だが。


 頭蓋骨には、見覚えのある徽章が掛かっていた。


 三十二番。


「……俺の?」


 男が答える。


「違う」


「じゃあ誰のだ?」


「お前の前に存在した――」


 男は言葉を切った。


 そして。


「三十二番目の失敗作だ」


 俺は息を呑んだ。


「失敗作……?」


「ああ」


「じゃあ俺は?」


 男は俺を見る。


 その目には、初めて迷いが浮かんでいた。


「お前は――」


 その瞬間。


 地下全体に音が響いた。


 カン。


 カン。


 カン。


 俺の徽章が震える。


 文字が浮かび上がった。


 『三十二番』


 その下に。


 今までなかった文字が現れる。


 ――『再製造を開始』


「……再製造?」


 三十一番の顔色が変わった。


「まずい」


「何が?」


「レイン」


 男が俺の肩を掴む。


「今すぐここから離れろ」


「どうして?」


「お前を回収しに来たんじゃない」


「じゃあ何なんだ?」


 三十一番が答える。


「お前をもう一度、作り直すためだ」


 地下の奥から。


 何かが動き始めた。

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