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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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13/15

第13話 回収人

家の外に、三人。


 黒い外套。


 胸元には、それぞれ違う番号の徽章。


 二十七。


 二十八。


 二十九。


 俺は窓から外を見ながら言った。


「……多くない?」


「少ないほうだ」


 三十一番の男が答える。


「これで少ないの?」


「ああ」


「何人いるんだよ」


「三十二人」


「多すぎるだろ」


 俺は思わず頭を抱えた。


「何でそんなに回収人がいるんだ」


「一人では回収できないものを回収するためだ」


「その説明じゃ何も分からない」


 ミラが横から言う。


「私も分からない」


「だよな」


 男がため息をつく。


「お前たちは何も知らない」


「だから教えてくれ」


「時間がない」


 その瞬間。


 外から声がした。


「三十一番」


 低い声。


「対象を引き渡せ」


 三十一番が窓を見る。


「断る」


「規則違反だ」


「知っている」


「ならば排除する」


「やってみろ」


 空気が変わった。


 俺は一歩下がる。


「……戦うの?」


「必要なら」


「俺、戦闘は苦手なんだけど」


「遺体回収人だろ」


「遺体を回収するのと、人を殴るのは別だ」


「同じようなものだ」


「全然違う」


 ミラが俺の腕を引っ張る。


「レイン」


「何?」


「逃げるわよ」


「賛成」


 三十一番が振り返った。


「待て」


「何?」


「裏口から出ろ」


「最初からそう言ってくれ」


 俺たちは裏口へ走った。


 母さんが叫ぶ。


「レイン!」


「母さん!」


「絶対に戻ってきて!」


「分かった!」


 父さんが俺に何かを投げる。


 小さな袋。


「持っていけ!」


「何これ?」


「お前の出生に関するものだ!」


「今!?」


「今だからだ!」


 俺は袋を掴んだ。


 外へ出る。


「走って!」


 ミラと二人で森へ入る。


 後ろから足音。


 追ってくる。


「速い!」


「遺体回収人をなめるな!」


「何その謎の自信!」


「山を何度も歩いてるんだ!」


「追いつかれてるけど!」


「……」


「何か言って!」


 俺は黙った。


 確かに追いつかれている。


 まずい。


 森の奥へ進む。


 道がない。


 木々をかき分ける。


 すると――


「レイン!」


 ミラが叫んだ。


「穴!」


「え?」


 地面に穴がある。


「止まれ!」


 遅かった。


 俺たちはそのまま落ちた。


「うわあああああ!」


「きゃああああ!」


 ドサッ!


 俺が先に落ちる。


 その上にミラが落ちてきた。


「重い……」


「失礼ね!」


「どいて」


「先に言い方!」


 起き上がる。


 そこは地下道だった。


「……ここ」


 壁を見る。


 古い石造り。


 見覚えがある。


「旧迷宮?」


 ミラが聞く。


「たぶん」


 つまり。


 俺たちは逃げたつもりが――


 最悪の場所へ戻ってきた。


「……」


「……」


「帰ろう」


「無理よ」


「だよな」


 地下道を進む。


 しばらくすると、壁に文字が刻まれていた。


 『三十一番』


 俺は立ち止まる。


「ここ、あいつが通った場所?」


「たぶん」


 その下に、さらに文字。


 『三十二番を作る』


「……」


 ミラが俺を見る。


「作る?」


「ああ」


 その言葉が妙に引っかかった。


 俺は父さんから受け取った袋を開けた。


 中には――


 一枚の布。


 古い。


 赤ん坊を包むためのもの。


 そして、もう一つ。


 小さなガラス瓶。


 中に黒い液体が入っている。


「何これ」


「分からない」


 瓶の底に文字がある。


 『アルドの血』


 俺は固まった。


「……」


「レイン?」


「俺が生まれたときのものらしい」


「アルドの?」


「ああ」


 その瞬間。


 背後から声がした。


「それを持っていたのか」


 俺は振り返る。


 三十一番。


 いつの間にか、そこに立っていた。


「追いついた?」


「お前たちは逃げる方向が悪い」


「それは……」


 俺は周囲を見る。


「そういうことか」


 ミラが呟く。


「知ってたの?」


「いや」


 男は壁を見る。


「ここは、五十年前にアルドが最後に来た場所だ」


「じゃあ、この瓶は?」


 男の顔が曇る。


「アルドが自分の血を使って作ったものだ」


「何のために?」


「お前を作るために」


 俺は息を呑む。


「俺を?」


「ああ」


「何で?」


「魔王を倒すためだ」


「俺が?」


 男は首を振った。


「違う」


「じゃあ何を倒す?」


 男は答えた。


「勇者自身を殺すためだ」


 地下道の奥で。


 カン。


 金属を叩く音が響いた。


 三十一番が振り返る。


「……来たか」


「誰が?」


 男は答えない。


 暗闇の奥から――


 一人の男が歩いてくる。


 古い鎧。


 傷だらけの身体。


 そして、顔。


 俺と――


 よく似ていた。


「……アルド」


 三十一番が呟いた。


 男は俺を見て、静かに笑った。


「やっと見つけた」


 そして。


「俺の死体を返してもらおうか」


 そう言った。

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