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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第18話 出生記録

「本当の出生記録だ」


 三十三番がそう言った。


 俺は徽章を握ったまま動けなかった。


「俺の……出生記録?」


「ああ」


「そんなもの、あるのか?」


「ある」


「どこに?」


 三十三番は答えなかった。


 代わりに森の奥を見る。


「来い」


「嫌だ」


「即答か」


「知らない人についていくなって母さんに――」


「さっきまで追いかけていた男に何を言っている」


「それとこれは別だ」


 ミラが呆れた顔をする。


「レイン、今それ言ってる場合?」


「大事だ」


「何が?」


「母さんとの約束」


 三十三番が小さく笑った。


「……本当に似ているな」


「誰に?」


「アルドに」


 その名前を聞いた瞬間。


 胸がざわついた。


「俺とアルドは、そんなに似てるのか?」


「顔だけじゃない」


「じゃあ何が?」


「そういうところだ」


「どういうところだよ」


 三十三番は答えず、歩き始めた。


「ついてこい」


「だから――」


「出生記録を見たくないのか?」


「……見たい」


「なら来い」


「ずるいな」


 俺とミラは顔を見合わせる。


「どうする?」


「行くしかないでしょ」


「だよな」


 俺たちは三十三番の後を追った。


 森を抜ける。


 しばらくすると、古い建物が見えてきた。


 石造りの小さな塔。


 屋根は崩れている。


 入口には文字が刻まれていた。


 王国記録院・北部保管所


「こんな場所があったのか」


「五十年前に閉鎖された」


 三十三番が言う。


「なぜ?」


「記録が多すぎたからだ」


「理由になってない」


「記録が多すぎて、誰も整理できなくなった」


「それで閉鎖?」


「この国らしいだろ」


 妙に納得してしまった。


 中へ入る。


 埃だらけの棚。


 大量の本。


 古い紙。


 ミラが一冊手に取る。


「うわ……カビ臭い」


「触るな」


 三十三番が言う。


「なぜ?」


「それは百年前の疫病記録だ」


「……」


 ミラはそっと戻した。


「触らなくてよかった」


 俺は棚を見る。


「出生記録は?」


「奥だ」


 しばらく進む。


 やがて。


 巨大な棚にたどり着いた。


 年代ごとに分けられている。


「二十八年前……」


 俺が探す。


 だが。


 見つからない。


「ない」


「ある」


「どこ?」


 三十三番が棚の一番下を指差した。


「そこだ」


 俺はしゃがむ。


 古い箱。


 表面に文字。


 王国北部・出生記録 二十八年前


 俺は箱を開けた。


 大量の書類。


 名前。


 日付。


 両親。


 出生地。


 一枚ずつ確認していく。


「……ない」


「そんなはずはない」


「俺の名前がない」


 三十三番が眉をひそめる。


「もう一度探せ」


「探した」


「なら別の箱だ」


 隣の箱を開ける。


 そこにもない。


 さらに。


 さらに。


 どこにもない。


「俺、本当に出生届出されてないのか?」


 ミラが言う。


「でも、レインの家には戸籍があるんじゃ……」


「あるはずだ」


 俺は答える。


「母さんも父さんも、俺を普通の子供として育ててきた」


 三十三番が静かに言った。


「それが問題なんだ」


「何が?」


「お前には――」


 男は一枚の紙を取り出した。


「出生記録がない」


「……」


「戸籍もない」


「……」


「出生地もない」


「……」


「そして――」


 紙を裏返す。


 そこに、赤い印が押されていた。


 死亡確認済


「何だよ、これ……」


 俺の名前。


 確かに書かれている。


 ――レイン


 その横。


 生年月日。


 五十年前


「……」


 頭が真っ白になった。


「俺、二十八歳だぞ」


 三十三番は答えない。


「なあ」


「……」


「これ、間違ってるよな?」


「違う」


「じゃあ俺は……」


 そのとき。


 後ろから足音が聞こえた。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


 誰かが階段を降りてくる。


 三十三番が振り返る。


「……遅かったか」


「誰?」


 暗闇から人影が現れる。


 白い髪。


 古い王国服。


 手には大量の書類。


「五十年前の記録を探しているのか?」


 三十三番が剣に手をかける。


「お前は誰だ」


 老人は笑った。


「この記録院の最後の管理者だ」


 そして俺を見る。


「なるほど」


「何?」


「三十二番が戻ってきたのか」


 俺の背筋が凍る。


「俺を知ってる?」


 老人は頷いた。


「知っているとも」


「いつ?」


「五十年前から」


「……俺、五十年前には生まれてない」


「そうだな」


 老人は微笑んだ。


「だからこそ――」


 手に持っていた一枚の記録を俺に差し出した。


「お前は、五十年前に一度死んでいる」


 俺は紙を受け取った。


 そこには。


 たった一行。


 ――レイン、死亡。


 日付は。


 五十年前。


 そして、その下には赤い文字で。


 『死亡後、回収』


 俺は震える手で紙を握った。


「……俺は」


 老人が静かに言った。


「二十八年前に生まれたんじゃない」


 そして――


「二十八年前に、二度目の人生を始めたんだ」

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