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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第97話 湖畔休憩地とダンジョン都市

 給水設備の作業員が、荷車から降ろされた交換魔石の封印を一つずつ調べていく。


 最後の箱まで確認が終わると、森下莉奈の探索者用スマートフォンに依頼完了通知が届いた。


 《ダンジョン都市依頼アプリ・依頼完了》


 依頼名:給水設備用魔石・搬入補助

 基本報酬:120,000円

 重量加算:60,000円

 合計報酬:180,000円


 「一人60,000円。朝の分と合わせて105,000円か。やっぱり、この街の仕事は稼げるな」


 小野寺晴斗が、森下のスマートフォンを横から見て言った。


 「空荷車を大階段まで戻して、帰りは交換魔石を満載した荷車を護衛したからな」


 相原拓真は荷台から降り、腰を伸ばした。


 給水設備区画から大階段脇の搬入拠点まで約一キロ。

 三人は空になった荷車をそこまで返し、地上から届いていた交換魔石を積んだ別の荷車と一緒に、同じ道を戻ってきた。


 往復の護衛に加え、積み下ろしまで含めた報酬である。


 「積み下ろしまで込み。楽に60,000円じゃないよ」


 森下は依頼完了画面を閉じた。


 都市内の照明は夕方用へ切り替わり、朝よりも光が弱くなっている。

 今日はもう都市の外へ出ないため、三人は共同シャワーへ向かった。


 共同シャワーの料金は、15分10,000円だった。

 朝はこのあとの探索が残っていたので使わなかったが、一日の仕事を終えた今なら、汗と荷車の埃をつけたまま休む必要はない。


 三人はシャワーを済ませて着替えると、中央広場の食堂へ入った。


 注文したのは、一人8,000円の温かい食事だった。

 大鍋からよそった肉と豆の煮込みに、固めのパンと水がついている。


 小野寺は椅子へ深く座り、両足を投げ出した。


 「今日も疲れたなあ」


 「朝にスライムを落として、午後は荷車で一往復だからな」


 相原も向かいの席へ座る。


 「でも、一人105,000円。シャワーと、朝と今の食事を引いても、79,000円は残るよ」


 森下がスマートフォンの計算結果を二人へ見せた。


 小野寺は煮込みを口へ運ぶ。

 何度か噛んだあと、水を一口飲んだ。


 「稼ぎはいいんだよ。稼ぎは。でも、8,000円払ってこれか」


 「まずくはないけど、また食べたい味ではないね」


 煮込みは温かく、量も足りている。

 ただ、長く保温された肉は硬く、豆にも薄い塩味しかついていなかった。


 食材を第十階層まで運び、大勢へ安全に出すことを優先した食事だ。

 味を楽しむより、必要なカロリーを取るための料理に近い。


 小野寺が固いパンをちぎった。


 「湖畔休憩地のカツカレー、また食べたいな」


 「行きたいなら、まず入場券だろ」


 相原が返すと、森下が湖畔休憩地の公式ページを開いた。


 《湖畔休憩地・入場券販売ページ》


 前売り入場券:販売中の全日程完売

 一般入場待機券:受付中


 ※一般入場待機券は入場を保証するものではありません


 「次の販売分も、始まったらすぐなくなると思う」


 「最初に逃げ込んだ時は、机と簡単な屋根しかなかったのにな」


 三人は、まだ湖畔休憩地が小さかったころに食事をした。

 正式オープンの日には優先招待客として呼ばれたが、あれは開店日の一度だけである。


 今後も好きな時に入れるわけではない。


 「今は、俺たちでも入場券を取れない店か」


 相原が完売表示を見ながら言った。

 森下は公式ページを閉じず、Yで湖畔休憩地を検索する。


 最初に出てきたのは、大きなカツが載ったカレーの写真だった。

 同じ盆には湯気の立つスープが置かれ、その隣にサラダと魔力水も添えられている。


 『十階層でこのAセットが4,200円。肉がちゃんと柔らかく、スープも温かい。これに慣れるとダンジョン都市の8,000円の食事へ戻れなくなる』


 小野寺が画面の写真と、自分たちの煮込みを見比べた。


 「半額くらいで、向こうの方が量も多く見えるぞ」


 「運搬費と場所代が違うから、単純には比べられないけどね」


 森下の言うとおりだった。

 相原たちは今日一日で、都市を維持するために何人もの作業員と護衛が動くところを見ている。


 「高い理由があるのは分かる。でも、食べる側が向こうを選びたくなるのも分かるな」


 森下が次の投稿を開いた。


 『シャワー15分2,400円。温かい湯が出て、着替える場所も清潔。都市の共同シャワー10,000円を使った直後だと値段を二度見する』


 「今払った金の四分の一以下かよ」


 小野寺の利用明細にも共同シャワー、10,000円の決済が残っていた。


 さらに画面を送ると、湖畔休憩地の境界を撮影した動画が流れ始める。


 森から現れた魔物が施設へ向かい、草地に浮かぶ淡い光の手前で止められていた。

 内側の利用者は席を立たず、食事を続けている。


 「都市の外壁も警備もなしで、この壊れっぷりな安全領域はヤバいよなぁ…」


 相原は動画が終わるまで画面を見ていた。


 検索結果には、簡単な屋根と机しかなかった時の写真も残っている。

 その下には、三階建ての宿泊施設が現れる動画、正式オープン日の列、光る湖畔バーベキュー、売店、湖畔スイートポテトの写真が続いていた。


 公式アカウントの返信欄では、入場券について尋ねる投稿が絶えない。


 『前売り入場券、また取れなかった』


 『一般入場待機券で入れた人いる?』


 『宿泊券の次回販売はいつですか』


 「人気になってほしいとは思ってたけど、俺たちが入れなくなるとは思わなかった」


 小野寺はパンの残りを煮込みへ浸した。


 「次の販売日に三人で取るしかないな」


 「忘れないように通知を入れておくね」


 森下が公式アカウントの販売告知を登録したあと、価格を比較する別の投稿を開いた。


 『ダンジョン都市は温食8,000円、共同シャワー10,000円、二人部屋100,000円以上。湖畔休憩地はAセット4,200円、シャワー2,400円、二人部屋1室48,000円。都市の値段は本当に今のままでいいのか』


 「そりゃあこうして並べると、言われるよな」


 「都市で一日働いても、食事二回とシャワーだけで26,000円は確定だからな」


 「でも、湖畔休憩地だけで都市にいる全員は受け入れられないよ。だから入場券が取れないんでしょ」


 森下は価格比較の投稿を表示したまま、冷め始めた煮込みを食べた。


読んでいただきありがとうございます。

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