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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第95話 新メニュー!!湖畔スイートポテト③

 オーブンの扉を開けると、甘い湯気と一緒に金色の光があふれた。

 細かな光の粒が厨房を舞い、調理台へ届く前に一つずつ消えていく。


 「おお、これはこれで凄い光景だな」


 「ダンジョン芋を調理したのは昨日です。それでも、これだけの魔力が残っているんですね」


 海路は天板から立つ湯気を避け、光の粒と表面の焼き色を見ていた。


 来戸が一つずつ白い皿へ移す。

 表面には卵黄の艶と薄い焼き目がつき、その下で金色の粒が瞬いていた。


 「うわあ! 表面にも光の粒が出てますよ!」


 「ロックホーンのステーキを焼いた時と同じくらい、芋の中に魔力が残っています」


 森野は自分が形を整えた一つを皿ごと持ち上げた。

 底へ崩れた欠片からも光がこぼれている。


 「じゃあ、食べようか」


 全員でスプーンを入れ、まだ湯気の残る生地を少しずつすくった。

 俺も息を吹きかけてから口へ入れる。


 「うわ……。何だ、この口溶けは……」


 粗く残したはずの芋が、舌で押した途端にほどけた。

 バターと生クリームの風味を追い越し、芋の濃い甘味が口いっぱいに広がっていく。


 「これがスイートポテト? 全然、いつものダンジョン芋っぽくないじゃないですか! 完全に見た目詐欺です!」


 小坂の抗議に、今度は俺も声を上げて笑った。


 「褒めてるのか、それ」


 「めちゃくちゃ褒めてます!」


 森野は二口目を食べ、断面から舞う光まで追っていた。


 「これがスイートポテト……。めちゃくちゃおいしいです。あのダンジョン芋が、ここまで変わるなんて。昨日から驚きっぱなしです!」


 「こんな甘い菓子は初めて食べたな」


 五里蔵が大きな手でスプーンを持ち、崩れそうな一口を丁寧にすくっている。


 「これが地球のデザートですか。世界は広いですね」


 来戸も気に入ったらしく、皿に残った焼き目までスプーンで集めていた。


 海路だけは、一口目を食べたあとも難しい顔で断面を見ている。


 「どうした、海路?」


 「いえ、素晴らしい菓子です。ただ、もっとダンジョン芋の良さを引き出せると思います」


 森野も自分の皿を調理台へ置いた。


 「朝倉さんのレシピは、地球の普通のサツマイモに合わせた物なんですよね。これでもおいしいですけど、牛乳やバターの風味が、ダンジョン芋に負けています」


 言われてからもう一口食べると、最初に感じた芋の甘さの後ろで、乳製品の風味が薄くなっていた。


 「なるほど。バターも生クリームも、量じゃなくて濃さが足りないのかもしれないな」


 粗く残した部分も、最初の一口では面白かったが、滑らかな部分ほど早く溶けている。

 商品としてそろえるなら、大きさだけでなく口溶けも同じにしたい。


 「食べた時は、すぐ出せそうだと思ったんだけどな。もう少し研究した方がよさそうだ」


 俺は空になった保冷バッグを畳み直した。


 「発酵バターと、脂肪分の高い生クリームを探してくる。ほかにも使えそうな物を見て、もう一度戻るよ」


 「ええっ!? さっき帰ってきたばかりですよ? もう少し休んでから行けば……」


 「もう、次の扉が見えちゃったからな」


 海路と森野が同時にうなずき、来戸は次の焼成温度を考え始めている。


 「はあ……。厨房のみんなまで、先輩みたいになってきました……」


 その日の夕方、俺は選び直した材料を持って戻った。


 そこからも、試作は数日間続いた。

 牛乳は生地の硬さを調整する分だけに減らし、発酵バターと乳脂肪分45%の生クリームへ替えた。


 最初に残していた芋の粒は、森野の提案ですべて裏ごしした。

 ごろっとした食感は消えたが、舌へ触れた生地は繊維を感じる前にほどけるようになった。


 来戸は一度に焼く数を増やしても同じ焼き目になる温度を探し、海路は魔力循環後の芋を冷ましてから生地にするまでの時間をそろえた。

 五里蔵は大きさの違う試作品を食べ比べ、「食後でも、これならもう一つ入る」と一回り大きな物を選んだ。


 森野が最後に選んだのは、一般的な物より一回り大きく、表面に濃い焼き目をつけた形だった。

 中はどこをすくっても滑らかで、金色の光の粒が生地の奥まで残っている。


 名前は、湖畔スイートポテト。


 そして数日後、昼営業から食堂の新しいデザートメニューとして提供を始めた。



 ◇



 「えっ……これ、ダンジョン芋なの!?」


 チカの説明を聞いた三人組の声が、食堂へ響いた。


 「食べたあとでも信じられないんだけど……。俺たちの知ってるダンジョン芋と、何もかも違うぞ」


 周りのテーブルにも原料を知らなかった探索者が多かったらしい。


 「ええっ?」


 「マジで?」


 「材料を当てろって言われても、絶対分からないぞ」


 驚く声があちこちから続く。

 チカは食べ終えた皿を見て、注文用のスマホを構えた。


 「皆さん、おかわりはいかがですかぁ?」


 三人組の一人が、すぐに手を上げる。


 「あ、じゃあお願いします! こっち、三つ追加で!」


 その注文を聞き、別のテーブルからも声が飛んだ。


 「こっちも四つお願いします!」


 「こっちは二つで!」


 「これ、持ち帰りできますか?」


 「はい、順番に伺いますねぇ!」


 チカが一番近いテーブルから注文を取り始める。


 厨房では、食堂と連動した注文管理タブレットに通知音が鳴った。

 最初の三個という表示の下へ四個が増え、すぐに二個の注文も加わった。


 海路は増えていく表示にうなずくと、隣に立つ森野へ拳を向けた。


 森野も歯を見せて笑い、自分の拳を軽く当てる。


 「さあ、みんな! 追加注文がどんどん来るから、よろしくね!」

読んでいただきありがとうございます。

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