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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第94話 新メニュー!!湖畔スイートポテト②

 話は、ダンジョン芋を試食した翌日へ戻る。


 昼営業の注文が落ち着き始めるころ。

 俺は午前中に一度地上へ戻り、食材を詰めたバックパックを背負って湖畔休憩地へ帰ってきた。


 正面入口では、小坂が俺を待っていた。

 背負った荷物へすぐ気づき、開いた自動扉の前まで駆けてくる。


 「先輩、それですか?」


 「ああ、そうだ。今の時間なら厨房も落ち着き始めてるよな。じゃあ、さっそく試してみるか」


 小坂と一緒に一階の厨房へ向かう。

 食堂には遅めの昼食を取る探索者がまだ残っていたが、注文の山は越えていた。


 厨房では、五里蔵が使い終えた大鍋を洗い場へ運んでいるところだった。


 「あ、お疲れ様です」


 五里蔵の声に、海路も調理台から顔を上げた。


 「朝倉さん、お戻りになったんですね」


 「ああ。地上まで材料を取りに行っただけだからな」


 俺はバックパックを荷物台へ下ろし、中から保冷バッグを取り出した。


 「それで、何をお作りになるんですか?」


 「こっちの世界にある菓子だ。スイートポテトといって、サツマイモを使って作る」


 保冷バッグから牛乳と生クリームを出し、その横へバターと卵を置いた。

 来戸が生クリームの容器を手に取った。


 「これとダンジョン芋を使うんですか。材料は随分と少ないんですね」


 「ああ。作り方も難しくない。ただ、あの芋で同じようにできるかは試してみないと分からないなぁ」


 食堂側の補充を終えた森野が厨房へ戻ってきた。

 調理台に並ぶ乳製品を見つけると、そのまま俺の隣まで来る。


 「あ、朝倉さん、おかえりなさい。それって、昨日言っていたレシピの材料ですか?」


 「ああ。スイートポテトは、メニューでいえばデザートに入る。今から俺が知っている作り方を教えるから、森野、お前に引き継いでほしい」


 森野は両手を握り、胸元まで上げた。


 「ま、任せてください!」


 「ははは。頼りにしてるぞ、うちのパティシエさん」


 森野は返事をするより先に袖をまくり、手を洗い直した。


 使うのは、昨日の再現調理で成功したダンジョン芋だ。

 冷蔵庫から出した芋は、皮をむいたあとも中身が濃い黄金色を保ち、断面で光の粒が明滅している。


 「まずは、この芋を潰してくれ。完全なペーストにする一歩手前くらいでいい。少し粗さが残っていた方が、俺は好きだな」


 「分かりました!」


 森野が芋をボウルへ移し、マッシャーを押し込む。

 一度沈んだだけで黄金色の中身が柔らかく崩れ、蜜を含んだような艶がボウルの底へ広がった。


 「やっぱり、随分と蜜が多いな。普通のサツマイモより柔らかい」


 「この菓子は、芋の食感が残る方がいいのでしょうか」


 海路が、マッシャーの間に残る粒の大きさを見ていた。


 「俺は少しごろっとしていた方が好きだ。この辺りは好みだけどな」


 「分かりました。粗さを残した場合と滑らかにした場合で、火の入り方も比べてみます」


 「ああ、頼む」


 話している間にも芋は崩れ、すぐに柔らかな生地になった。

 マッシャーが動くたび、押し出された光の粒がボウルの縁で弾けている。


 「今までのダンジョン芋とは、中身がまるで別物ですね」


 森野がボウルを傾けると、生地は木べらからゆっくり落ちた。


 「ちょっと緩いけど、まずは基本通りに作ろう。次はバターを入れて、牛乳と生クリームは少しずつだ」


 「砂糖は入れないんですか?」


 小坂が材料の間を探したが、保冷バッグはもう空だった。


 「元の芋があれだけ甘いからな。今回は入れない」


 森野が柔らかくしたバターを加え、温めた牛乳と生クリームを少量ずつ注いだ。

 黄金色の生地を練るたびに光の粒が浮かび、混ぜ終えるころには森野の手元まで淡い金色に照らされていた。


 「潰している間もきれいでしたけど、練るともっと出てきますね」


 最後に卵黄を一つ加えると、生地の色がさらに濃くなる。

 森野は木べらで底から返し、筋が残らなくなるまで混ぜた。


 「下ごしらえは、これで終わりだ。次は形を整える」


 俺は生地を一つ分取り、細長い卵型へ整えてみせた。


 「あとは、こんな感じにしてくれ。敷き紙を入れた型へ載せて、表面に卵黄を薄く塗る」


 森野も隣で生地を取り、俺が作った物と同じくらいの大きさへまとめる。

 来戸が大きさを見比べながら焼き型へ並べ、予熱しておいたオーブンへ入れた。


 「中まで火は通っているから、まずは表面を10分焼いてみよう」


 来戸が時間と温度を確認し、扉を閉める。


 「かなり簡単ですね、これ」


 手についた生地を洗い流しながら、森野がオーブンの中を覗いた。


 「地球では定番の菓子だからな。店でも売ってるし、家で作る人もいる」


 「私もめっちゃ好きですよ! 特にロイヤルのスイートポテトは絶品です!」


 焼成時間の表示には、まだ9分以上残っている。

 小坂は数字を見たまま肩を落とした。


 「でも、朝倉さんはどうしてスイートポテトを選んだんですか?」


 「これ、小さいころに親と一緒に作った、初めての料理なんだよ」


 森野がオーブンから俺へ向き直り、小坂も残り時間の表示から顔を上げた。


 「へえ……。思い出の料理なんですね!」


 「ははっ、そうだな。もう一緒に食べることはできないけど、デザートメニューを考えた時、真っ先に浮かんだんだ。それで、作ってみたくなった」


 「思いつかなかったら、何を作るつもりだったんですか?」


 小坂の質問に、以前作った失敗作が頭へ浮かんだ。


 「その時は、モンブランを提案してたと思う」


 「うわあ、それもちゃんと食べてみたいです!」


 以前のモンブラン風試作品では、小坂が水を求めて厨房を飛び出した。

 森野も同じ皿を思い出したのか、勢いよく俺へ詰め寄った。


 「朝倉さん、この試作が終わったら、本物のモンブランも教えてください! 今度こそ、おいしい物を作ります!」


 「分かった、分かった。これが終わったら教えるから、まずはオーブンを見ような」


 海路たちの笑い声が重なったところで、来戸がオーブンの扉へ手をかけた。

読んでいただきありがとうございます。

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