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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第92話 ダンジョン芋と特殊調理食材⑥

 本日カクヨムのほうでサポーター専用SS『最初のまかない』を公開されています!

 ※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 「魔力循環……。いい名前じゃないか」


 俺は金色の光をまとったダンジョン芋を見た。


 「間違いなく、俺の世界では初めての調理法だと思う。海路、お前が作り上げたこの方法で仕上げたダンジョン芋を、実食してみようじゃないか」


 「待ってください。まだ、中がかなり熱いです」


 海路に止められ、芋へ伸ばしかけた手を引っ込める。

 割れた土の殻から取り出された芋は、まだ絶え間なく湯気を立てていた。


 来戸が清潔な皿とナイフを用意する。

 海路はトングで芋を皿へ移し、皮の表面に残った焼けた土を布で落とした。


 「匂いだけなら、もう絶対おいしいです!」


 小坂が湯気を手で仰ぐ。

 森野も甘い香りを吸い込み、早く中を見たいと海路へ訴えた。


 それからしばらく、七人で芋を囲んだまま待った。

 勢いよく立っていた湯気が落ち着き、ときおり途切れるようになった。


 「もう切っても大丈夫だと思います」


 来戸が芋から立つ湯気を見て、ナイフを海路へ渡した。

 海路は皮へ浅く切れ目を入れ、左右へ開く。


 閉じ込められていた香りが、一段濃くなった。

 赤紫色の皮の中から現れたのは、濃い黄金色の中身だった。


 皮の内側まで同じ黄金色で、切り口は水気を含んで艶を帯びている。

 その断面でも、金色の光の粒が生まれては消えていた。


 「中まで光っています!」


 森野が黄金色の断面を覗き込む。


 「火の通り方も均一です。芯が残っていません」


 来戸は加熱調理を担当する者らしく、芋の奥に硬い筋が残っていないか断面を見ていた。

 これまでのダンジョン芋は、火を弱くすれば芯が残り、火を強くすれば水分も甘味も抜けていた。


 今回は、そのどちらでもない。


 海路が小さなスプーンを手に取り、芋の中央から一片をすくい上げた。

 崩れた断面から金色の光の粒があふれ、スプーンの縁からこぼれ落ちる。

 光は調理台へ届く前に淡くほどけ、次々と消えていった。


 光がまだスプーンの縁に残るうちに、海路がその一片を口へ運んだ。

 噛んでいる間、俺たちは誰も話さずに待つ。


 「土の匂いも苦味もありません。しっとりして、舌の上でほどけます。それに……甘い。ここまで甘くなったのは、初めてです。成功です」


 海路は残りを七つに分けた。

 俺たちの前へ、黄金色のダンジョン芋が一片ずつ並ぶ。


 俺はまだ熱い一片を口に入れた。


 舌で押すだけで、しっとりした中身がほどける。

 あれほど口に残っていた粉っぽさも、飲み込むのに苦労した重い粘りもない。


 香ばしい皮の風味に続いて、濃い甘味が広がった。

 砂糖を加えた強い甘さではなく、芋そのものの味が何倍にも濃くなったような甘さだ。


 俺が口にしたのを合図に、小坂たち五人も一口ずつ口へ運んだ。

 最初の一口を飲み込んでも、誰もすぐには感想を口にしない。

 六人とも、口に残る甘味と焼けた皮の香ばしさを、ただ静かに味わっていた。


 「これ、本当にあのダンジョン芋か?」


 さっきまで調理台に置かれていた、あのダンジョン芋と同じ食材とは思えない。

 

 「全然もそもそしてません。口の中でちゃんとほどけます」


 小坂は驚いたまま、手元に残った一片を見た。

 最初に口にした試作品のように、水を求めて厨房を飛び出す様子はない。


 「甘味だけじゃありません。魔力も、中に残っています」


 チカが食べ終えたあとに示した断面では、食べる前と変わらず金色の光が明滅している。


 来戸は自分の一片を二つに割った。


 「外側だけじゃありません。奥まで柔らかく、水分があります」


 五里蔵は大きな手に載せた一片を、ひと口で食べた。


 「切っても煮ても変わらなかったのに、土で包んで3時間焼くと、ここまで変わるのか」


 下ごしらえをいくつ変えても結果が出なかった分、驚きも大きいのだろう。


 「ほかの材料で味を補わなくても、これだけで十分甘いです」


 森野は中身を少しずつ味わい、最後に皮の近くを食べた。


 「皮の近くは香ばしいですね。中の甘さとも合っています」


 一口目の感想が出そろっても、小坂は手元に残った分をすぐには食べず、芋から上がる湯気を吸い込んだ。


 「おじいさんが作ってくれた焼き芋と、似てるか?」


 「味は全然違いますけど、こっちの方が、ずっと甘いです!」


 小坂は皮に近い部分を口元へ運び、立ち上がる香りをもう一度吸い込んだ。


 「でも、土と焼けた皮の匂いは少し似ています。こうやって、熱いのを皆で分けるところも」


 祖父が庭の落ち葉で作ってくれた焼き芋の記憶を、小坂が話してくれなければ、俺たちはダンジョン芋を諦めていたかもしれない。


 「小坂さんの話がなければ、私たちはまた芋を潰して、別の味を足そうとしていました」


 海路が礼を伝えると、小坂は首を横に振った。


 「私は昔のことを思い出しただけです。土が必要だと分かったのは、海路さんですよ」


 「それでも、始まりは小坂さんの話です。ありがとうございます」


 小坂は二口目を食べた。

 その様子を見ていた海路も、残していた自分の分を口へ運ぶ。


 安価で栄養だけはあるが、味は期待できない。

 駆け出し探索者が仕方なく食べる物だと、俺も思い込んでいた。


 「不味い芋だったんじゃない。食べ方が分かってなかっただけか」


 「はい。誰も、この芋が求める最初の調理を知らなかったんです」


 調理台には、役目を終えた土の殻が二つに割れて残っている。

 ダンジョン創成期から知られていた食材の調理法が、今になって見つかったのだ。


 五里蔵は皿に残った芋の欠片まで食べきった。


 「これなら、このまま出しても喜ばれると思います」


 「ただ、一個に3時間かかるんですよね。オーブンを長く使うので、仕込みやそもそもの量はあまり作れないかもです」


 海路は割れた殻を一片持ち上げた。


 「それに成功したのも、まだこの一個だけです。土の厚さと火加減をそろえて、もう一度試す必要があります」


 一度成功しただけで、すぐ商品にはできない。

 同じ手順でもう一度成功しなければ、偶然できた一個で終わってしまう。


 「そうだな。売る話は、同じ物をもう一度作れてからにしよう」


 次の試作では海路が土の量と厚さをそろえ、来戸が同じ火加減を再現することになった。


 調理台には、次の試作用に残した生のダンジョン芋がある。

 俺には、それを使って試してみたいことが一つあった。


 「それと海路。次に焼く分を、少し俺に使わせてくれないか」


 海路は用途を尋ねた。


 「何に使うんですか?」


 「前から、作ってみたかったものがあるんだ」

読んでいただきありがとうございます。

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