第89話 ダンジョン芋と特殊調理食材③
「よし。これから異次元商店を呼び出すぞ」
俺が厨房にいる全員へ告げると、試作品を囲んでいた五人が調理台から離れた。
どこに何が現れるか分からないため、厨房の中央に人一人が立てるだけの場所を空ける。
小坂も俺の隣へ来た。
「先輩……本当に呼ぶんですね」
声にはまだ心配が混じっているのに、体は俺より半歩前へ出ている。
「お前も、かなり楽しみにしてるだろ」
「それとこれとは別です。早く出してください!」
俺は【休憩地】を開き、《異次元商店》を選んだ。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:機能利用確認
機能名:異次元商店《みなみうり商店》
異次元商店を呼び出しますか?
呼出費用:1,000ポイント
現在残高:52,713ポイント
はい/いいえ
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俺は《はい》を押した。
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少々お待ちください。
呼出費用:1,000ポイント
現在残高:51,713ポイント
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何も起きないまま、数秒が過ぎた。
小坂が画面を覗き込み、海路たちは空けた場所を囲んで待っている。
やがて、表示が切り替わった。
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【休憩地】
異次元商店《みなみうり商店》
まもなく召喚されます。
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厨房の床に、黒い渦が広がった。
異界人材を召喚した時と同じ、水面に墨を落としたような黒さだ。
渦の中央から、人の形をした影が浮かび上がる。
頭と胴体、二本の腕と足があり、形だけなら人間に見えた。
しかし、影を包んでいた黒い煙がほどけ、そこへ色が現れ始めた途端、厨房から声が消えた。
黒いスーツを着ている。
白いシャツに細い黒のネクタイを合わせ、革靴まで磨かれていた。
問題は、その上に載っている頭だった。
オレンジに近い肌は、粘土を丸く整えたように滑らかで、鼻の膨らみも耳も見当たらない。
細い目と横に長い口だけがあり、目深にかぶった黒いベレー帽の下から髪は一本も出ていなかった。
「どこの生物だ……」
海路の口から、警戒よりも先に疑問が漏れた。
小坂も目を見開いたまま動かず、俺も何と声を掛ければいいのか分からない。
黒いスーツの生物は、そんな俺たちへ深々と頭を下げた。
「シシシシシッ! この度は異次元商店をご利用くださり、誠にありがとうございます。わたくし、みなみうり商店のミナミ・ウリオと申します」
少しだけ甲高い声が、静まり返った厨房へ響く。
先に我に返ったのは小坂だった。
「ああ、ご丁寧にどうも……」
その一言で、止まっていた時間が動き始めた。
俺も慌てて挨拶を返す。
「あなた様が、わたくしをお呼びくださった顧客でございますね?」
「その通りです。朝倉といいます」
「朝倉様、ありがとうございます。時間制限付きの身でございますので、早速商談と参りましょうか」
ウリオが両手を広げると、何もなかった空中で音が鳴った。
商品写真が並ぶ、折り畳み式のカタログが現れる。
小坂が声を上げ、海路たちも揃って身を引いた。
ウリオだけは何事もなかったように、スーツの内ポケットから黒い手帳を取り出す。
「ふむふむ。朝倉様は初めてのご利用、そして、まだ商店Lv.1でございますね。現時点において、全てのお取引はできません」
手帳を閉じたウリオが、五本の指を開いた。
「よって、取り扱い品目は訪問時に選ばれるランダム品で、数も5品目に制限させていただきます。ご了承ください」
俺は小坂を見た。
「ここでもレベル、ですか」
「取引の前に質問していいですか?」
「もちろんでございます。ただし、Lv.1ですので、わたくしがこの世界にいられる時間は10分と制限されております。残りは……9分3秒でございます。そちらも頭の片隅に入れていただけると幸いでございます」
「時間制限があるのか……。分かった、手短にします。そのレベルというのは、一体何ですか?」
ウリオは、細い口の両端を持ち上げた。
「一種の制限措置でございます。これはそちらのスキルが課しているものですので、わたくしから正確な仕組みまでは申し上げられません」
未熟な利用者へ、扱えない品や危険な品を売りつけないための制限らしい。
こうした仕組み自体は、世界をまたいで商売をする店では珍しくないという。
「おそらく、朝倉様のスキルが成熟するにつれて、商店レベルも連動して上がっていく仕組みでございましょう」
「なるほど……分かりました。とりあえず、目録を見せてください」
「本日の目録はこちらでございます」
ウリオが、先ほど出したカタログを差し出した。
表紙を開くと、見開きに五つの商品が上から順に並んでいる。
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《みなみうり商店・本日の目録》
商店Lv.1/取扱品目5点
1.《ぬるくならない木杯》 300ポイント
一杯分の飲み物を30分だけ入れた時の温度に保ちます。
2.《ひと拭き洗浄ふきん》 500ポイント
一日に一度、手のひらほどの汚れを水なしで拭き取ります。
3.《小さな虫よけ粉》 600ポイント
半径1.5メートル以内の小さな虫を1時間遠ざけます。
4.《保存小壺》 800ポイント
500グラムまでの食材を7日間、入れた時の状態に保ちます。
5.技能書《特殊調理》 10,000ポイント
一人に対して有効な使い切り型技能書です。
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「これは違うな」
「木杯も便利そうですけど、今欲しい物ではないですね」
俺と小坂は一番目から順に見ていった。
次のふきんから虫よけ粉、小壺まで確かめても、目当ての技能書は出てこない。
最後の行へたどり着いた小坂が、カタログへ顔を近づけた。
「きたーーー!」
【新作のお知らせ】
新作『人間嫌いのハイエルフ、父になる』の連載を開始しました!
※ハイファンタジーです。要注意!
人間を嫌っていた長命種のハイエルフが、ひょんなことから人間の赤ちゃんを拾い、慣れない子育てに奮闘するお話です。
本作とはまた少し違った、ほのぼのとした子育てファンタジーになっています。
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