第85話 異次元商店と大切な招待客
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【休憩地】★通知:新規解放あり
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:機能解放通知
登録名:湖畔休憩地
★新規解放★
新規解放:異次元商店
サービス名:《みなみうり商店》
解放条件:売店営業開始/商品販売実績
案内:異次元商店《みなみうり商店》が、あなたのお店へ訪問できるようになりました
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「キター!」
小坂が両手を上げた。
「お前、新規解放とか好きだよなぁ」
「当たり前でしょー! これまでこの新機能解放に振り回されてきましたけど、役に立たなかった機能はありません!」
興奮した小坂が俺の隣まで椅子を寄せてくる。
管理室には俺たちしかいないが、外まで聞こえそうな勢いだった。
「落ち着け。今から中身を見るから」
俺は《異次元商店》の項目を開いた。
表示が一度だけ揺れ、機能詳細へ切り替わる。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:機能詳細
機能名:異次元商店《みなみうり商店》
提供形式:異次元商人による御用聞き訪問
来訪先:現在展開中の休憩地
呼出費用:休憩地ポイント1,000
到着時期:呼出確定後、即時
取扱区分:道具/回復用品/食材/技能用品/休憩地外部実装品
商品由来:訪問先世界の通常手段では入手できない異世界商品
商品適応:訪問先世界の法則と利用環境へ自動適応
購入通貨:休憩地ポイント
商品価格:訪問時に提示
商品構成:訪問ごとに変動
説明:《みなみうり商店》の商人が御用聞きとして来訪し、現在の休憩地に適した希少商品を提示します。取扱商品には、道具、回復用品、食材、技能用品のほか、【休憩地】へ機能や設備を後付けする外部実装品が含まれます。いずれも訪問先世界では通常入手できません。
<取扱商品例>
・回復薬《月露の小瓶》
・異世界食材《虹蜜芋》
・技能書《特殊調理》
・外部実装核《湯けむり石》
・用途未判定品《昨日の鍵》
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「みなみうり商店……」
俺と小坂は顔を見合わせた。
それから、もう一度、商店名と説明文を最初から読み直す。
「なんて胡散臭い……」
小坂が今度は椅子へ深く座り直した。
だが、俺は《みなみうり商店》の文字から目を離せない。
異次元から商人がやってきて、この世界では手に入らない道具を並べるのだ。
胡散臭い。それは間違いない。
それでも、どんな商人が、何を持って来るのか見てみたかった。
「先輩って、こういうのめっちゃ好きですよね……。異界人材の時もそうでした」
「ほっとけ。これにワクワクしない男子などおらん」
「いますよ、たくさん。それと、これを使うのは絶対に私が見ている時にお願いしますね!」
「分かった、分かった。約束する」
俺が一人で呼び出さないと答えても、小坂はまだ疑わしそうにこちらを見ている。
「しかし、これ見てみろよ」
俺は取扱商品例を上から読み返した。
「名前だけ見ても、全然分からんな……」
「《月露の小瓶》や《虹蜜芋》は、まだ効果や味を予想できそうです。《特殊調理》も名前のとおりでしょうけど……《昨日の鍵》って何を開けるんですか」
「昨日に戻る鍵だったりしてな」
「怖いことを言わないでください。それに、これ全部、湖畔ポイントでの購入ですよ。呼ぶだけで1,000ポイントなのに、商品代は別です」
俺たちは二十人の異界人材を雇い、施設の設備更新にもポイントを使おうとしている。
面白そうだからという理由だけで、正体の分からない商人へ使える余裕はなかった。
「何にしても、すぐには利用できないサービスだな、これ」
「はい。まずはポイントを貯めましょう。呼ぶ時は絶対に一緒ですからね」
小坂が念を押したところで、その日の確認は終わった。
◇
それから数日後の7月23日、日曜日。
黒瀬が休みを取れたと連絡をくれたため、俺は十階層の湖畔休憩地へ招待した。
来訪が決まった時点で、その日に勤務するスタッフへ話を通してある。
「今日来る黒瀬さんは、俺と小坂がずっと世話になってきた大事な人だ。施設の設備を作る時にも、何度も力を貸してくれた。VIP待遇で頼む」
こよりをはじめ、説明を聞いたスタッフはそろって了承してくれた。
海路とチカは食事の準備へ入り、比志野は二階の客室を確かめ、若井は売店の商品を選びやすいよう整えている。
俺は到着予定時刻に合わせ、中央広場の転移ゲート前へ向かった。
ゲートの光が収まると、濃い色の防護ジャケットを着た黒瀬が姿を現す。
足元は探索用のブーツで、背中には宿泊用の荷物をまとめたリュックがあった。
「黒瀬さん、お待ちしていました」
「おう。ありがとう、世話になる」
黒瀬はゲート前から中央広場を見渡した。
武器や防具を扱う商店、回復用品店、宿泊施設が並び、その間を装備姿の探索者が絶えず行き来している。
「十階層は前に旅行で来たくらいだからな。かなり久しぶりだ」
「ここは場所限定ですけど、地上でいえばリゾート地っていうイメージですよね」
「地上より物騒なリゾートだけどな」
黒瀬は笑い、俺たちは中央広場を抜けて北へ向かった。
「この辺りは魔物が出るのか?」
「出ますけど、この周辺はダンジョン都市の勢力圏内なので、滅多に姿を見せません。湖畔休憩地の方はそこそこ出ますが、整備された道を外さなければ危険はかなり減ります」
「道を外れたら、普通のダンジョンってことか」
「そういうことです。見た目が観光地でも、ダンジョンなのは変わりません」
中央広場から北へ進むと、建物の数が減り、湿った風に混じる水の匂いが強くなっていく。
森の切れ目から光を返す湖面が見えた時、黒瀬が足を止めた。
「おお……」
地上の空とは違う疑似太陽の光が、広い湖へ降り注いでいる。
湖の西岸には白い宿泊棟が並び、その前へ水上デッキと船着き場が延びていた。
黒瀬がそちらを指す。
「あれは、企業のマリンリゾートか?」
「そうです。東都レジャー開発が管理する大規模マリンリゾートですね。宿泊棟だけじゃなく、湖上遊覧や水辺の体験施設もまとめて運営しています」
リゾート区画の外周には魔物避けの設備が並び、装備をそろえた警備班が巡回していた。
「ダンジョン内で、あそこまで大規模に安全を確保するとは、さすがだなぁ。本来なら、お前たちの湖畔休憩地も、維持だけで大半の労力を使うんだが……」
黒瀬は湖の反対側へ続く道を見た。
「それもまた、インチキレベルのスキルだよなぁ」
「そこは否定できませんね」
俺は苦笑しながら、北側草地へ続く道を進んだ。
しばらく歩いたところで、黒瀬が前方の道と背後を確かめる。
「探索者がちらほらいるな。こっち側には、企業の施設はなかったはずだろ」
俺たちの前にも後ろにも、数人ずつの探索者が同じ方向へ歩いている。
大きなリュックを背負った者もいれば、装備を外して気軽に話しながら進む者もいた。
「ああ、多分うちの利用者です」
「ほんとか?」
黒瀬が改めて前方の探索者を見る。
「湖畔休憩地の周辺まで行けば、もっと驚きますよ」
森の脇を抜け、北側草地へ入った。
その先に、湖畔休憩地の三階建て宿泊施設が見えてくる。
同時に、黒瀬の足が止まった。
宿泊施設を囲む安全地帯の外側に、色とりどりの簡易テントが並んでいる。
入口近くの草地だけでは収まらず、少し離れた湖側にも小さな天幕や簡易シェルターが広がっていた。
「なんだこれは……。湖畔休憩地の周りに、簡易テントがいっぱい建ってんぞ……」
「いやぁ、これ、入場待ちと便乗宿泊者たちなんですよね……」
「宿泊予約がない人まで、ここで夜を越しているのか?」
「宿泊予約を取れなかった人が、安全地帯の外に自分でテントを張って泊まっているんです。こちらの利用者ではないので、うちから宿泊場所を貸しているわけではありません」
安全地帯の境界付近には、ここから先は安全地帯外であり、魔物に襲われる危険があると記した看板も出している。
それでも、中央広場へ戻るより、湖畔休憩地の近くで夜を越したいと考える探索者が後を絶たなかった。
「危ないだろ。いくら施設の近くだからって、外は安全地帯じゃないんだぞ」
「そのはずなんですけど、どうもこのスキルの影響は、きっかり安全地帯の中だけで終わっていないみたいなんですよね」
「周囲にもあるのか?」
黒瀬がテントの向こうに広がる草地へ目を向ける。
「どうもそのようです。安全地帯と同じ効果が出ているわけじゃありません。ただ、宿泊施設をここに出してから、安全地帯の周辺でも魔物の目撃が減ってきました」
正確な範囲は分からない。
境界を一歩出れば魔物を防ぐ壁はなく、入域権限も働かない。
それでも、以前は湖と森の両側から魔物に見つかりやすかった北側草地で、施設近くまで寄ってくる個体が目に見えて減っている。
「この周辺、魔物が寄りつかなくなってきてるんですよ。安全地帯の効果が、外側にも薄く作用しているんじゃないかと考えています」
「マジか……」
黒瀬はテント群と宿泊施設を何度も見た。
「恐ろしいまでのスキル効果だな、おい」
「俺たちも、どこまで影響しているのか調べないといけないと思っています。外に泊まって安全だと保証するつもりはありません」
「それがいい。勘違いした人が装備もなしに寝始めたら、何かあった時に洒落にならん」
テントの間を通り、安全地帯の入口へ近づく。
入場待ちの探索者たちが黒瀬を連れた俺へ道を空け、正面玄関までの入口回廊が伸びた。
黒瀬はその場で、三階建ての宿泊施設を見上げる。
「やっぱり、ここに建っている休憩地は、地上とはまた違って見えるな」
黒瀬工務設備の作業場でも、木場の旧工場でも、この建物を見てもらっている。
だが、湖と森を背にして、多くの探索者を迎えている姿を見せるのは今日が初めてだった。
俺は正面玄関へ手を向けた。
「俺と小坂と、それから黒瀬さんの力を借りてできたこの宿泊施設――湖畔休憩地は、黒瀬さんを歓迎します!」
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