第81話 湖畔休憩地、正式オープンから1週間
7月8日、土曜日。
湖畔休憩地が正式オープンしてから、ちょうど一週間が経った。
午後10時を過ぎたというのに、宿泊施設の外にはまだ探索者が大勢いる。
安全地帯の境界前では、次の入場案内を待つ列が湖側へ折れ、野外休憩所では食堂の空席通知を待つ人たちが待っていた。
俺と小坂は、受付裏の事務室で運営管理アプリを開いている。
今日の数字は、画面を下へ送っても一度では収まらなかった。
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【湖畔休憩地・本日実績】
表示種別:営業実績
集計時刻:7月8日(土)午後10時
利用者数:318名
一週間平均:306名/日
屋内一時休憩:176人時×2,000円=352,000円
屋外一時休憩:258人時×1,000円=258,000円
シャワー:91件×2,400円=218,400円
食堂:231食/平均3,500円=808,500円
湖畔バーベキュー:10組42名×12,000円=504,000円
二人部屋宿泊:15室×48,000円=720,000円
本日売上:2,860,900円
営業利益見込み:1,248,000円
本日獲得:2,984ポイント
現在残高:19,539ポイント
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営業利益は、食材、消耗品、魔石、決済手数料を引いた現時点の見込みだ。
食堂の夜営業が終わったため大きくは動かないが、これから宿泊客の追加注文が入れば少し増える。
「めちゃくちゃ忙しかったんですから、そりゃこうなりますよねぇ」
小坂が椅子の背もたれへ体を預けた。
「売上もすごいが、一日で318人か。最初の週末営業より人が増えてるぞ」
「一週間の平均でも306人です。先輩、毎日三百人ですよ」
「予想はしてたが、ここまで集まるとは思わなかったな。三日もすれば見慣れて、少しは落ち着くと思ってた」
「今も進行形で外にいっぱいいますよ。もう午後10時を回ってるのに……」
入口側から受付番号を呼ぶ声が届き、続いて何人もの足音がロビーへ入ってくる。
小坂の言う通り、今日の営業はまだ終わっていない。
この一週間の騒ぎは、正式オープン初日の昼から始まった。
湖畔バーベキューは、もともと宿泊者限定のメニューとして用意していた。
ところが、食堂の大きな窓からは湖側の白いテントと大型《魔道炭火コンロ》がよく見える。
相原たちがロックホーン・バイソンの骨付き肉を焼き始めると、金色と赤色の光が肉の周りへ舞い、食堂にいた利用者が次々と窓際へ集まった。
自分たちも料金を払うから食べさせてほしい。
同じ内容でなくてもいいから、今日の枠を作ってほしい。
そんな希望が受付へ相次ぎ、俺たちは初日の夜から一日10組限定で一般向けにも提供することにした。
最初の受付方法は先着順だ。
空いた大型コンロと野外休憩所を組み合わせ、食材を用意できる10組だけを受け入れた。
その夜、野外休憩所で撮られた動画がYへ投稿された。
暗くなった湖畔で、焼けた魔物肉から金色の光がこぼれ、歓声を上げる探索者の向こうに湖面が映っている。
投稿者が付けた名前は、【光る湖畔BBQ】。
正式なメニュー名ではないが、覚えやすかったため、その日のうちに同じ言葉が何度も使われた。
しかも肉が、地上では節約ステーキの定番として知られるロックホーン・バイソンだと分かり、動画は翌朝までに探索者界隈の外へも広がった。
翌日から、入場待ちの列は途切れなくなった。
大型カメラとマイクを持った報道関係者も増え、入口の外から撮影を続けている。
取材はすべて断っているが、俺たちがコメントを出さなくても、利用者が投稿する料理や館内の動画だけで話題が膨らんでいった。
「初日に、もう一度募集を出しておいて正解でしたね」
小坂の言葉に、俺は頷いた。
十人では足りなくなるかもしれない。
その予感だけで、7月1日の夜に異界人材の追加募集を出していた。
三日後に届いた候補者から、調理三人、受付三人、清掃四人を選び、その日のうちに契約した。
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【追加契約者・7月4日勤務開始】
来戸輝・32歳・男性・黒髪の長身/調理/宿場厨房の調理経験/95ポイント
五里蔵壮介・36歳・男性・赤茶髪の大柄な体格/調理/精肉と大鍋調理/90ポイント
森野蜜香・25歳・女性・栗色の巻き髪で小柄/調理/副菜と甘味作り/80ポイント
犬飼路美・21歳・女性・茶髪のポニーテール/受付/宿泊客の案内経験/50ポイント
柔木姫香・24歳・女性・淡い金髪のボブで細身/受付/予約台帳と問い合わせ/55ポイント
和井路礼司・29歳・男性・黒髪に眼鏡/受付/夜間会計と宿直経験/60ポイント
珍波弦・34歳・男性・刈り上げた髪と広い肩幅/清掃/浴室とリネン運搬/65ポイント
熊野真希・30歳・女性・濃い茶髪の長身/清掃/客室清掃と洗濯/60ポイント
秘山静香・27歳・女性・黒髪のボブで細身/清掃/清掃後確認と備品補充/55ポイント
井田洋・23歳・男性・茶色のくせ毛で中背/清掃/屋外区画と廃棄物回収/60ポイント
追加十名日額:670ポイント
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新しく加わった十人は、火曜日の午後から先任者と一緒に働き始めた。
異界人材二十人を午前6時から午後2時、午後2時から午後10時、午後10時から午前6時の三交代に分け、混みやすい午前10時から午後10時までは俺と小坂も館内外へ入る。
夜中は食堂の品数を絞り、受付、宿泊客対応、清掃、翌朝の仕込みを続ける形で、どうにか24時間営業を守った。
「人の方は、二十人でしばらく耐えられそうだな」
「急なお休みが出た時の交代要員は欲しいですけど、初日よりは休憩を取れるようになりました」
「問題は仕入れだったな」
俺がそう言うと、小坂が笑った。
「仕入れは、本当に危なかったですからね」
◇
正式オープン初日の夜。
俺と小坂は、食堂の営業を海路たちへ任せ、倉庫と厨房の在庫を確認していた。
正式営業に備えて、倉庫には消耗品と食堂用の食材をかなり多めに入れていた。
それでも肉、野菜、米、飲料を合わせると、初日だけで用意した食材の三割近くを使っている。
小坂は厨房在庫の画面を開き、翌日以降の予約数を重ねた。
「先輩。この使い方が続くと、三日で食材が底をつきますよ」
「まいったな。水曜の定休日にまとめて仕入れる予定だったのに」
最初の水曜日も営業すると決めたばかりだ。
俺か小坂が地上へ戻れば、その間は現場の管理者が一人減る。
大量の食材を持って十階層まで往復するなら、運搬を担当する人員も必要になる。
「そんな時に休憩地スキルですよ!」
小坂の声が倉庫へ響いた。
「何を期待してるんだ?」
「毎回こういう時に、ご都合展開よろしくアップデートが入ったりしてるんですよ!」
「そんなご都合展開があってたまるか」
「とりあえず確認ですよ! 今日のこの混雑っぷりなら、レベルが上がっていてもおかしくないです」
「……それは、まあそうか」
俺が【休憩地】スキルを意識すると、視界に半透明の画面が開いた。
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【休憩地】★通知:新規解放あり
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:成長通知
登録名:湖畔休憩地
成長結果:休憩地Lv.9→休憩地Lv.10
到達理由:正式営業実績/大規模利用/長時間営業体制/宿泊・食堂満足度
★新規解放★
新規解放:異次元倉庫Lv.1
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小坂が俺の隣へ来た。
「詳細です! 先輩!!」
俺は小坂の圧を受けつつ、《異次元倉庫Lv.1》を開いた。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:機能詳細
機能名:異次元倉庫Lv.1
接続先:現在展開中の休憩地倉庫
機能:管理者指定地点への物資搬入口展開
展開場所:任意
搬入対象:休憩地運営用の資材/食材/消耗品
搬入不可:生物
容量:接続先倉庫の空き容量まで
収納判定:スキルによる自動判定
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「きたー! ご都合展開!!」
「なんだかなぁ……」
異次元倉庫は、現在の休憩地倉庫を広げる機能ではなかった。
俺が指定した場所に物資搬入口を出し、そこから入れた資材や食材を、十階層の倉庫へ直接送る機能だ。
人や動物は入れず、倉庫に収まらない量や運営と無関係な物もスキル側で拒否される。
「これなら、俺一人で地上へ戻って仕入れができるな」
「はい! 先輩が木場の地上本拠地のところで入口を出せば、運搬の人は十階層まで来なくて済みます」
俺はその場で取引先の卸業者へ連絡し、翌朝一番の追加発注を頼んだ。
卸が持ってきた食材を木場本拠地で受け取り、その後検品を済ませた食材を異次元倉庫へ入れ、湖畔側ではスタッフが倉庫から厨房の冷蔵庫と冷凍庫へ運ぶ。
その手順なら、地上と十階層を大人数で往復せずに済む。
「これで、なんとかいけますね!」
小坂の声を聞いて、俺はようやく空きの目立つ棚から離れた。
◇
「あれがなかったら、初回の定休日まで食材が持たなかったな」
小坂は食堂の売上一覧を開いている。
通常メニューの注文数も多いが、その横には毎日上限へ達した湖畔バーベキューが並んでいた。
「まさか湖畔バーベキューが、あそこまでバズるとはなぁ」
「あれはバズって当然ですよ! だって魔物食が、あそこまで化けるんですもん。それも、ここでしか食べられないときたら、そりゃみんな来るでしょ?」
食堂の窓の向こうでは、最後の一組が焼き上がった肉を撮影している。
金色の光が夜の湖畔へ散るたび、野外休憩所からも歓声が上がった。
地上では安い代用肉だったロックホーン・バイソンが、海路の魔力戻しと湖畔のコンボによって、この場所でしか食べられない料理になった。
ワイルドボアにも、まだ試していない部位や調理法がある。
ほかの魔物食材にも、地上では失われている味が残っているかもしれない。
「となると、今後の食事についても、ある程度は方向性が固まってきたな」
「どういう方向性ですか?」
俺は食堂の注文一覧から、湖畔バーベキューの完売表示を見た。
「ダンジョンで開業する宿屋、だぞ? だったら魔物食をメインテーマにするべきだろう」
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