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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第8話 衛生コンボと魔石水タンク

 次の日、俺は仕事帰りにホームセンターへ寄った。


 昨日のメモアプリには、でかでかと「衛生コンボ」と書いてある。

 その下に、洗い場、清水、廃棄処理、食材保管、簡易トイレと続いていた。


 正直、手間はかなりかかる。

 だが水の供給一つにとってみても、現時点では水のペットボトル頼みで、早急の対応を行わなければならないことだけは確かだ。

 

 それにここを避けると食事など諸々提供は難しくなる。


 ダンジョンの中でご飯を出す。

 しかも、知らない探索者にも食べてもらう。

 そう考えると、旨いだけでは済まない。


 「そう言えば…ダンジョン内の飲食店はそういう開業届けって必要なんだっけ」


 あとで法律関連も調べておかないとな、と思いつつ俺はホームセンター内を物色し始める。


 「まずはアウトドア関連からだな」

 

 俺はアウトドア用品売り場を一通り見て、その後資材売り場を見てと、行ったり来たりした。

 野外用のシンクは思ったより種類がある。

 水をためる大型タンクも、畑用、災害用、キャンプ用で微妙に形が違う。

 それにサイズによって相当大きさも変わるし、どこまで提供するかによって用途も変わってくる。

 色々と考えつつ、俺は簡易トイレの棚の前で少しだけ立ち止まった。


 「……これを買う日が来るとはな」


 今日は何を買うかイメージを膨らませるために来ただけだ。

 サイズの確認や搬入方法を考えつつ、俺はその日は閉店間際まで店内をウロウロしつつ、帰宅した。


 翌日仕事が終わり、手配していた4トン車を引き取りに行った。

 俺の持っている乗用車ではとてもじゃないが運べないサイズだったので、仕事で付き合いのあるトランスポート専門の会社に相談して、格安で借りてたのだ。


 「意外とコンパクトだな」


 素材卸の仕事をやっているとこういう大型車に属する輸送車を扱う必要があり、俺は新卒一年目で教習所で免許を取らされていた。

 その後も大型クランの遠征後に持ち込まれる大量の素材を仕入れるためにも、ちょくちょく使用していたため、運転感覚も鈍ることなく問題なく4トントラックを取りまわせていた。


 そして目星の物品をホームセンターで購入して、その場で積み込みをしてもらい、その場を後にした。

 

 「さて、次の場所に移動だな」


 ここから一時間ほどの距離にある河川敷へ俺は向かった。

 

 「えーと…鍵は…ここだな」


 俺は河川敷にアクセスする際に、設置されてあるポールチェーンのロックを外す。

 実はここ、会社が所有している空き地で、大型魔物をオークションなどで競り落とした後、解体するためにちょくちょく使っている場所だった。


 大型車をそのまま進入させ、空き地で止まる。

 

 「よし、まずは休憩地スキルを展開っと」


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:地上使用確認

 現在状態:未展開

 地上通常展開:不可

 設備検証用仮展開:使用可能

 備考:登録設備の確認、配置調整、コンボ判定のみ可能

 ――――――――――――――――――――


 空き地には薄く休憩地スキルの範囲と、登録してある備品の場所が表示されていた。

 実はこのスキル、展開前のこのタイミングで登録済みの備品は簡単に動かすこと出来るのだ。

 設備検証用の仮展開機能が組み込まれていて、自由にレイアウトを組み替えることができるため、とてもありがたい機能だ。


 俺は確定しスキルを発動すると、目の前にはあの休憩地が登録設備込みで出現した。


 ここからは力作業だ。

 4トン車に積んでいた荷物を、手動の油圧式フォークで順番に下ろしていくいく。

 そして休憩地スキルの範囲内に持って行って登録を繰り返していく。


 ひと通り配置を終えたところで、表示が開いた。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:設備登録確認

 登録候補:

 野外用シンク

 大型水タンク

 簡易ボックストイレ

 冷凍機能付き冷蔵庫


 >登録しますか?

 ――――――――――――――――――――


 「登録」


 声に出して承認する。

 備品類の登録を済ませ、一旦スキルを停止させた。

 すると先ほどまであった備品類は全て跡形もなく消えていた。


 「改めて見るとすげぇスキルだよなぁ」


 最初はなんだこれ的なスキルだと思っていたが、レベルが上がるにつれてその隠された凄さに気づかされる。


 再度スキルを立ち上げて、薄く表示されている設備類の位置を見た。


 「今のところは塀とか何も無いから入口動線は考えなくてもいいか」


 登録した設備は薄く実物大で表示されており、それに触れると移動可能状態になる。

 軽い力で簡単に動き、レイアウトがスキルの範囲内であれば自由に動かすことが出来る。


 俺はそれを見ながら、設備を動かしていった。


 シンクは調理台の近く、大型水タンクは邪魔にならない場所、簡易トイレは食事場所から離れた場所に置きたい。

 冷蔵庫は直射日光を避けられるように、タープの影に入る位置を想定した。


 地上の河川敷なのに、頭の中では勝手に十階層の湖畔に置き換えている。

 湖が見える向きにタープを張り、客の席を寄せすぎず、シンクとトイレまでの通路を潰さない。

 実際に置くとなると、買う時よりも考えることが多かった。


 一通り場所を決めて、登録すると新しい表示が追加されていた。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:コンボ成立

 登録名:湖畔休憩地

 新規コンボ成立:衛生コンボ ←NEW!

 条件達成:洗い場/清水供給/廃棄処理/食材保管/簡易トイレ

 解放効果:衛生水供給/排水・排せつ物処理/食材保管補助

 備考:衛生水供給には魔石を消費

 ――――――――――――――――――――


 「来た」


 思わず声が出た。


 設備を買っただけでは、たぶん足りなかった。

 シンク、水タンク、トイレ、冷蔵庫がそろっていても、置いただけではただの設備に過ぎない。


 休憩地の中で、清潔に洗えて、使った水を処理でき、食材を傷ませず、人が安心して用を足せる。

 そこまで揃って、ようやく衛生コンボなのだろう。


 その時、大型水タンクの側面に小さな金属枠が現れた。

 買った時にはなかった部品だ。

 丸い穴があり、そこに魔石を入れろと言わんばかりの形をしている。


 表示も続いた。


 ――――――――――――――――――――

 魔石水タンク

 表示種別:設備詳細

 投入魔石:なし

 供給可能水量:0リットル

 供給先:未設定

 排水処理:休憩地側で処理

 ――――――――――――――――――――


 「魔石か。そう言えば…」


 俺は鞄から、最低ランクの魔石を一つ取り出した。

 市場価格で百円前後。

 ホーンラビットや低階層の雑魚から取れる、一般的に価値が殆ど無い、観賞用の石扱いだ。


 それを投入口に落とす。

 かちり、と音がした。


 ――――――――――――――――――――

 魔石水タンク

 投入魔石:最低ランク

 供給可能水量:1000リットル

 供給先:洗い場/簡易トイレ/調理用水

 排水処理:有効

 ――――――――――――――――――――


 「千リットル?」


 表示を二度見した。


 百円程度の魔石で、千リットル。

 休憩地内の設備に流すための水だ。

 それでも、飲食をやる側からしたら十分すぎる。


 俺は管理表示を操作し、供給先を洗い場に設定した。


 そしてシンクの蛇口をひねる。


 水が出た。


 細いがちゃんと流れている。

 手を濡らし指先でこする。

 匂いはなく、ぬめりもない。

 少なくとも、手洗いや器具洗いには問題なさそうだ。

 恐る恐る口にその水を含み、そして飲み込んだ。


 「普通の水道水、だなこれ」


 次に、簡易トイレの設定を開く。


 ――――――――――――――――――――

 簡易ボックストイレ

 表示種別:設備詳細

 給水:魔石水タンクより供給

 排せつ物処理:休憩地側で処理

 回収作業:不要

 備考:安全ロック中は承認者のみ使用可能

 ――――――――――――――――――――


 「回収作業、不要? 休憩地側で処理ってことは…考え方的には家の水洗トイレと同じなのか」


 これは大きい。


 ダンジョンでトイレを用意する時、一番面倒なのは処理だ。

 置くだけなら簡単だが、使ったあとのことを考えると一気に現実に戻される。


 それが、休憩地側で処理される。

 どこへ消えているのかは分からない。

 分からないが、少なくとも俺が袋に詰めて持ち帰る必要はない。


 「これは……かなりの利点だな」


 旨いご飯よりも、派手な設備よりも、こっちの方が大事かもしれない。

 手を洗えて、トイレが使えて、使った水を処理できる。

 さらに食材を冷やしておけるなら、湖畔休憩地は野営場所から一段上がる。


 俺は冷蔵庫の表示も確認した。


 ――――――――――――――――――――

 冷凍機能付き冷蔵庫

 表示種別:設備詳細

 分類:食材保管設備

 状態:登録済み

 電源供給:登録済み発電機より供給

 魔石充電:使用可能

 投入魔石:なし

 稼働状態:待機

 保管補助:有効

 備考:休憩地内での食材劣化を抑制

 ――――――――――――――――――――


 「発電機って、あの簡易キッチンの登録に入ってたやつか」


 最初に休憩地を作った時に登録した簡易キッチンは、携帯コンロや作業周りをまとめた設備扱いだった。

 照明や小物の充電に使う小型発電機も、スキル判定ではその付属設備に入っていたらしい。


 表示をたどると、発電機側にも新しい項目が増えていた。


 ――――――――――――――――――――

 登録済み発電機

 表示種別:設備詳細

 分類:電源設備

 魔石充電:使用可能

 投入魔石:なし

 供給先:未設定

 備考:休憩地内の登録設備にのみ給電可能

 ――――――――――――――――――――


 水タンクと同じだ。

 魔石を入れれば、水だけでなく電気にも変えられる。

 ただし外へ持ち出して売電は無理そうで、休憩地の登録設備を動かす専用の電気らしい。


 俺は最低ランクの魔石をもう一つ取り出し、発電機の投入口へ落とした。


 ――――――――――――――――――――

 登録済み発電機

 魔石充電:最低ランク

 充電残量:100%

 供給先:冷凍機能付き冷蔵庫

 給電状態:有効

 ――――――――――――――――――――


 冷蔵庫の表示も変わる。


 ――――――――――――――――――――

 冷凍機能付き冷蔵庫

 電源供給:有効

 稼働状態:冷却中

 保管補助:有効

 備考:休憩地内での食材劣化を抑制

 ――――――――――――――――――――


 冷蔵庫まで万能化したわけではない。

 それでも、魔石で水と電気を回せるなら話は変わる。

 休憩地内で食材を傷ませにくくする補助が入るだけでも十分だ。


 「洗い場、トイレ、冷蔵」


 俺はメモアプリを開き、衛生コンボの下に書き足した。


 衛生コンボ成立。水とトイレと食材保管の問題が相当部分において解決した。

 

 「次は、湖畔で本番だな」


 俺はスキルを停止してそのまま帰宅した。

読んでいただきありがとうございます。

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