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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第7話 買い出しと衛生コンボ

 金曜日の昼過ぎ、俺はいったん地上へ戻った。

 食材と消耗品を少しだけ買い足し、夕方にはまた十階層の湖畔へ向かった。


 本当はタープと椅子を置いたまま、もう少し時間を空けて確認するつもりだった。

 だが、買い出しが思ったより早く済んだ。

 せっかくなら今夜も使ってみることにする。


 湖畔へ戻ると、タープも椅子も昼に置いていったまま残っていた。

 足元には【休憩地】の淡い光も残っている。


 「おお……ちゃんとある」


 安全ロックも有効のままだった。

 承認者になっている俺は、そのまま光の中へ入れる。

 とりあえず、設備を置いたまま離れることはできるらしい。

 盗まれた形跡もない。

 気になっていたことが一つ片付いた。


 夜、タープの下で夕食の準備をしていると、あの三人が来た。

 今度は手ぶらではない。


 「差し入れです」


 差し出されたのは、狩ったばかりのホーンラビット二羽だった。

 昨日助けた礼と、昼に食事まで出してもらった礼らしい。

 ありがたく受け取り、その日のスープ用に下処理する。

 その後、日曜に撤収するまで新しい客は来なかった。


 土日は時間の許す限り【休憩地】を使い、設備収納や安全ロック、維持時間なんかを試して過ごした。

 日曜の帰りには、タープや椅子も含めて登録済み設備を設備収納へ入れた。



 ◇



 そして休み明けの月曜日夜、俺は自宅の床に買い物袋を並べていた。


 月曜日からは普通に仕事だ。

 朝から素材相場の更新を確認し、昼には取引先へ見積もりを送り、夕方にはワイルドボアの皮の品質区分について電話で説明した。


 その間も、頭のどこかで湖畔休憩地のことを考えていた。


 あの三人、また来るだろうか。

 来るなら何人で来るのか。

 食事は足りるのか。

 水は足りるのか。


 会社のパソコンで食材リストを作りかけて、さすがに仕事中にやることではないと思って閉じた。


 そして退勤後、スーパーとホームセンターに寄った。

 買ったものを床に並べる。

 食材、調味料、使い捨ての食器、ゴミ袋、衛生用品、水回りの道具。


 「……店か?」


 ただの休日探索に持っていく量ではない。

 まあ、湖畔休憩地をこのまま続けるつもりなら、むしろまだ少ない方なのかもしれない。

 俺は床に座り、ステータスを開いた。


 【休憩地】の項目を押し、管理表示を開く。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:基本スキル情報

 登録名:湖畔休憩地

 休憩地Lv.3

 現在状態:未展開

 登録地点:十階層湖畔

 範囲:半径約10メートル

 最大維持時間:24時間

 成立コンボ:休息コンボ/食事コンボ/飯テロコンボ

 設備収納:使用可能

 ――――――――――――――――――――


 「未展開、か」


 登録地点の湖畔から離れている以上、今は未展開扱いだが、地上からでも管理表示だけは確認できる。


 表示を下へ送る。


 ――――――――――――――――――――

 登録済み設備

 タープ

 ローチェア

 折りたたみテーブル

 ハンモック

 簡易コット

 簡易キッチン

 作業台


 収納状態:収納中

 次回設置時:収納設備から前回配置を候補表示

 ――――――――――――――――――――


「収納中……ちゃんと入ってるな」


 日曜にまとめて収納した設備も、全部登録されたままだ。

 次に湖畔へ行けば、前回の配置も候補として出してくれるらしい。


 問題は、今日買ってきたものだ。

 俺は使い捨ての食器を持ち上げる。


 「これは設備じゃないよな」


 先に試した通り、食材や調味料、ゴミなんかは設備収納には入らない。

 使い捨ての食器や衛生用品も、登録済み設備の一覧には出てこなかった。


 つまり、設備が楽になった分、次に気になるのは毎回持ち込む物の方だ。


 食材。調味料。食器。ゴミ袋。それに水。


 食事を出し続けるなら、買って運ぶだけでも終わらない。

 仕込みをして、食材を傷ませないようにして、使った器具を洗い、出たゴミを持ち帰る必要がある。


 休憩地が便利になるほど、逆に足りないものがはっきりしてきた。


 俺はノートパソコンを開いた。

 メモアプリを立ち上げる。

 必要なものを順番に書き出していく。


 食材、調味料、水、食器、ゴミ袋、手洗い、調理器具、保冷。

 最後に「料金」と「許可」と書いたところで、手が止まった。


 「ずっと試験営業というわけにもいかんしなぁ。これだってそこそこお金はかかっているし」


 今週末の土日を使って営業することは決めている。

 となると、何を提供するのか。

 それに対して、何なら金を払ってもらえるのかも考えないといけない。


 「……設備も増やしていくか。机や椅子も、もっと数が必要だろうし」


 食事だけじゃなく、横になって休みたい探索者もいるはずだ。


 今ある簡易コット一台だけでは足りない。

 人目を気にせず休めるよう、仕切り用の布なんかもあった方がいいかもしれない。


 「となると、簡易コットももう少し必要だな……」


 考えれば考えるほど、必要なものがどんどん増えていく。

 小一時間ほどメモを増やし、ひと通り考えがまとまったところで、もう一度ステータスへ目を向けた。


 ステータスの端に、小さな表示が出ている。


 ――――――――――――――――――――

 未成立コンボ候補


 衛生コンボ


 不足設備候補:

 洗い場/清水/廃棄処理/食材保管/簡易トイレ


 備考:

 食事提供の継続には、衛生管理の整備を推奨

 ――――――――――――――――――――


 「……だよな」


 表示に言われるまでもなく、分かっていた。

 洗い場も水も、食材を保管する場所もいる。

 

 それに簡易トイレ。

 ダンジョン内でのトイレは基本的に野外だ。

 俺も探索中は外で済ませることがある。

 だが、用を足すために安全な場所や仲間から離れたところをモンスターに狙われる探索者もいるらしく、初心者講習でも何度も注意された。


 「休憩地内でトイレを作るのも優先順位高めなんだよなぁ」


 食事の方は、少しずつ形になってきた。

 ワイルドボアのステーキ丼は三人にも好評だったし、飯テロコンボまで成立している。

 けれど、食事を出す場所は、味が良いだけでは続かない。

 

 手を洗えること。

 使った調理器具を洗えること。

 食材を傷ませないこと。

 ゴミを処理できること。


 どこかを雑にして食中毒でも出せば、店どころではなくなる。

 それに、ここは地上の店じゃない。

 水道も下水もないダンジョンの中だ。

 食事より先に考えておくべきことが、思っていた以上に多い。


 俺はメモアプリの一番上に「衛生コンボ」と大きく書く。


 「……次は、衛生設備か」

読んでいただきありがとうございます。

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