第7話 買い出しと衛生コンボ
金曜日の昼過ぎ、俺はいったん地上へ戻った。
食材と消耗品を少しだけ買い足し、夕方にはまた十階層の湖畔へ向かった。
夜、タープの下で簡単に営業していると、あの三人が来た。
今度は手ぶらではない。
「差し入れです」と差し出されたのは、狩ったばかりのホーンラビット二羽だった。
昨日助けてもらった礼らしい。
ありがたく受け取り、その日のスープ用に下処理する。
ただ、その夜以降、月曜日まで新しい客は来なかった。
土日もできるだけ【休憩地】を展開し、設備収納、安全ロック、維持時間、配置の候補表示を試した。
日曜の帰りには、現地に残していたタープと椅子も設備収納へ入れておいた。
そして休み明けの月曜日夜、俺は自宅の床に買い物袋を並べていた。
仕事は普通にある。
朝から素材相場の更新を確認し、昼には取引先へ見積もりを送り、夕方にはワイルドボアの皮の品質区分について電話で説明した。
その間も、頭のどこかで湖畔休憩地のことを考えていた。
あの三人、また来るだろうか。
来るなら何人で来るのか。
飯は足りるのか。
水は足りるのか。
会社のパソコンで食材リストを作りかけて、さすがに仕事中にやることではないと思って閉じた。
そして退勤後、スーパーとホームセンターに寄った。
買ったものを床に並べる。
食材、調味料、使い捨ての食器、ゴミ袋、衛生用品、水回りの道具。
「……店か?」
ただの休日探索に持っていく量ではない。
そりゃこれからダンジョン内で休憩拠点を作ろうとしているわけだし、むしろこれは少ない方だ。
俺は床に座り、ステータスを開いた。
【休憩地】の項目を押し、管理表示だけ開いた。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:基本スキル情報
登録名:湖畔休憩地
休憩地Lv.3
現在状態:未展開
登録地点:十階層湖畔
範囲:半径約10メートル
最大維持時間:24時間
成立コンボ:休息コンボ/食事コンボ/飯テロコンボ
設備収納:使用可能
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「未展開、か」
地上で休憩地を広げられるわけではない。
当たり前の話で自宅の六畳間にタープが出てきても困る。
表示を下へ送る。
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登録済み設備
タープ
ローチェア
折りたたみテーブル
ハンモック
簡易コット
簡易キッチン
作業台
収納状態:収納中
次回設置時:収納設備から前回配置を候補表示
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「収納中……ちゃんと入ってるな」
確認できるだけでもありがたい。
次に行った時も、休憩地側は前回配置を覚えている。
問題は、今日買ってきたものだ。
俺は使い捨ての食器を持ち上げる。
「これは設備じゃないよな」
表示を見ても、登録済み設備には出ない。
食材も調味料も同じだ。
つまり、こいつらは全部自分で運ぶ必要がある。
保冷用品、水回りの道具、ゴミ袋、衛生用品。
どれも食事を出すなら必要になる。
便利になった。
それは間違いない。
けれど、食事を出し続けるなら買い出しだけでは済まない。
仕込み、ゴミ処理、水の確保まで考える必要がある。
休憩地が育っても、俺が何もしなくていいわけではない。
むしろ、やることが見えてきた分だけ、増えている。
俺はノートパソコンを開いた。
そしてメモアプリを立ち上げる
メモアプリ内に必要なものを書いていく。
食材、調味料、水、食器、ゴミ袋、手洗い、調理器具、保冷。
最後に料金と許可を書いたところで、手が止まった。
「ずっと試験営業という訳にもいかんしなぁ。これだってそこそこお金はかかっているし」
今週末の土日を使って営業することは決めている。
なので、次回からは何を提供して、どこにお金を払ってくれるのかを見極めていかないといけない。
「………設備も増やして行くか。机やイスはもっと数は必要だろうし」
それ以外にも色々とあるが、簡易休憩場所もあったほうがいいかもしれない。
食べるだけじゃなく、安全に休める場所の需要もあるだろう。
「となると、仕切るための布や簡単に横になれるベッドも必要になってくるな…」
考えれば考えるほど、必要なものがどんどん増えていく。
そして小一時間ほど思案し、考えがまとまってきたところでステータスの情報を見た。
ステータスの端に、小さな表示が出る。
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未成立コンボ候補
衛生コンボ
条件:手洗い設備/清水/廃棄処理/食材保管
備考:
食事提供の継続には、衛生管理の整備を推奨
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「……だよな」
表示に言われるまでもなく、分かっていた。
ダンジョン内でのトイレは基本的に野外だ。
そのまま外で用を足すのが当たり前で、かく言う俺も先週潜った時は全て外で用を足していた。
だが、これが結構危険な行為で、初心者向けの講習では「ここで命を落とす者がいるから注意せよ」と口酸っぱく言われていたことを思い出す。
「休憩地内でトイレを作るのも優先順位高めなんだよなぁ」
今の所、ご飯についてはある程度の目途が立っている。
とりあえず作ったあのワイルドボアのステーキ丼も好評だった。
三人も喜んでくれたし、飯テロコンボまで成立している。
けれど、旨いご飯を出す場所は、旨いだけでは続かない。
手を洗えて、水があり、ゴミを持ち帰れて、食材を傷ませない。
それができないと、店にはならない。
つまりは衛生状態の向上が必須なのだ。
今のままだと食材も長期保存が難しく、衛生状態も向上しないままでいると、どこかで食中毒など一番おこしてはならない事態を招いてしまう。
俺はメモアプリの一番上に「衛生コンボ」と大きく書く。
「……次は、手洗い設備か」
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