第6話 設備収納と安全ロック
三人が帰った後、湖畔は急に静かになった。
さっきまで、タープの下には肉の焼ける匂いが漂い、三人が箸を動かす音がしていた。
今は、四枚の紙皿と、米粒のこびりついた飯盒、にんにく醤油のたれが残ったフライパンがあるだけだ。
「……さて、片付けるか」
俺は空の紙皿を重ねた。
その瞬間、目の前に表示が開く。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:運用実績集計
登録名:湖畔休憩地
食事提供数:4
再訪利用者数:3
利用者満足:高
成立コンボ:休息コンボ/食事コンボ
新規コンボ成立:飯テロコンボ
条件:魔物素材+地上食材+温かい料理+利用者の強い満足
持続タイプ:時間制限型
有効期限:24時間
備考:条件再達成により有効期限を延長
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「飯テロコンボ……」
肉を見ていた三人の顔を思い出す。
たれの染みた米を最後まで箸で集め、女探索者は最後の一口を惜しむように食べていた。
あれで成立しないなら、何で成立するのか分からない。
そして表示が、さらに続いた。
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【休憩地】Lv.2 → Lv.3
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:成長通知
範囲:半径約7メートル → 半径約10メートル
最大維持時間:20時間 → 24時間
食事提供ログ:解放
記録対象:料理名/提供数/利用者満足
食事満足度補正:解放
新機能:設備収納
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「……上がった」
思わず声が出た。
昨日は、助けた三人が休んでスープを飲み、「また来てもいいですか」と言ってくれた。
最後に『湖畔休憩地』という名前が登録され、そこでLv.2になった。
今日は、ワイルドボアのステーキ丼を食べてもらってLv.3だ。
戦って強くなるわけではない。
三人がここで休み、温かいものを食べ、また来てくれる。
今日みたいに丼を空にして、満足そうに帰っていく。
そういう積み重ねが、この場所を育てているらしい。
◇
足元の淡い光が、タープの張り綱を越えた。
ローチェアの後ろを抜け、湖へ向かう草地まで届いていく。
今までより、明らかに広い。
半径十メートルだ。
円で考えると、思っていたよりずっと面積がある。
椅子を置いて、作業台を置いて、簡易キッチンを置いても、光の線からはみ出さずに済む。
設置物が少しでも線をまたいだら、休憩地の設備として認められない。
この広さなら、十人や二十人が腰を下ろして休むだけなら問題なさそうだ。
タープを増やして、椅子を並べて、飯を食う場所と荷物を置く場所を分けることもできる。
ただ、店として考えるなら別だ。
火元、作業台、配膳場所、荷物置き、手洗い場。
それを全部置いて、人が歩く場所まで考えると、光の範囲は案外すぐに埋まる。
「それより、設備収納か」
俺がつぶやくと、表示が切り替わった。
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設備収納
登録済み設備を休憩地内へ収納できます。
収納対象:
タープ
ローチェア
折りたたみテーブル
ハンモック
簡易コット
簡易キッチン
作業台
収納不可:
食材
調味料
ゴミ
刃物
未登録品
魔物素材
他者所有物
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「おお……まじかこれ」
これは助かる。
めちゃくちゃ助かる。
正直、タープと椅子だけでも相当かさばる。
ハンモックと簡易コットまで毎回背負って来るなら、休憩地を育てる前に俺の足腰が終わってしまう。
「とりあえず、試すか」
まずは手近なローチェアを一脚選ぶ。
管理表示から収納を選んだ瞬間、椅子がふっと消えた。
「……おお」
本当に消えた。
さっきまで椅子があった草の上には何も残っていない。
慌てて表示を確認する。
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設備収納
収納中:
ローチェア ×1
状態:正常
取り出し可能
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「ちゃんと入ってるな」
次は取り出してみる。
ローチェアを選ぶと、さっきまで置いていた場所が薄く表示された。
そこを選ぶ。
消えた椅子が元の場所へ戻った。
「位置まで覚えるのか」
これは思っていたより便利だ。
今度は折りたたみテーブルを収納する。
これも問題なく消えた。
>ハンモック
>簡易コット
>作業台
一つずつ試していくが、登録済みの設備は全部収納できる。
最後にタープも試してみた。
張り綱ごと登録されているらしく、収納を選ぶとタープもまとめて消える。
急に頭の上が明るくなった。
「……これ、設営と撤収がほとんどいらなくなるな」
毎回タープを張って、椅子を出して、寝床を組んで。
帰る時には、また全部畳む。
それがなくなる。
登録さえしておけば、必要な設備を収納して持ち運べる。
休憩地を続けるなら、この違いはかなり大きい。
ただ、表示には収納不可の物も並んでいた。
「一応、こっちも試しておくか」
俺は残っていた調味料を手に取る。
――――――――――――――――――――
収納不可
対象:調味料
設備登録対象外です。
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「ですよね」
次に布で包んだ包丁。
>収納不可
紙皿をまとめたゴミ袋。
>収納不可
残っていたワイルドボアの肉も当然駄目だった。
「そこまで便利じゃないか」
まあ、それでも十分だ。
これで楽になるのは、タープや椅子みたいな大物の運搬。
食材や調味料、刃物、ゴミまで都合よく消してくれるわけではない。
言ってしまえば、休憩地で使う設備専用の倉庫だ。
それだけでも、背負ってくる荷物はかなり減る。
俺は収納した設備をもう一度取り出していった。
>タープ
>ローチェア
>折りたたみテーブル
全部、問題なく元に戻る。
これで設備収納の使い方はだいたい分かった。
◇
俺は紙皿を袋にまとめ、フライパンを拭いた。
飯盒も軽く汚れを落とす。
残ったたれは処理し、刃物は布で包んだ。
片付けながら、頭の中で買い足す物が増えていく。
今日だけなら、これでなんとかなった。
あの三人は、また来るかもしれない。
次は仲間を連れてくる可能性だってある。
昨日と今日だけでも、ここに人が戻ってくることは分かった。
食べたいと言われた時に、毎回「今日は何もない」と言うのは、たぶん嫌だ。
それに、飯を出すなら、味だけでは済まない。
手を洗う場所。
調理器具を洗う場所。
生肉を置く場所。
ゴミをまとめる場所。
考え始めると、必要なものが一気に増えた。
「……飲食店って、すごいんだな」
今さらそんな感想が出る。
中央広場の食堂は高い。
高いが、あれは場所代だけではない。
食材を運び、保管し、調理して、片付けて、ゴミを地上まで持ち帰る。
その手間が、全部料金に入っている。
設備は収納できるようになった。
だが、食材も水も消耗品も自分で持ってくるしかない。
俺は空になった保冷バッグを見る。
保冷バッグ一つと、その場の思いつきだけで続けるには、さすがに甘い。
どのみち、一度地上へ戻って買い出しをする必要がある。
荷物をまとめ終えてから、俺はタープと椅子を見た。
全部収納して帰ることもできる。
さっき試したから、それはもう分かっている。
ただ、もう一つ気になることがあった。
Lv.3になって、最大維持時間は二十四時間になった。
なら、俺がここを離れている間も【休憩地】そのものは残るのか。
そして設備を設置したままでも問題ないのか。
「……こっちも試しておくか」
どうせ設備収納はいつでも使える。
今日はタープと椅子だけ、このまま残して帰ってみることにした。
明日戻ってきて、そのまま残っていればいい。
もし何か問題があるなら、それも今のうちに知っておきたい。
ただし、盗まれるのは困る。
タープも椅子も安くはない。
「そこだけが問題だよな」
ダンジョン内に荷物を置きっぱなしにするなんて、普通ならやらない。
モンスターより人間の方が厄介なことだってある。
誰かに持っていかれたら、設備収納が便利だろうと意味がない。
そんなことを考えながら、俺は荷物を肩に掛けた。
そして光の外へ出ようとする。
その瞬間、目の前に新しい表示が開いた。
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【休憩地】
表示種別:安全ロック確認
スキル効果範囲内から離れようとしています。
安全ロックを設定しますか?
安全ロック:未設定
設定後:承認していない人物は休憩地範囲内へ侵入不可
承認者:朝倉歩
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「……留守番機能まであるのか」
思わずタープを見る。
設備を置いたまま帰ることまで、このスキルは想定しているらしい。
安全ロックを有効にする。
――――――――――――――――――――
安全ロック:有効
未承認者の侵入を制限します。
解除・承認者追加は管理表示から可能です。
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光の線が、ほんの少し濃くなった。
俺は試しに境界の外へ出る。
休憩地の光は消えない。
タープも椅子も、そのままだ。
「……なるほど」
これなら俺がいない間に、誰かが勝手に中へ入ることもない。
設備は、持って帰りたければ収納できる。
置いておきたければ、安全ロックを掛けて残しておける。
選べるわけだ。
俺はもう一度湖畔を振り返った。
昨日までは、毎回ここへ荷物を背負ってきて、その日のうちに片付けるつもりだった。
でも、これなら少し違う。
ただ休むために広げる場所ではなく、本当にここへ設備を置いておける。
少しずつだが、ちゃんと拠点らしくなってきた。
「……さて、買い出しだな」
空になった保冷バッグを肩に掛け直し、俺は地上へ戻ることにした。
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