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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第77話 本日解禁! 湖畔バーベキュー!!

 「本日のご宿泊は、相原様、森下様、小野寺様の三名で承っています」


 比志野が予約画面を確かめ、三人へ客室番号を案内する。

 隣では若井が宿泊分の会計を確認し、曽布川が食堂とシャワーの利用時間を説明していた。


 「お荷物を置かれましたら、館内は自由にご覧いただけます。食堂は午前11時からです」


 「今日の昼は特別メニューがあるんですよね?」


 小野寺が聞くと、曽布川は厨房側を振り返った。


 「はい。内容は11時まで秘密だそうです」


 「秘密にされると余計に気になるな」


 相原たちは客室へ向かい、その後ろをこよりがついていく。


 「お部屋までご案内します! こちらです!」


 こよりの声が階段の上へ消えると、次は《銀嶺の道標》の受付だ。

 堂島は館内見学、久我たちは食堂利用を希望している。

 続く《青嵐の足跡》も、六人全員が食堂を利用すると答えた。


 受付班は四人で確認内容を分けていた。

 比志野が宿泊と利用目的を聞き、曽布川が館内を案内する。

 若井は会計を確認し、戻ってきたこよりが次の客を呼ぶ。


 初めて客を迎えた時は、小坂とこよりが受付の前後を走り回っていた。

 今は、17人の招待客が順番に受付へ来ても、説明が一か所へ集まらない。


 「先輩、あと5分です」


 小坂がロビーの時計を示した。


 午前10時からは、前売り入場券を購入した客が入ってくる。

 今日の販売数は200枚だ。


 前売り入場券は、今日一日の入場枠をあらかじめ確保するための券だ。

 時間指定ではなく、午前10時以降なら到着した者から受付を行う。

 だから、200人全員が開店と同時に来るわけではない。

 それでも自動扉の向こうには、入口回廊の開始位置から外へ続く列ができていた。


 先頭にいる探索者たちは、購入画面を開いたスマホを手にしている。

 珍田が購入画面を確かめ、前売り券を持つ者だけを入口の列へ案内していた。


 一方の一般入場待機券は、入場そのものを約束する券ではない。

 館内や草地に余裕が出た時だけ、番号順にスマホへ案内が届く。

 まだ到着していない前売り客の分も残しておく必要があるため、待機券を持っていても通知が来るまでは入口へ並べない決まりだ。


 前売り客の受付が落ち着いたら、館内と草地の滞在人数を確認する。

 一般入場枠を開けるとしても、案内できる人数を決めてからになる。


 ロビーの時計が午前10時を示した。


 「正面入口、開けます」


 小坂が管理アプリの営業状態を切り替える。

 自動扉が左右へ開き、珍田が先頭の客を入口回廊へ案内した。


 「前売り入場券をお持ちの方からご案内します。購入画面をご用意ください」


 珍田は入口の脇に立ち、列へ近づいてきた待機券所持者には別の案内板を示した。


 「一般入場待機券をお持ちの方は、通知が届くまでお待ちください。今はまだ一般入場を開始していません」


 最初の四人組が受付へ来る。

 比志野が利用日と人数を読み上げ、若井が購入済みの表示を確認した。


 「四名様、確認できました。湖畔休憩地へようこそ」


 曽布川が館内案内を手渡し、こよりがロビーの先へ腕を伸ばす。


 「休憩所は建物の外です! 食堂は11時から開きます!」


 次の客は二人、その次は五人組だった。

 受付を終えた探索者がロビーから湖側へ抜け、野外休憩所へ向かっていく。


 俺と小坂は、列が途切れず動く様子を受付の横から見ていた。


 「すごい人だな……」


 「まだ外にたくさんいますからね」


 小坂が自動扉の外へ目を向ける。

 前売り客の列から離れた場所で、大きなカメラを肩に載せた男が宿泊施設を撮っていた。

 その隣では、マイクを持った女性が別のカメラへ向かって話している。


 「あれ? まさか、マスコミですか?」


 「マジで?」


 俺も自動扉の近くまで行き、外を確認した。


 社名までは読めない。

 だが、カメラの後ろには腕章をつけた者が二人いて、撮影機材も探索者の配信用より大きい。


 宿泊施設が突然現れる映像は、朝から何度も撮られている。

 ここまで騒ぎになっているなら、報道が来てもおかしくなかった。


 「先輩、あれはどうします? 対応します?」


 「いや、いいだろ。これ以上、人を煽るようなことはしなくていい。何より、俺たちの目的とはかけ離れてる」


 「そうですよね。私たちがやりたいのは、湖畔でゆっくりと時間が流れる、落ち着いた宿屋ですもんね」


 「今日はまったく落ち着いてないけどな」


 「初日だけです。たぶん」


 小坂が最後につけた言葉には、俺も返事ができなかった。


 報道のカメラは安全地帯の外にいる。

 こちらから声をかけなければ、受付中の客を押しのけて入ってくることもできない。


 俺たちは取材への対応をせず、ロビーへ戻った。


 午前10時半を過ぎる頃には、受付班の動きも安定していた。

 利用日と人数を確認し、入域承認がついた客を館内へ案内する。

 問い合わせは比志野、会計表示の確認は若井、館内案内は曽布川とこよりが受け持っている。


 俺が手を出す場面はなさそうだ。


 「先輩、そろそろ厨房をお願いします。11時まで30分を切っています」


 「分かった。受付は任せる」


 厨房へ入ると、包丁がまな板を叩く音と、食器を重ねる音が続いていた。

 海路が作業台で食材を分け、チカが切り終えた野菜を大皿へ盛りつけている。


 井瀬川と熊谷は、食材を入れた保冷箱を湖側の扉へ運んでいた。

 阿武原は食堂の手洗い場を確認したあと、未使用のトングと取り皿を屋外区画へ届けている。


 受付と入口を離れられない者以外は、午前11時の開始へ向けて手を貸していた。


 食堂の通常メニューだけではない。

 昼以降に使う肉の切り分け、野菜の追加分、夕食用の出汁も同時に用意する。


 その中心にいるのは海路だった。


 「その皿は最初の三卓分です。追加分は冷蔵庫の上段に分けてあります」


 「分かりました。海鮮は外へ出す直前に運びますね」


 チカが返すと、海路は次の食材を作業台へ載せた。

 海路が必要な量を告げるたび、チカが皿を選び、運び出す順に並べ替える。

 言葉を交わしながら、同じ皿へ二人が手を出すことは一度もなかった。


 俺は小坂と並び、厨房の入口から二人の仕事を見る。


 「あいつら、息ぴったりだよなぁ」


 「本当、楽しそうです」


 チカが盛りつけた皿を上げると、海路は空いた場所へ次の食材を置いた。

 チカもすぐに作業台を拭き、次の皿を受け取る。


 見ているだけでは、俺の仕事がなくなる。


 「俺も入る。次は何をやればいい?」


 「朝倉さんは、たれの最終確認をお願いします。湖畔ブレンドを先に外へ出します」


 「了解」


 鍋に用意したたれを混ぜ、味を見る。

 醤油を中心に、すりおろした玉ねぎとリンゴ、にんにくを合わせたものだ。

 肉だけでなく、焼いた野菜にも合う濃さにしてある。


 追加分を保存容器へ移していると、湖側から海路が戻ってきた。


 「招待客用の屋外エリアは準備できました。いつでもいけますよ」


 「じゃあ受付へ行って、昼食の案内を入れてもらってくる」


 俺は受付へ戻り、招待客17名へ午前11時から昼食を始めると案内してもらった。

 相原たち三人には、食堂へ最初に来てほしいとも伝える。



 ◇



 午前11時を過ぎた直後、三人は階段を下りてきた。


 「今日の昼食はスペシャルメニューだって聞いて、待ちきれずに来ちゃいました!」


 先頭にいる相原の足が速い。

 森下と小野寺も、そのすぐ後ろに続いている。


 「期待してていいぞ。こっちだ」


 俺は三人を食堂へ案内した。


 食堂の席には、まだ誰も座っていない。

 そのまま窓側を抜け、湖側の扉を開ける。


 「あれ? 食堂じゃないんですか?」


 「外に何か置いてあるぞ」


 「え? まさか……この調理器具って」


 三人が足を止めた。


 湖側の草地には、運動会で見るような白い日よけテントが張られている。

 その下には椅子と、黒い箱形のコンロが三台、十分に間隔を空けて並んでいた。

 一台の大きさは、横幅一メートル、奥行き七十五センチほどある。


 正式営業に合わせて用意した大型魔道具、《魔道炭火コンロ》だ。

 魔道回路が炭への着火、火力調整、消火を補助してくれる。

 中で燃やすのは本物の炭なので、炭火ならではの香りはそのままだ。


 試作で使った小型コンロでは、今日の人数をさばききれない。

 そこで素材卸時代の取引先から魔道具業者を紹介してもらい、営業用の特別品を三台そろえた。


 コンロのそばに置いた大型クーラーボックスには氷水が張られ、瓶や缶の飲み物が冷やされていた。


 横の長机には数種類のたれとトングが並び、取り皿も人数分用意されている。

 その先のテーブルには、切り分けた野菜と海鮮を載せた大皿が並んでいた。


 俺は三人の前へ回った。


 「そうだ。本日解禁! 湖畔バーベキューだ!」


 「マジで!」


 「こんな場所で焼いて食べるのか?」


 「そんなの初めて聞いた!」


 三人の声が屋外区画へ響いた。


 森下が《魔道炭火コンロ》の前に立ち、大きな焼き網をのぞき込む。


 「これ、普通のBBQコンロじゃないですよね? めちゃくちゃ大きいですけど」


 「俺の卸ルートで手に入れた、業務用の魔道炭火コンロだ。火起こしも火力の維持も魔道具に任せられる」


 「これを三人だけで使っていいんですか?」


 「もちろんだ。だが、驚くのはまだ早いぞ。正式オープン初日に出す新メニューだからな。むしろ、ここからが本番だ」


 俺は一番手前のコンロを確認した。

 炭は赤く熾り、焼き網も十分に熱されている。


 「火の準備はできてる。チカ、あとは頼む」


 「はい。では、私から食材についてご説明します」


 チカが三人を長机の前へ案内した。


 「こちらに置いてある食材は食べ放題です。お好きな物を取って、自由に焼いてください」


 三人の目が大皿へ向く。


 「たれも何種類かありますが、一番のおすすめは湖畔ブレンドBBQだれです。お肉はあとでお持ちしますので、まずは前菜の野菜と海鮮をお召し上がりください」


 説明が終わると、相原がすぐトングを取った。

 森下が玉ねぎとキノコを網へ載せ、小野寺はエビとトウモロコシを選ぶ。


 熱された網から水分が弾けた。

 野菜の焼ける匂いに、醤油だれの香りが重なっていく。


 「この野菜、めちゃくちゃみずみずしいな!」


 相原が焼けた玉ねぎを取り皿へ移す。


 「ただ焼いてるだけなのに、すごく香ばしい」


 「地上のBBQって、こんな感じだったっけ?」


 三人は肉が来る前から、次の野菜を網へ載せていた。


 俺はその様子を見て、ニヤリとした。


 「始まったな……飯テロコンボの効果が……」

【新作のお知らせ】

新作『人間嫌いのハイエルフ、父になる』の連載を開始しました!

※ハイファンタジーです。要注意!


人間を嫌っていた長命種のハイエルフが、ひょんなことから人間の赤ちゃんを拾い、慣れない子育てに奮闘するお話です。

本人はあくまで一時的に保護しているだけのつもりですが、周囲から見ると、どう見ても父親になりつつあります。


本作とはまた少し違った、ほのぼのとした子育てファンタジーになっています。

楽しんでいただけましたら嬉しいです!

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