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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第72話 伝説の事故配信者、来襲

 男の肩で、淡い光を散らす小さな生き物がスマホを見ている。


 動画で見たことがある。

 あの、ぬいぐるみにしか見えない、ぴかぴかした生き物を。


 それを肩に乗せた鑑定士となれば、まさか。


 「伝説の事故配信者、真壁遼……!」


 思わず名前まで口から出た。

 男――真壁遼は、嫌そうに眉を寄せた。


 「いやいや、伝説の事故配信者って……」


 肩の上の生き物がスマホから目を上げる。

 次の瞬間、シオのスマホから機械音声が流れた。


 『さすが でんせつの じこはいしんしゃ』


 「超ウケる」


 先ほどのポニーテールの女性まで笑いだす。


 「名取、うるさい」


 どうやら彼女は名取というらしい。

 真壁はため息をつき、肩の生き物が持つスマホを指で軽く押し下げた。


 「シオも動画を止めろ。仕事するぞ」


 『しお いつでも しごとちゅう』


 「どこがだよ」


 動画で何度も見たやり取りが、目の前で繰り広げられている。

 本物だ。


 ただ、昔の動画と見比べても、真壁の姿はほとんど変わっていないように見えた。

 俺が画面越しに見ていたのは、かなり前の配信だったはずなのだが。


 日下部が一歩前へ出た。


 「本日はお忙しいところ、ありがとうございます。改めまして、私はダンジョン管理課の日下部と申します。こちらの朝倉さんが、今回の鑑定をお願いした方です」


 「この人が……ね」


 真壁の視線が、俺に止まった。


 その瞬間、首筋が急に冷えた。

 息の仕方を忘れ、半歩ぶん後ろへ意図せず動いた。


 目を向けられただけだ。

 なのに、皮膚も骨も関係なく、その奥にしまっていた、心の奥底までも順番に開けられていく。

 そんな感覚が全身を走った。


 「真壁さん、いきなり人に向かって鑑定かけない。めっちゃびびってるでしょうが」


 名取が真壁の肩を小突く。


 『りょうは そういうとこ ぜんぜんだめ』


 「ぐぬぬ、お前ら……」


 真壁は二人へ言い返すだけにとどまった。


 今のが、鑑定。


 警戒する間も、拒む間もなかった。

 それでも俺の中に何かが入り込んだのだと、感覚だけははっきり残っている。


 鑑定士として有名なのは知っていた。

 だが、この人は、こんなにも恐ろしい力を持っているのか。


 「では、鑑定を進めさせていただきます」


 日下部の声で、いつの間にか呼吸を止めていたことに気付き、大きく息を吐いた。


 「朝倉さん、例のスキルを出してください」


 「……分かりました」


 俺は試験区画の中央へ進み、周囲に人がいないことを確認した。

 展開範囲を最小に設定し、【休憩地】を発動する。


 地面を淡い光が走った。

 光が四角い輪郭を作り、その内側から三階建ての宿泊施設がせり上がるように姿を現す。


 「なんだ!?」


 「いきなり建物が出たぞ!」


 「これがスキルなのか? こんなの見たことないぞ」


 護衛チームが一斉にざわめいた。

 数人が名取の前へ出ようとしたが、彼女は片手を上げて制した。


 その騒ぎの中で、真壁だけは動かなかった。

 建物の正面に立ち、入口から屋根までを静かに見続けている。


 『りょう?』


 「ああ、分かっている。あの方、またこういうことやって……」


 あの方?

 誰のことを言っているのか聞き返す前に、真壁は右手を上げた。


 「すみません。もう少し、よく見させてください」


 その真壁の頼みを聞くと、護衛チームはすぐに口を閉じた。

 建物を囲みかけていた者たちも数歩ずつ下がり、試験区画が静かになる。


 真壁は宿泊施設の周囲をゆっくり歩いた。

 壁には触れず、窓や入口、地面に残る境界の光へ順に目を向けていく。

 シオも肩の上でスマホを伏せ、真壁と同じ方を見ていた。


 やがて真壁が足を止める。


 「なるほど……こりゃまた面白いスキルですね」


 真壁は俺へ振り向いた。


 「これ、どこで取得したんですか?」


 日下部たち三人の視線も集まる。


 オリジンスキルであることまで伏せてきたが、ここで獲得経緯を隠せば、鑑定に同意した意味がない。

 俺は一度息を整えてから、そしてゆっくりと話し始めた。


 「ダンジョンで、白い鹿に似た魔物に襲われたのが始まりです。透明に光る角があって、俺が見つけた時には、すでにひどい傷を負っていました」


 その個体を倒し、いつも通り【解体】を使ったこと。

 胸の中に魔石とも臓器とも違う淡い光を見つけたこと。

 そこから、小さな青白い結晶を取り出したこと。


 そして、聞いたことのない通知が続けて聞こえて来たことを説明する。


 「特殊条件を満たした、未登録個体の完全解体を確認した、と出ました。そのあと、スキル枠への適合と、世界初確認の保持者登録が表示されて……【休憩地】を獲得しました」


 最後まで聞いた真壁は、宿泊施設をもう一度見上げた。


 「なるほど……あなた、変なのに好かれましたね」


 「……誰のことですか?」


 「その話は、今は置いておきましょう」


 軽い口調でかわし、真壁は日下部たちへ向き直った。


 「色々と不安はあると思いますけど、大丈夫ですよ。このスキルは」


 日下部が、わずかに身を乗り出す。


 「真壁さんは、このスキルが何なのかお分かりになったと?」


 「まあ、大体は。ただ、ダンジョン庁としては、これで放免というわけにはいかないでしょ?」


 「それは、まあ……」


 日下部の言葉が濁った。

 篠塚と甲斐谷も、困ったように黙っている。


 真壁は三人を順に見たあと、宿泊施設へ目をやった。


 「このスキルの選択には、あなたたちは……いや、人は関わっては駄目です。朝倉さん以外はね」


 「それはいったい、どういう意味ですか?」


 「具体的なことは言えません。ただ、このスキルをどこで行使して、何に使い、どう育てるか。それは朝倉さんが決めなくてはならない。周りが取り上げたり、使い道を押しつけたりしちゃ駄目なんです」


 話を聞いていた名取の笑みが消えた。


 「もしかして……ですか? 真壁さん」


 「そうそう。めんどくさい方に絡まれたみたい……俺みたいにね」


 それだけで、名取には伝わったらしい。

 だが、日下部たちも俺も、何の話なのか分からない。


 真壁は困惑する三人へ、あっさりと言葉を続けた。


 「とりあえず、このスキルは俺が今後も対応します。そう、ダンジョン庁のトップに伝えてください」


 「ええ!?」


 日下部たち三人の声が重なった。


 「でも、彼を一人にさせちゃ駄目です」


 真壁は俺を指し、それから三人を順に指した。


 「スキルの選択は朝倉さんに任せる。君たちは行政手続きや周囲との調整で支える。担当者として、これからも彼をサポートしてほしい。頼むよ」


 三人が返事に詰まる中、真壁が後ろをちらりと見る。

 護衛チームのさらに後ろにいたスーツ姿の女性が、親指と人差し指で丸を作った。


 「さすが、支援チーム。30年の付き合いの長さは伊達じゃないですね」


 「年数は余計です」


 女性が間髪入れずに返した。

 真壁は満足そうにうなずくと、今度は俺の前まで歩いてきた。


 「朝倉さん、ちょっと」


 肩を寄せ、日下部たちには聞こえない声で耳打ちする。


 「オリジンスキルを身につけるとは、なかなか厄介な星の下に生まれたね。俺みたいに」


 「えっ……」


 やはり、この人には分かっていた。

 俺が伏せてきたスキルの区分まで、最初から。


 真壁は離れ際に、展開中の宿泊施設を見上げた。


 「このスキルは、まだ発展途上です。これから、もっと成長する。正しい方向に育つことを祈っていますよ」


 シオが肩の上で胸を張り、スマホをこちらへ向ける。


 『ちゃんと そだてるのじゃぞ こぞう』


 俺よりずっと小さな生き物に小僧呼ばわりされた。

 だが今は、突っ込む言葉が出てこない。


 真壁は片手を上げ、名取や警護班、支援チームとともに試験区画を出ていった。

 あとに残ったのは、俺と展開中の宿泊施設、それからダンジョン管理課の三人だ。


 日下部、篠塚、甲斐谷が互いを見る。


 「……これ、どうする?」

あの真壁なのか、それとも平行世界の別の真壁なのか。

それは作者もよく分かっていなかった…(おい

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