第61話 正式オープンへの準備(後編)
「七人! 前回より多いですね」
俺は応募者名簿を小坂のアプリへ共有した。
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応募者1
氏名:海路快人
種族:人間
性別:男性
年齢:29歳
身長:173cm
技能:食堂調理、大量調理
希望作業:調理、仕込み、献立補助
日額ポイント:100
最低契約期間:七日
備考:宿場食堂での調理経験あり。未知の食材にも抵抗なし。
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「料理人候補!」
俺は思わず身を乗り出した。
「先輩、予想どおりの反応ありがとうございます」
小坂は俺の予想どおりのリアクションに、思わず笑い出す。
「大量調理までできるぞ。しかも未知の食材に抵抗なしだ」
「魔物肉を見せても、厨房から逃げない人材は貴重ですね」
海路は七人の中で最も日額が高い。
それでも、今後の食堂を考えれば外せなかった。
次の応募者を開く。
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応募者2
氏名:曽布川姫乃
種族:人間
性別:女性
年齢:22歳
身長:160cm
技能:なし
希望作業:受付、予約確認、客室案内
日額ポイント:50
最低契約期間:七日
備考:接客経験あり。説明と案内を覚えることが得意。
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「受付の即戦力候補ですね。こよりの隣で、予約確認を任せられそうです」
「小坂が全部の受付に張りつかなくてもよくなるな」
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応募者3
氏名:若井譲司
種族:人間
性別:男性
年齢:27歳
身長:178cm
技能:なし
希望作業:受付、会計補助、在庫確認
日額ポイント:55
最低契約期間:七日
備考:商店勤務経験あり。接客、金銭確認、荷受けに対応可。
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「この人は受付だけじゃなく、売店と荷受けにも回せます」
「地上から物資を運び込むようになったら、井瀬川と組ませてもよさそうだ」
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応募者4
氏名:比志野祥子
種族:人間
性別:女性
年齢:24歳
身長:165cm
技能:なし
希望作業:受付、問い合わせ対応、事務補助
日額ポイント:50
最低契約期間:七日
備考:宿泊台帳の管理経験あり。複数の依頼を整理して対応できる。
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「なんでもできる受付系が三人。正式オープンを見越したみたいな名簿ですね」
「宿泊予約と入場券が始まるなら、三人とも仕事はある」
受付では、入場券を確認し、当日利用者を受け入れ、宿泊客を案内しながら、問い合わせと売店にも対応することになる。
今まで小坂とこよりへ集まっていた仕事を、ようやく分けられる。
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応募者5
氏名:熊谷真久
種族:人間
性別:男性
年齢:31歳
身長:184cm
技能:なし
希望作業:客室清掃、リネン回収、備品運搬
日額ポイント:70
最低契約期間:七日
備考:体力仕事を希望。大型宿泊所での清掃経験あり。
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「井瀬川の負担をかなり減らせそうだな」
「客室清掃は一人で回す量じゃありませんでしたからね」
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応募者6
氏名:阿武原玲奈
種族:人間
性別:女性
年齢:26歳
身長:168cm
技能:なし
希望作業:共用部清掃、浴室清掃、洗濯補助
日額ポイント:50
最低契約期間:七日
備考:水回りの清掃を希望。夜間勤務は応相談。
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「客室の熊谷さんと、共用部の阿武原さん。清掃を最初から分けられます」
「シャワーと共用トイレは、営業中にも確認が必要だった。専任が二人いるなら助かる」
そして最後の一人を開いた。
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応募者7
氏名:珍田伴吾
種族:人間
性別:男性
年齢:33歳
身長:180cm
技能:なし
希望作業:夜間見回り、入口確認、施設巡回
日額ポイント:70
最低契約期間:七日
備考:夜間勤務希望。警備経験あり。安全地帯外での戦闘は不可。
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「夜間警備も来ましたね」
「安全地帯の中は魔物が入れなくても、宿泊客同士の問題や入口対応は残るからな」
「前回は私たちが夜まで残りましたけど、毎日それをやるのは無理です。珍田さんには夜間の入口と館内を見てもらいましょう」
七人の日額を合計すると四百四十五ポイント。
すでに雇用しているこより、井瀬川、チカを合わせても、一日六百四十ポイントだった。
先週末に獲得した湖畔ポイントと今後の営業日数を考えれば、見直した一日七百ポイント以内に収まる。
「全員雇えるな」
「私も全員でいいと思います。せっかく役割がきれいに分かれてますし」
「ただ、今ここで契約は押せない。押した瞬間に召喚される」
「ですね。応募者名簿の掲載期限までは余裕がありますけど、今度の週末に木場で契約しましょう」
小坂は、工場の資料を画面の横へ並べた。
「黒瀬社長の確認が取れた場所だけ使います。安全性が駄目なら延期ですけど、問題なければ工場内で【休憩地】を出して、七人をまとめて召喚します」
「前の三人にも勤務開始で来てもらって、全員で顔合わせか」
「十人いれば、受付、食堂、清掃、夜間警備を分けて練習できます。木場なら外から見られませんし、館内を使ったトレーニングもできますよ」
小坂は海路の応募情報をもう一度開いた。
「先輩も料理開発したいでしょ? 料理人候補、いますし」
「海路と一緒に、今のメニューを大量に出す手順から試したいな」
「もう乗り気じゃないですか」
「料理人が来るなら仕方ないだろ。そう、仕方ないんだ」
小坂のジト目を気にせず、新しい料理に思いをはせる。
そしてこのスタッフの面子を見た時、俺の中では週六日営業という予定が、急に現実味を持ち始めた。
「さて」
小坂が、ここまで閉じていたYの画面を開いた。
「ここからは、あまり楽しくない話です」
検索欄には《湖畔休憩地》《十階層》《謎のホテル》という言葉が並んでいた。
投稿数は、月曜に見た時より明らかに増えている。
『十階層北側の草地に三階建ての宿泊施設が出現』
『建築資材を運んだ形跡なし。営業終了後に消えたとの情報』
『安全地帯の範囲が異常。入口へ近づけなかった』
「かなり騒がれてるな……」
「探索者ギルドも、もう動いています。私も探索者時代の伝手で情報を集めていますけど、現地へ行った人への聞き取りが始まっているそうです」
「何か対応しないといけないのは分かる。でも、どう説明すればいいんだ」
スキルで建物を出しました。
中では異世界から雇った人間が働いています。
そんな話を、そのまま公的機関へ持っていっていいのか判断がつかない。
「企業も目の色を変えていますよ。特に湖の西側へ出店しているところは、北側に誰が建物を出したのか調べているみたいです」
「立地が離れているのにか?」
「離れているからです」
小坂は十階層湖畔の地図を開いた。
湖畔休憩地がある北側草地の南には湖があり、背後には中央広場から続く森が広がっている。
「この草地、湖と森林地帯に挟まれているんです。北側では珍しく建物を置ける平地なんですけど、湖側からも森側からも魔物に見つかりやすいんですよ」
「確かに、最初に行った時から魔物は多かった」
「過去に何社か開発出来るかどうか調査したそうです。でも、資材を置けば魔物が寄る。警備を増やせば、西側の整備区域より費用がかかる。転移ゲートからも離れている。それで、採算が合わない因縁の土地として諦められたみたいです」
そんな場所へ、正体不明の人間が三階建ての建物を出した。
企業から見れば、建物そのものより、危険な土地を安全に使っている方法が気になるはずだ。
「十中八九、スキルだろうとは言われています。ただ、建物と広い安全地帯を同時に作るスキルは、少なくとも公開情報にはありません。世界のどこにも前例がないんじゃないか、って話まで出ています」
「オリジンスキルだと知られたら、もっと面倒になるな」
「だから正式オープン前に、こちらから説明する必要があります」
小坂はYを閉じ、ダンジョン内の施設設置に関するサイトを開いた。
「ダンジョン法では、管理区画や指定通路を除けば、ダンジョン内での活動は原則自己責任です。建物や野営地を作ること自体も禁止されていません」
「俺たちが営業しても、今のところ違法ではない」
「はい。ただし、主要な通行を塞ぐこと、他の探索者へ危害を加える目的で設備や罠を置くこと、転移ゲートや管理施設の運用を妨害することは禁止です」
「安全地帯で人を締め出しているのは?」
「入口回廊を作って、利用者が通れるようにしています。北側草地の全部を占有しているわけでもありません。今の使い方なら、直ちに問題になる可能性は低いです」
小坂は画面を下へ送った。
「それでも、通行妨害や危害の疑いが出たら、ダンジョン庁の特務隊が治安維持ですぐに現地へ来ます。営業できることと、政府やギルドが放っておくことは別です」
法律上は問題がない。
だからといって、何も言わずに営業を続ければいいわけではなかった。
広い安全地帯を作り、三階建ての宿泊施設を出し、探索者を何百人も受け入れる。
企業が諦めた土地でそれを始めれば、政府もギルドも無視できない。
正式オープンの告知を出せば、今以上に人が集まる。
その前に、少なくともこちらが何者で、何をするつもりなのかは伝えるべきだ。
俺はダンジョン庁の案内ページを開いた。
「ダンジョン庁へ行こう」
「先輩?」
「向こうが調べに来るまで待つより、正式オープン前に、こっちから説明する。分からないことも含めて、そのまま相談してくる」
小坂は画面に表示された相談窓口を見て、強く頷いた。
湖畔休憩地は、もう俺たちと知り合いだけで動かせる規模ではない。
だからこそ、逃げずに正面から話をしよう。
俺が次に向かう場所は、ダンジョン庁だ。
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