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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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61/71

第61話 正式オープンへの準備(後編)

 「七人! 前回より多いですね」


 俺は応募者名簿を小坂のアプリへ共有した。


 ――――――――――――――――――――

 応募者1

 氏名:海路快人

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:29歳

 身長:173cm

 技能:食堂調理、大量調理

 希望作業:調理、仕込み、献立補助

 日額ポイント:100

 最低契約期間:七日

 備考:宿場食堂での調理経験あり。未知の食材にも抵抗なし。

 ――――――――――――――――――――


 「料理人候補!」


 俺は思わず身を乗り出した。


 「先輩、予想どおりの反応ありがとうございます」


 小坂は俺の予想どおりのリアクションに、思わず笑い出す。


 「大量調理までできるぞ。しかも未知の食材に抵抗なしだ」


 「魔物肉を見せても、厨房から逃げない人材は貴重ですね」


 海路は七人の中で最も日額が高い。

 それでも、今後の食堂を考えれば外せなかった。


 次の応募者を開く。


 ――――――――――――――――――――

 応募者2

 氏名:曽布川姫乃

 種族:人間

 性別:女性

 年齢:22歳

 身長:160cm

 技能:なし

 希望作業:受付、予約確認、客室案内

 日額ポイント:50

 最低契約期間:七日

 備考:接客経験あり。説明と案内を覚えることが得意。

 ――――――――――――――――――――


 「受付の即戦力候補ですね。こよりの隣で、予約確認を任せられそうです」


 「小坂が全部の受付に張りつかなくてもよくなるな」


 ――――――――――――――――――――

 応募者3

 氏名:若井譲司

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:27歳

 身長:178cm

 技能:なし

 希望作業:受付、会計補助、在庫確認

 日額ポイント:55

 最低契約期間:七日

 備考:商店勤務経験あり。接客、金銭確認、荷受けに対応可。

 ――――――――――――――――――――


 「この人は受付だけじゃなく、売店と荷受けにも回せます」


 「地上から物資を運び込むようになったら、井瀬川と組ませてもよさそうだ」


 ――――――――――――――――――――

 応募者4

 氏名:比志野祥子

 種族:人間

 性別:女性

 年齢:24歳

 身長:165cm

 技能:なし

 希望作業:受付、問い合わせ対応、事務補助

 日額ポイント:50

 最低契約期間:七日

 備考:宿泊台帳の管理経験あり。複数の依頼を整理して対応できる。

 ――――――――――――――――――――


 「なんでもできる受付系が三人。正式オープンを見越したみたいな名簿ですね」


 「宿泊予約と入場券が始まるなら、三人とも仕事はある」


 受付では、入場券を確認し、当日利用者を受け入れ、宿泊客を案内しながら、問い合わせと売店にも対応することになる。

 今まで小坂とこよりへ集まっていた仕事を、ようやく分けられる。


 ――――――――――――――――――――

 応募者5

 氏名:熊谷真久

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:31歳

 身長:184cm

 技能:なし

 希望作業:客室清掃、リネン回収、備品運搬

 日額ポイント:70

 最低契約期間:七日

 備考:体力仕事を希望。大型宿泊所での清掃経験あり。

 ――――――――――――――――――――


 「井瀬川の負担をかなり減らせそうだな」


 「客室清掃は一人で回す量じゃありませんでしたからね」


 ――――――――――――――――――――

 応募者6

 氏名:阿武原玲奈

 種族:人間

 性別:女性

 年齢:26歳

 身長:168cm

 技能:なし

 希望作業:共用部清掃、浴室清掃、洗濯補助

 日額ポイント:50

 最低契約期間:七日

 備考:水回りの清掃を希望。夜間勤務は応相談。

 ――――――――――――――――――――


 「客室の熊谷さんと、共用部の阿武原さん。清掃を最初から分けられます」


 「シャワーと共用トイレは、営業中にも確認が必要だった。専任が二人いるなら助かる」


 そして最後の一人を開いた。


 ――――――――――――――――――――

 応募者7

 氏名:珍田伴吾

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:33歳

 身長:180cm

 技能:なし

 希望作業:夜間見回り、入口確認、施設巡回

 日額ポイント:70

 最低契約期間:七日

 備考:夜間勤務希望。警備経験あり。安全地帯外での戦闘は不可。

 ――――――――――――――――――――


 「夜間警備も来ましたね」


 「安全地帯の中は魔物が入れなくても、宿泊客同士の問題や入口対応は残るからな」


 「前回は私たちが夜まで残りましたけど、毎日それをやるのは無理です。珍田さんには夜間の入口と館内を見てもらいましょう」


 七人の日額を合計すると四百四十五ポイント。

 すでに雇用しているこより、井瀬川、チカを合わせても、一日六百四十ポイントだった。


 先週末に獲得した湖畔ポイントと今後の営業日数を考えれば、見直した一日七百ポイント以内に収まる。


 「全員雇えるな」


 「私も全員でいいと思います。せっかく役割がきれいに分かれてますし」


 「ただ、今ここで契約は押せない。押した瞬間に召喚される」


 「ですね。応募者名簿の掲載期限までは余裕がありますけど、今度の週末に木場で契約しましょう」


 小坂は、工場の資料を画面の横へ並べた。


 「黒瀬社長の確認が取れた場所だけ使います。安全性が駄目なら延期ですけど、問題なければ工場内で【休憩地】を出して、七人をまとめて召喚します」


 「前の三人にも勤務開始で来てもらって、全員で顔合わせか」


 「十人いれば、受付、食堂、清掃、夜間警備を分けて練習できます。木場なら外から見られませんし、館内を使ったトレーニングもできますよ」


 小坂は海路の応募情報をもう一度開いた。


 「先輩も料理開発したいでしょ? 料理人候補、いますし」


 「海路と一緒に、今のメニューを大量に出す手順から試したいな」


 「もう乗り気じゃないですか」


 「料理人が来るなら仕方ないだろ。そう、仕方ないんだ」


 小坂のジト目を気にせず、新しい料理に思いをはせる。

 そしてこのスタッフの面子を見た時、俺の中では週六日営業という予定が、急に現実味を持ち始めた。


 「さて」


 小坂が、ここまで閉じていたYの画面を開いた。


 「ここからは、あまり楽しくない話です」


 検索欄には《湖畔休憩地》《十階層》《謎のホテル》という言葉が並んでいた。

 投稿数は、月曜に見た時より明らかに増えている。


 『十階層北側の草地に三階建ての宿泊施設が出現』

 『建築資材を運んだ形跡なし。営業終了後に消えたとの情報』

 『安全地帯の範囲が異常。入口へ近づけなかった』


 「かなり騒がれてるな……」


 「探索者ギルドも、もう動いています。私も探索者時代の伝手で情報を集めていますけど、現地へ行った人への聞き取りが始まっているそうです」


 「何か対応しないといけないのは分かる。でも、どう説明すればいいんだ」


 スキルで建物を出しました。

 中では異世界から雇った人間が働いています。

 そんな話を、そのまま公的機関へ持っていっていいのか判断がつかない。


 「企業も目の色を変えていますよ。特に湖の西側へ出店しているところは、北側に誰が建物を出したのか調べているみたいです」


 「立地が離れているのにか?」


 「離れているからです」


 小坂は十階層湖畔の地図を開いた。

 湖畔休憩地がある北側草地の南には湖があり、背後には中央広場から続く森が広がっている。


 「この草地、湖と森林地帯に挟まれているんです。北側では珍しく建物を置ける平地なんですけど、湖側からも森側からも魔物に見つかりやすいんですよ」


 「確かに、最初に行った時から魔物は多かった」


 「過去に何社か開発出来るかどうか調査したそうです。でも、資材を置けば魔物が寄る。警備を増やせば、西側の整備区域より費用がかかる。転移ゲートからも離れている。それで、採算が合わない因縁の土地として諦められたみたいです」


 そんな場所へ、正体不明の人間が三階建ての建物を出した。

 企業から見れば、建物そのものより、危険な土地を安全に使っている方法が気になるはずだ。


 「十中八九、スキルだろうとは言われています。ただ、建物と広い安全地帯を同時に作るスキルは、少なくとも公開情報にはありません。世界のどこにも前例がないんじゃないか、って話まで出ています」


 「オリジンスキルだと知られたら、もっと面倒になるな」


 「だから正式オープン前に、こちらから説明する必要があります」


 小坂はYを閉じ、ダンジョン内の施設設置に関するサイトを開いた。


 「ダンジョン法では、管理区画や指定通路を除けば、ダンジョン内での活動は原則自己責任です。建物や野営地を作ること自体も禁止されていません」


 「俺たちが営業しても、今のところ違法ではない」


 「はい。ただし、主要な通行を塞ぐこと、他の探索者へ危害を加える目的で設備や罠を置くこと、転移ゲートや管理施設の運用を妨害することは禁止です」


 「安全地帯で人を締め出しているのは?」


 「入口回廊を作って、利用者が通れるようにしています。北側草地の全部を占有しているわけでもありません。今の使い方なら、直ちに問題になる可能性は低いです」


 小坂は画面を下へ送った。


 「それでも、通行妨害や危害の疑いが出たら、ダンジョン庁の特務隊が治安維持ですぐに現地へ来ます。営業できることと、政府やギルドが放っておくことは別です」


 法律上は問題がない。

 だからといって、何も言わずに営業を続ければいいわけではなかった。


 広い安全地帯を作り、三階建ての宿泊施設を出し、探索者を何百人も受け入れる。

 企業が諦めた土地でそれを始めれば、政府もギルドも無視できない。


 正式オープンの告知を出せば、今以上に人が集まる。

 その前に、少なくともこちらが何者で、何をするつもりなのかは伝えるべきだ。


 俺はダンジョン庁の案内ページを開いた。


 「ダンジョン庁へ行こう」


 「先輩?」


 「向こうが調べに来るまで待つより、正式オープン前に、こっちから説明する。分からないことも含めて、そのまま相談してくる」


 小坂は画面に表示された相談窓口を見て、強く頷いた。


 湖畔休憩地は、もう俺たちと知り合いだけで動かせる規模ではない。

 だからこそ、逃げずに正面から話をしよう。


 俺が次に向かう場所は、ダンジョン庁だ。

読んでいただきありがとうございます。

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