表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/58

第52話 無事営業は終わりましたが、課題は山積みでした

 言い終える前に、先頭の探索者たちが受付へ進んできた。

 最初に埋まったのは、一時休憩室だった。


 「二階の一時休憩、残り四名です!」


 こよりが受付画面を見て声を出す。


 「屋外臨時休憩も案内に入れます。井瀬川さん、シャワー希望者を先に分けてください」


 小坂が入口側で列を分け、井瀬川がシャワー利用者に利用時間を確認する。

 俺は厨房からロビーを見て、思わず手を止めかけた。


 昨日、初日であれだけ来た。

 今日はその噂を聞いた人たちが来る。

 分かっていたはずなのに、受付前はもう昨日の昼前に近かった。


 そしてすぐに、食堂へ人が流れ始めた。


 「ワイルドボアカツカレー、まだありますか」


 「味噌焼き丼も頼めます?」


 「先に休憩料金払って、食堂で待つのはできますか」


 小坂が受付で一つずつ答え、こよりが席の空き状況を厨房側へ確認しに来る。


 「朝倉さん、食堂いま二十八席埋まりました。四人組が二つ、あと一人客が何人か入れます」


 「分かりました。相席確認を小坂にお願いします。カツカレーは先に十食出します」


 「はいっ!」


 こよりが受付へ戻る。

 チカは配膳台に味噌焼き丼を置き、番号を確認して食堂へ出た。


 十一時前。

 一時休憩室、屋外臨時休憩、シャワー枠がほぼ埋まり、食堂もほとんど空きがなくなった。

 入口では、受付待ちの探索者が案内板を見ながら順番を待っている。


 「二日目、時間短いのにこれは……」


 小坂が受付画面を見たまま言った。


 「昨日よりすごいことになりますね」


 井瀬川がシャワー利用者の終了時間を確認しながら返す。

 こよりは食堂前で、空いた席を待つ二人組に声をかけていた。


 昼前には、堂島のクラン関係者がまとまって来た。

 堂島本人はいないが、引率役の男性が受付で小坂に名乗る。


 「堂島から聞いています。新人訓練の途中で休ませたい。人数が多いので、可能な範囲で構いません」


 小坂は受付画面で二階の残りを確認し、すぐに三階の空き部屋欄を開いた。

 今日は宿泊予約がない。

 三階を使わずに空けておくより、時間を区切って一時休憩に回した方がいい。


 「朝倉さん、三階の二人部屋を一時休憩枠として開けます。宿泊なしなので、ここを使わないと二階だけでは受け切れません」


 「任せます。清掃時間だけ必ず挟んでください」


 「はい。井瀬川さん、三階の利用前確認をお願いします。こよりちゃんは堂島さん側の人数を受付画面に入れてください」


 「分かりました」


 「はいっ!」


 三階の一部を一時休憩枠として開けると、入口の列が少し動いた。

 その代わり、井瀬川とこよりの足は止まらなくなった。

 利用者を案内し、戻ってきて次のシャワー枠を確認し、食堂の空き席を伝える。

 受付カウンターの上では、利用区分の表示が次々に切り替わった。


 食堂も同じだった。

 カツカレーは昼過ぎに追加分へ入った。

 味噌焼き丼も、朝に仕込んだ分だけでは足りず、途中で倉庫から追加の肉を持ってきて焼き足した。

 チカが洗い場と配膳台を行き来し、俺はコンロ前から離れられない。


 それでも、客の反応は悪くなかった。

 食堂で食べ終えた探索者は、仲間を呼び、受付に軽く頭を下げてそのまま外に出て、探索者としての活動を再開する。

 屋外臨時休憩を使った若いパーティーは、「午後もう一本いける」と次の狩り場を相談している。

 三階から下りてきた堂島側の新人たちも、引率役の声にすぐ反応し、装備を抱えて列へ戻った。


 

 ◇



 十八時。

 小坂が入新規受付を止めた。


 「本日の新規受付は終了です。現在ご利用中の方は、十九時までに退館をお願いします」


 案内を聞いた探索者たちから、あちこちで残念そうな声が上がる。


 「平日もやってくれたら、十階層の動き方かなり変わるんだけどな」


 「また来るから、予約の取り方だけ早く出してくれ」


 「屋外でもいいから、次は枠押さえたい」


 「食堂だけでも予約できないですか」


 小坂とこよりが一つずつ返し、井瀬川が退館確認を進める。

 最後の一組が休憩地スキル範囲内を出る頃には、外の看板前にいた探索者たちも少しずつ散っていった。


 そしてその間、運営側の視界には何度も湖畔ポイントの加算表示が出た。

 探索者の頭上に+3や+5の数字が浮かび、時には+8まで出て、すぐに薄く消えていく。

 昨日の夕方は驚いたその光景も、二日目の終わりには、受付作業の一部みたいに見えてきていた。


 「あの不思議な光景も、慣れましたね」


 こよりが入口の方を見ながらつぶやいた。


 「最初は気味悪かったですけど、いまは助かります。満足して帰ってくれたか、すぐ分かりますから」


 小坂が受付画面を閉じる。

 俺は厨房の火を止め、最後の皿を洗い場へ運んだ。


 最後の一人を見送ったあと、ロビーにはスタッフだけが残った。


 「みんな、お疲れ様でした。昨日も今日も、めちゃくちゃ助かりました」


 俺がそう言うと、こよりが両手を胸の前で合わせた。


 「めっちゃ面白かったです! 受付も案内も、昨日よりできた気がします!」


 「私も、もう少し続けたかったです。改善点は多いですが、次回ならもっと手順を短くできます」


 井瀬川は眼鏡を外し、レンズを拭いてからかけ直した。

 チカは厨房の方を見て、少しだけ名残惜しそうに言う。


 「調理場は忙しかったけれど、楽しかったわ。次は仕込みからもう少し手伝わせて」


 「もちろんです。次回も契約します」


 俺がそう答えた瞬間、目の前に白い球体が現れた。

 ガイドアシストだ。


 『異界人材三名の継続契約意思を確認しました』


 『笹原こより、井瀬川湊、花森チカを常時契約欄へ登録しました』


 小坂が隣で目を瞬かせる。


 「常時契約欄……そんなのあるんですね」


 「俺も初めて見た」


 こよりは通知を見上げたまま、嬉しそうに手を振った。


 「じゃあ次回も、必ず呼んでくださいね!」


 「はい。次回も必ず呼びます。よろしくお願いします」


 「こちらこそ、よろしくお願いします」


 井瀬川が丁寧に頭を下げる。

 チカも軽く手を振った。


 「次は、厨房をもっと楽にしましょうね」


 三人の姿が光に包まれ、静かに薄くなっていく。

 こよりの「また来ます!」という声が残り、それもすぐに消えた。


 ロビーには、俺と小坂だけが残った。

 厨房の換気音と、受付画面の待機表示だけがある。


 俺はカウンターの内側に寄りかかり、天井を見上げた。


 「疲れたな……」


 小坂は受付椅子に座ったまま、力なく手を上げた。


 「ですです……。ほんとに疲れました……」


 宿泊施設の初回営業二日目。

 終わったというより、次に直すものが山ほど見えた二日間だった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ