第47話 湖畔ランチセットとポイントの正体(前編)
皆さまこんばんは!小狐です。
いきなりですが、第10回アース・スターノベル大賞W受賞(会社をクビになった俺…)記念ということで、本作、ダンジョン湖畔の休憩地を本日から26日日曜日まで、1日3話公開します!!!!
更新時間は18:10、18:20、18:30で順に公開していきます。
1週間限定ですが、ぜひお楽しみください!!!
「いきなり通知が出てポイントが付与されたと出たんだが、何かそっちであったか?」
俺が管理表示を開いたまま聞くと、小坂は受付カウンターの内側で顔を上げた。
その目は、まだ六人の頭上に出ていた数字のあたりを見ている。
「先輩! もしかすると、ポイントが発生するタイミング、分かったかもです!!」
「え、まじで?」
「たぶんですけど、今のは延長料金そのものじゃなくて、利用者さんごとに、ここを使ってよかったと思った度合いみたいな――」
そこまで言ったところで、食堂側からチカの声が届いた。
「朝倉さん。お客様、六名入ります」
小坂は言葉を止め、俺も管理表示を閉じた。
六人はもう受付前から食堂の方へ移動し始めている。
「とりあえず、また後で!」
「はい。私も数字の見え方、もう少し見ておきます!」
俺はうなずき、厨房へ戻った。
ポイントの話は気になる。
けれど、食堂に客が入るなら、今の俺の仕事はそっちだ。
チカは食堂奥の六人席テーブルへ《青嵐の足跡》を案内していた。
湖が見える窓側ではなく、厨房に近い側の席だ。
人数分の水とおしぼりを置き、少し緊張した手つきでメニュー表を広げる。
「ただいまの時間は、ランチセットをご用意しております。A、B、Cからお選びいただけます」
チカがそう言うと、テーブルの上に置かれたメニュー表へ、六人の視線が集まった。
――――――――――――――――――――
湖畔食堂 ランチセット
Aセット
ワイルドボアカツカレー
ミニ魔物骨出汁スープ
湖畔サラダ
魔力水
価格:4,200円
Bセット
ワイルドボア味噌焼き丼
ホーンラビットつみれ汁
小鉢
魔力水
価格:3,800円
Cセット
湖畔まかないセット
ワイルドボア脂の焼きおにぎり二個
ホーンラビットつみれ汁
小鉢
魔力水
価格:2,900円
――――――――――――――――――――
「え、安くない?」
最初に反応したのは奈月だった。
メニュー表を持ったまま、隣の芽衣と顔を見合わせる。
「ここ、十階層の湖畔だよね。ダンジョン都市の食堂だと、この値段でちゃんと座れてセットは無理じゃない?」
「カツカレー四千二百円って、地上なら高いけど、ここだと普通におかしい価格だな」
杉浦大地がそう言うと、椎名悠斗も真剣な顔でメニューをのぞき込んだ。
「中央広場の肉料理、席付きだと八千円くらいからだもんな。しかも混んでるし」
「俺、Aかな。さっきからカレーの文字ばっかり目に入る」
蓮が言うと、真琴がふふっと笑った。
「じゃあ私、B。味噌焼き丼が気になる」
「私はCにする。焼きおにぎりとつみれ汁、探索途中にちょうどよさそう」
芽衣がそう言い、六人はわいわいと相談を始めた。
休憩の直後だから、全員が同じ量を食べたいわけではないらしい。
反応がはっきり分かれていて、厨房側から見ていても面白い。
「決まりました」
蓮が手を上げる。
チカは少し背筋を伸ばし、小坂から渡されていた食堂用スマホを両手で持った。
「はい。ご注文をお伺いします」
「Aセット二つ、Bセット二つ、Cセット二つでお願いします」
チカは画面を見ながら、指先で一つずつ入力していく。
まだ慣れた動きではない。
けれど、確認のたびに客の顔を見て、聞き返すタイミングは丁寧だった。
「Aセットが二つ。Bセットが二つ。Cセットが二つ。以上でよろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。当食堂は前会計です。探索者用スマホ決済アプリでお支払いをお願いします」
チカがそう告げると、六人は慣れた様子で探索者用スマホを取り出した。
順番に決済画面を開き、食堂用スマホの会計表示にかざしていく。
その瞬間、厨房側のタブレットにも注文が反映された。
――――――――――――――――――――
食堂注文
テーブル:奥六人席
利用者:《青嵐の足跡》六名
Aセット:2
Bセット:2
Cセット:2
会計:前会計
決済:探索者用スマホ決済アプリ
状態:調理待ち
――――――――――――――――――――
「よし、入った」
俺は軽く両手を合わせた。
六人分。
セット構成。
しかもA、B、Cがきれいに二つずつ。
こういう注文は、厨房側の段取り確認にもなる。
まずはカツカレー用の皿を二枚。
炊き上がっているご飯を盛り、保温していたカレーを小鍋へ移して火を入れる。
衣をつけて下ごしらえしていたワイルドボア肉は、注文が入ってから油へ落とす。
じゅわっと音が立ち、厨房に肉と衣の香ばしさが広がった。
同時に、味噌焼き丼用のワイルドボアを鉄板へ並べる。
下味をつけた肉に味噌だれを塗ると、表面が焼けるにつれて甘辛い香りが立った。
焦がしすぎないように返し、丼のご飯へ刻み野菜を散らしておく。
Cセット用の焼きおにぎりは、ワイルドボア脂を薄く引いた鉄板で焼き直す。
表面にたれを塗り、もう一度焼く。
ホーンラビットつみれ汁は、鍋の中でつみれがふっくら浮いている。
「うわ、めっちゃいいにおいする」
食堂からそんな声が聞こえた。
「カレーだ。絶対カレーだ」
「味噌焼きの匂いもする。やばい、Bにして正解だったかも」
「Cも負けてないでしょ。あの焼きおにぎりの醤油の香り、完全に反則級」
客席が料理の匂いだけで盛り上がっている。
俺はその声を聞きながら、揚がったカツを油から引き上げた。
衣を切ると、ザクッと軽い音がして、中のワイルドボア肉から肉汁がにじむ。
カレーをかけ、カツをのせ、ミニスープとサラダ、魔力水を添える。
まずAセット二つ。
「チカさん、Aからお願いします」
「はい」
チカは配膳盆を受け取り、食堂へ出ていった。
歩き方が妙にしなやかで、エプロンの紐を揺らしながら席へ向かう。
「お待たせしました。Aセットです」
蓮と悠斗の前に皿が置かれた。
その瞬間、二人の視線が料理ではなく、ほんの一瞬だけチカの方へ寄った。
「ちょっと、料理を見なさいよ」
奈月が即座に突っ込む。
「見てた。料理も見てた」
「も、って言った」
「今のは言い逃れできないわね」
真琴にまで言われ、蓮は気まずそうに咳払いした。
チカは何を言われているのか分かっているのかいないのか、にこにこと会釈して厨房へ戻ってくる。
「召喚主さん、次はどれかしら」
「朝倉でいいですよ。Bです。味噌焼き丼二つ」
「じゃあ今度から朝倉さんで統一しますね。ではBセット持っていきます」
俺は味噌焼き丼を仕上げた。
ご飯の上に焼いたワイルドボア肉を並べ、照りの出た味噌だれを軽く回しかける。
横にホーンラビットつみれ汁、小鉢、魔力水が置いてある。
「お待たせしました。Bセットです」
真琴と奈月の前に置かれると、今度は二人が身を乗り出した。
「うわ、めっちゃ美味しそう!!」
「味噌だれの香り、反則じゃない?」
「反則多くないか、この店」
蓮が笑いながら、鼻をひくひくさせる。
最後にCセット。
焼きおにぎりを二個ずつ皿へ置き、ホーンラビットつみれ汁を椀へ注ぐ。
つみれ汁は具が沈まないよう、椀の中央へふわりとのせた。
小鉢と魔力水を添え、配膳盆へ乗せる。
「Cセット、お願いします」
「ええ」
チカが最後の二人分を運ぶ。
「お待たせしました。Cセットです」
大地と芽衣の前に焼きおにぎりとつみれ汁が並んだ。
芽衣は両手を軽く合わせ、目を細める。
「これ、時間的にはちょうどいいかも」
「いや、見た目より満足感ありそうだぞ」
全部そろったところで、六人は同時に箸を取った。
「いただきます!」
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