第46話 ダンジョン湖畔の宿泊施設、開店です!③
そのあとは、思った以上に早かった。
一組が入ると、外で迷っていた探索者たちも続いた。
小坂が受付を行い、井瀬川が案内し、こよりが補助に回る。
最初は小坂一人で処理できていたが、三組目が入ってきたあたりで、受付前に人が残り始めた。
>食堂だけを確認したい者。
>一時休憩だけ使いたい者。
>シャワーの空き枠を聞く者。
>宿泊できないと聞いて肩を落とす者。
そのたびに、小坂は利用区分を確認し、必要な説明を選んで返していく。
こよりは案内を重ねるごとに、スマホやタブレット端末を使った受付確認する余裕が出てきた。
一方の井瀬川は二階へ上がる客の人数と、戻ってくるタイミングをよく見ている。
俺は厨房側からロビーを見る。
「あっという間だな」
一時休憩室の枠が、表示上で埋まっていく。
最初の六人に、次の四人、さらに三人、最後に三人が加わり、二階大部屋の臨時休憩枠は開店して間もなく十六人で満員になった。
「……想定外にもほどがあるだろ」
厨房の作業台に手を置いたまま、俺はロビーの表示を見る。
予約客だけを相手にするつもりだった。
外に人がいることは分かっていた。
だが、ここまで一気に来るとは思っていない。
チカが隣からロビーを眺めた。
「あらあら。盛況ね」
「喜ばしい状況なんでしょうけど、この後のことを考えると悩みますね」
俺の言葉にチカは顎先に人差し指を持ってくる。
「建物の外も、安全地帯の内側に入っているのよね?」
「ん? え、えぇ。安全地帯の中ならですけど」
「それなら、お値段を少し下げて、外も休憩場所として案内してみたらどうかしら。中のお部屋が空くまで待つ人も、外で座れるなら困らないでしょう?」
俺はチカを見る。
「外も休憩場所にするのか。なるほど……その手があったか」
「今日だけ、ということにしておけばいいのではなくて?」
そう言われると、確かにその通りだった。
中の大部屋は十六人でいっぱいだ。
だが、安全地帯そのものは半径百メートルある。
入口正面と境界付近を空けて、建物側面や湖畔寄りの草地を使えば、休憩場所としては十分に成り立つ。
俺は管理表示を開いた。
「臨時の外区画を作ります」
表示の中で、宿泊施設正面から少し外した草地を選ぶ。
入口回廊とは重ならない。
食堂の客が出入りする導線とも重ならない。
――――――――――――――――――――
表示種別:区画設定
区画種別:一時休憩
区画名:屋外臨時休憩区画
利用条件:受付承認済み
設備条件:利用者持込の簡易椅子、敷物、折りたたみ椅子を本日に限り許可
注意:入口回廊、建物入口、食堂導線を塞がないこと
設定結果:完了
――――――――――――――――――――
「小坂、聞こえるか」
俺は厨房入口から受付へ声をかけた。
小坂が受付カウンターで顔を上げる。
「はい、聞こえてます」
「外に臨時休憩区画を追加した。上の十六人から減れば二階大部屋へ入れる。空きがない場合は、外の草地なら受付できる。安全地帯内だ。ただし、今回の週末営業だけの措置で、自分たちの簡易設営は認めることにして、あとは周囲の利用客同士の間隔とかは自分たちでやって、という感じにしよう」
「了解です! 案内を切り替えます」
小坂は次の探索者へ向き直った。
「現在、二階の一時休憩室は満員です。外の安全地帯内に、本日限定の臨時休憩区画を用意しました。簡易椅子や敷物をお持ちでしたら、指定範囲内で使えます。中の休憩室が空き次第、希望者からご案内します」
受付前にいた探索者たちが顔を見合わせる。
「外でも安全なのか?」
「はい。安全地帯内です。ただし、指定された区画から出ないようお願いします」
「じゃあ、そっちで」
「俺らも外でいい。中が空いたら教えて」
流れが少し変わった。
受付前で詰まりかけていた人が、外区画へ流れ始める。
チカは何事もなかったように厨房へ戻る。
「あら。少し落ち着いたわね」
「今の助かりました」
「ふふふ。どういたしまして」
そうしているうちに、階段の方から足音が下りてきた。
最初に二階へ上がった《青嵐の足跡》の六人だった。
榎本蓮が受付カウンターへ近づく。
さっきより警戒度は明らかに薄い。
代わりに、奥の食堂へ視線が向いていた。
「すみません」
小坂が顔を上げる。
「はい、いかがしましたか?」
蓮は仲間を一度見てから、期待を隠しきれない表情を作っていた。
「あの、食堂って、今から利用できますか?」
「もちろんです!」
小坂はすぐにうなずいた。
「ただ、食堂をご利用中も、一時休憩の利用時間は減っていきます。もし時間を超えそうでしたら、先に受付で延長をお願いします。有料にはなりますが、延長しておけば二階のお部屋はそのまま使えます」
「食べてる間に時間切れになったら、どうなります?」
椎名悠斗が、階段の方を気にしながら聞いた。
「その場合、一時休憩室への入室権限がなくなります。六名様分の枠も空き扱いになりますので、ほかのお客様へ回します。食堂利用そのものは大丈夫ですが、二階へ戻れなくなりますのでご注意ください」
六人が、そこで顔を見合わせた。
後ろでは、受付待ちの探索者がまだ途切れていない。
二階の休憩室が埋まったことも、さっき小坂の口から聞いている。
「じゃあ、今のうちに追加します」
蓮がそう言うと、仲間たちもほぼ同時にうなずいた。
「何時間延長されますか?」
「そうですね……とりあえず六時間、いけますか?」
小坂は運営側だけが見えるステータス画面を見直した。
六時間……一時休憩の延長としては、初日からなかなか強気な数字だ。
けれど画面上では、延長不可の表示は出ていない。
「可能です。屋内一時休憩は六十分二千円ですので、六時間延長ですと、お一人一万二千円。六名様で七万二千円になります」
「安いな」
杉浦大地が、思ったより大きな声で言った。
瀬尾真琴が肘で軽くつつく。
「あ、悪い。でも中央広場なら、一時間の席代だけでこれくらい飛ぶぞ」
「それで二階に戻れるなら、追加でいいと思う」
北沢芽衣がそう言うと、河合奈月も財布を出しながらうなずいた。
支払いは、さっきと同じ流れで終わった。
小坂が受付画面で延長処理を確定すると、六人の頭上に出ていた一時休憩マークの横へ、新しい数字が表示された。
>榎本蓮《+7》
>椎名悠斗《+6》
>杉浦大地と瀬尾真琴《+5》
>河合奈月と北沢芽衣《+4》
もちろん、客本人には見えていない。
受付に立つ小坂と、横で補助していたこより、井瀬川だけが、その数字を見て固まった。
「えっ。えっ、なんですかこれ。頭の上に、また数字が出ました」
こよりが小声で言う。
井瀬川も、眼鏡の奥で目を細めた。
「本当だ。全員、数値が違う」
「延長時間、同じですよね……?」
小坂が受付画面と六人の頭上を見比べたところで、厨房の方から足音が近づいてきた。
「小坂!」
朝倉が厨房から受付へ小走りで出てくる。
手には、開きっぱなしの管理表示が浮かんでいた。
「今、通知があった。休憩地ポイントが増えたぞ。31ポイント増えた!」
小坂はもう一度、六人の頭上に並んだ数字を見た。
《+7、+6、+5、+5、+4、+4》
「もしかして、さっきの+4とかって……」
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