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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第41話 ダンジョン湖畔の宿泊施設③

 「禁忌事項?」


 俺が言うと、表示の横に白い球体がふわりと出てきた。

 宿泊型ルートの初期設定で見た、あのガイドアシストだ。


 『はい。本来、異世界を通じた、いわゆる『渡り』と呼ばれる行為は、世界によって制限または禁止されています』


 「……渡り。マジか」


 『このオリジンスキルによる異界人材雇用は例外扱いです。ただし、許可されているのは契約範囲内に限られます』


 小坂が眉間に皺を少しだけ寄せた。


 「契約範囲内って、具体的にどこまでですか?」


 『現在の契約では、この【休憩地】の安全地帯内のみ滞在が許可されています。契約者は、安全地帯の境界を越えることができません』


 「つまり、外にある安全地帯より先は出られない?」


 『はい。また、契約者本人が自分の世界、出身地、世界間移動の詳細などを語ることも禁忌事項に該当します』


 「なるほど。だから笹原さんは何もしゃべれなかったのか」


 笹原こよりは、少し情けない顔で頷いた。


 「はい……。言えないことは、こんな感じでしゃべれなくなります」


 「それ、かなり重要な話ですね」


 小坂が真面目な顔になった。

 さっきまでの興奮は残っているが、表情は真剣だった。


 「じゃあ、何がオーケーで何がダメなのか、働きながら一緒に知っていきましょう。こよりちゃんが困った時は、無理に言おうとしなくて大丈夫です!」


 「はいっ。ありがとうございます!」


 とりあえず、顔合わせとして必要なファーストコンタクトは果たせたと思う。

 最初はどうなるのか? なんて考えてはいたが、こういうのはやってみないとわからないものだとつくづく実感する。

 そして同時に異世界人材という言葉の重さを、ようやく少し理解した気がした。


 「じゃあ、続けて二人目を召喚する。笹原さんは少し待っていてくれ」


 「はい!」


 俺はもう一度、従業員管理の画面を開いた。

 さっきと同じように応募者名簿を出し、二人目の候補を選ぶ。


 ――――――――――――――――――――

 応募者2

 氏名:井瀬川湊

 種族:人間

 年齢:20歳

 身長:182cm

 技能:なし

 希望作業:荷運び補助、リネン補助、備品整理

 日額ポイント:65

 最低契約期間:七日

 備考:力仕事希望。接客は短時間なら対応可。

 ――――――――――――――――――――


 「次は井瀬川湊さんだ」


 「バックヤードと備品整理の人ですね」


 俺は雇用を選択した。

 確認画面に、契約期間と消費ポイントが表示される。

 俺は内容を確認し、《はい》を選んだ。


 ロビーの床に、また黒い渦が広がる。

 笹原こよりが小坂の横で、両手を胸の前に寄せた。


 光が弾ける。


 そこに立っていたのは、背の高い女性だった。

 黒髪は肩までのセミロングで、眼鏡をかけている。

 身長はかなり高い。

 女性というより、鍛えたアスリートのようなしなやかな体つきで、ロビーに立っただけで存在感があった。


 大きな目は印象的だが、目元が少しきつい。

 初対面で笑顔を浮かべるタイプではなさそうだった。


 「……あんたたちが召喚主?」


 開口一番、それだった。


 「ああ、そうだ。召喚主の朝倉だ。よろしく」


 井瀬川湊は軽く片手を上げた。


 「了解」


 「小坂です。よろしくお願いします」


 「ん」


 返事は短い。

 だが、拒絶している感じではない。

 必要な分だけ答えている、という印象だった。


 井瀬川湊の視線が、俺たちの横へ動く。


 「こいつは?」


 「はわわわわ!」


 笹原こよりが小坂の後ろに半分隠れた。

 ぱっと見の圧が怖かったらしい。


 「大丈夫、大丈夫。こよりちゃん、同じスタッフさんだから」


 小坂が笹原こよりの肩を軽く支える。


 「君と同じで、異世界から召喚に応じてくれた人だ。同じ働く仲間だから、仲良くしてくれ」


 「あぁ」


 井瀬川湊はそれだけ言って、笹原こよりをもう一度見た。

 笹原こよりはまだ少し怯えていたが、井瀬川湊の方は特に追い打ちをかける様子もない。


 「怖がらせるつもりはないから」


 「は、はいぃ」


 さっきよりも長めの一言だったが、本人なりに気を遣ったらしい。


 「じゃあ、最後の召喚だ」


 俺は三人目の候補を選んだ。


 ――――――――――――――――――――

 応募者3

 氏名:花森チカ

 種族:人間

 年齢:23歳

 身長:171cm

 技能:なし

 希望作業:配膳補助、食器洗い、簡易調理補助

 日額ポイント:80

 最低契約期間:七日

 備考:料理店手伝い経験あり。落ち着いた職場を希望。

 ――――――――――――――――――――


 「花森チカさん。厨房と配膳補助の人ですね」


 「これで初回予定の三人目だな」


 俺は同じように雇用を選択し、確認画面で、《はい》を選んだ。


 三度目の黒い渦が床に広がる。

 ロビーにいた全員が、自然とそこへ目を向けた。


 光がほどけるように消え、その中から一人の女性が現れた。


 金髪で、身長は小坂より少し高い。

 体つきは細すぎず、全体のバランスがいい。

 ぱっと見ただけで、美人だと分かるタイプだった。


 「あらあらあら。召喚されちゃった?」


 第一声が、妙にのんびりしていた。


 「召喚主の朝倉です。よろしくお願いします」


 「小坂です。よろしくお願いします」


 花森チカは目を細めて、俺たちを順番に見た。


 「あらあら、召喚主さんね。随分とお若いこと」


 「なんか調子狂うな」


 思わず言うと、小坂が横からじとっと見てきた。


 「先輩、美女に鼻の下伸ばしちゃダメですからね」


 「伸ばしてない」


 「今ちょっと伸びてました」


 「……伸びてない」


 花森チカは、そんなやり取りを見て可憐な花を思わせるにこやかな表情を見せ、次に笑みを見せた。

 井瀬川湊は腕を組んで黙っている。

 笹原こよりは、なぜか小坂の横でこくこく頷いていた。


 これで三人。

 受付補助の笹原こより。

 バックヤードと備品整理の井瀬川湊。

 厨房と配膳補助の花森チカ。


 初回宿泊営業のために選んだ人材が、全員目の前に揃った。


 俺は三人の方へ向き直った。


 「改めて、今日を含めて二日間だけの営業になる。こちらも初めてのことが多いから、説明が足りない部分は出ると思う。それでも、力を貸してほしい。よろしく頼む」


 笹原こよりが、ぱっと背筋を伸ばす。

 井瀬川湊は軽く頷く。

 花森チカは、ゆっくりと微笑んだ。


 こうして、湖畔休憩地の初めての異界人材スタッフ三名が揃った。

読んでいただきありがとうございます。

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