表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/64

第38話 湖畔到着…したんですが

 金曜の仕事終わりの夕方、最後の確認を終えた。


 契約予定の異界人材は三名。


 受付と案内補助に、《笹原こより》。

 厨房と配膳補助に、《花森チカ》。

 バックヤードと備品整理に、《井瀬川湊》。


 真辺リツは二日目の宿泊状況次第で検討。

 葛城ナオは今回は見送り。


 雇用ボタンはまだ押さない。

 契約成立後すぐに召喚される以上、十階層で安全地帯を最大展開し、説明場所と従業員用の休憩場所を確保してから押す。


 「いよいよですね」


 小坂が折り畳みコンテナを閉じながら言った。


 「そうだな。とうとう宿屋っぽいとこまで来たな」


 「先輩、緊張してます?」


 「…そう見えるか?」


 「めっちゃ見えます」


 「宿泊営業だぞ。しかもダンジョンの十階層で」


 「それも湖畔の傍で、ですもんね!」


 小坂は笑ったが、自分が持っていく予定の備品を何度も確認していた。

 浮かれているだけではない。

 探索者装備、受付用ポーチ、予備バッテリー、タオル、替えの手袋。

 必要なものを、ひとつずつ詰めている。


 黒瀬は作業場のシャッター近くで、最後に積み残しがないか見ていた。


 「朝は?」


 「二時に出ます。六時には十階層に着きたいので」


 「ずいぶんと早いな」


 「朝のうちに展開して、範囲設定して、人材召喚して、説明して、宿泊予約の受付を確認して……」


 自分で言っていて、途中で気付く。


 「やること多くね?」


 「今更ですけど多いです」


 小坂も即答した。

 黒瀬は笑ったあと、真面目な顔に戻る。


 「無理に全部を成功させようとするなよ? 初回だし失敗前提でまずは2日間、だ。安全第一で運営することが最も大事だぞ」


 「はい」


 「小坂も、情に流されるな。客が多いほど、入れない判断をする人間が必要になる」


 「はい。そこはちゃんとやります!」


 俺は作業場の奥に積まれていた最後の箱を休憩地倉庫へ入れた。

 明日の朝、この中身が十階層の湖畔で実際に活用される。


 「なんかもう、ただの副業じゃなくなってきたなぁ」


 「ですです!」


 俺たちは一旦帰宅した。



 ◇



 そして週末の土曜日。


 午前0時頃に起きると、外は当然だが暗かった。

 スマホの画面には、小坂からのメッセージが入っていた。


 『いま起きました。寝坊してません。えらいです』


 俺は少し笑って、返信する。


 『えらい。こっちも起きた』


 朝食というより夜食に近いおにぎりを食べ、探索者ライセンス、予備バッテリー、財布、タオル、着替え、受付用の小物をまとめて確認する。


 今回は現物の荷物がかなり少ない。

 平日のうちに黒瀬のところで宿泊施設内の倉庫へ搬入してあるからだ。

 

 そして用意を済ませ、家を出る。

 いつもこのくらいの時間に出発していたのだが、今日は妙に胸が高鳴っていた。


 「……おし。今日はやるぞ」


 少しだけ気合を入れ直し、そして集合場所を目指す。



 ◇



 「おはようございます」


 「おはよう。ぜんぜん眠くなさそうだな」


 「起きた時は眠かったですけどね。だんだんと眼が冴えてきまして」


 「俺も同じだ。最初は眠かったんだけど、今日のことが楽しみでな」


 「うわーめっちゃわかります! 準備しているときはそればっかり考えてましたよ」


 合流場所となった駅前は、昼間とは別の場所みたいに静かだった。

 

 「みんなが帰宅しているときに俺らは出発か」


 「なんかいけないことをしている気分です」


 そして駅前でタクシーを使い、東京湾岸ダンジョン入口へ向かう。


 「ダンジョン周辺は常に人の気配でいっぱいですねぇ」


 東京湾岸ダンジョンに近づくにつれ、探索者らしい人影が少しずつ増えていった。


 早朝に潜る探索者は珍しくない。

 駆け出しの探索者はだいたいこの時間帯から出発することが多く、入口周辺はいつも混雑していた。

 受付を通り、階層移動の手続きをして、十階層へ降りる。


 順調に下っていき、そして四時間が経過した。

 九階層から下に階段を降りきると、急に湿った草の匂いがした。


 午前六時少し前。

 俺と小坂は途中のダンジョン都市を素通りして、いつもの北側草地へ向かって歩いた。


 そして、いつもの場所がもうすぐの所まで来た時、遠目に映る光景に足が止まった。


 「……先輩」


 小坂の声が小さくなる。


 湖畔の周辺に、人がいた。


 一人や二人ではない。

 探索者装備の男女が、いくつもの小さな集まりを作っている。

 荷物を地面に置いている者。

 スマホを見ている者。

 こちらに気づいて、顔を上げる者。

 まだ営業準備もしていない草地の周辺に、明らかに待っている人間がいる。


 俺は思わず、小坂と顔を見合わせた。


 「……あれ…全部か? ちょっと…多くないか?」


 「……多いです。ちょっとどころじゃない…です」


 俺は確かめるかのように湖畔を見た。

 いつもの場所。


 「いつもの場所だよな…」


 小坂も周囲を窺い、そして大げさに首を縦に振った。


 「ですです!!」


 いつもの場所だけど、いつもの週末の朝ではない。


 週末営業は、まだ始まっていない。

 それなのにもう、入口の前には人が集まり始めていた。


読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ