第37話 週末営業前会議(後編)
「問題は、ポイントをどう稼ぐかですね」
「俺もそこが今一番知りたい」
「宿泊、食堂、売店、休憩利用、施設利用で自然に増えるって話でしたけど、獲得量は営業実績不足で不明でした」
「今回はそこを検証したいよな」
俺は宿泊施設の管理表示で、ロビー、売店、食堂、厨房、それから二階と三階に並ぶ客室を確認した。
「宿泊営業は一部営業ということで1フロアのみ営業して、食堂はフルで動かす。売店は今回様子見だ。人員が割けないし、休憩だけの利用者も入れる。そうしないと、何でどれくらいポイントが入るかわからない」
「経験値稼ぎですね」
「ほんとそれ。ゲームの世界を現実でやってる気分だよ」
「てことはですけど、施設レベルとかありそうじゃないですか? だって謎のポイントまで出て来たんですよ? コンボもレベル上がればもっと特殊な効果が付くのかもしれません」
「うはぁ…めっちゃありえる」
小坂の言う通りで、今は施設名しか付いていないが、明日の営業でポイントを稼いだ時に見え方だったり、機能解放があっても不思議では無い。
黒瀬はステータス画面を見つつ、口を開いた。
「地上の金で買えるものと、ポイントでしか動かせないものは当面分けた方がいいな。このままいくとポイントでしか取得できない物だったり、施設だったり出てきそうだぞ?」
「既に人材という面でポイントが絡んでますからね。このポイントという存在は、お金にかえられない価値がありそうです」
「後はそうだな…経営者の先輩としての意見だが、現金の売上だけ見て喜ぶなよ」
「うぐ…耳が痛いです」
「今のうちに痛がっとけ」
「そういや先輩、売上管理ってどんなアプリ使っているんですか?」
「ん、あぁ、それは…」
その夜は深夜まであーでもない、こうでもない、そんな感じで三人は楽しそうに意見を出し合っていた。
◇
翌日の夜。
俺たちは黒瀬工務設備に来ていた。
ここ最近は俺の部屋で打ち合わせするか、黒瀬の所で実際に宿泊施設を出して準備するかの二択になりつつあった。
小坂が受付アプリを確認していると、急に「あ」と声を出した。
「どうした?」
「予約、入ってます。《銀嶺の道標》さんのクラン内パーティーですね。堂島さん経由で、土曜の午前利用、昼食希望、シャワー希望者あり」
「堂島さん、仕事が早いな」
「それとは別に、打診が来てます」
小坂が画面をこちらに向ける。
内容は《銀嶺の道標》として湖畔休憩地の利用許可契約を結び、日付や時間ごとの予約ではなく、クラン所属者が必要に応じて利用できる形にできないかという相談だった。
黒瀬も画面を覗き込んで、眉を寄せる。
「一気に来たな。まぁそうなるだろうな」
「ですね」
小坂は困った顔をしながらも、表情は少し楽しそうだった。
「でも、これ自体は自然だと思います。クラン側からしたら、いちいち日付と時間を決めて予約するより、使える時に使えるほうが便利ですし」
「そりゃそうだが、まだ全てが整ってない今だと無制限に受けられないぞ?」
「なので、利用券方式はどうでしょう」
「券にするのか」
小坂は受付アプリを閉じ、今度は決済アプリのテスト画面を出した。
口頭の案だけで済ませず、画面上の枠を見せる。
「ダンジョン都市だと、店に入れるかどうかは店側の受付と警備の問題ですよね。でも先輩のスキルは、領域内に入れるか入れないかをスキル側で設定できます」
「入場承認のことだな」
「はい。だったら、遊園地の入場券みたいに、個人に利用券を付与する形にできませんか?」
俺は【休憩地】を意識しながら、入場承認、区画利用権限、設備利用権限の項目を順に見る。
今までは、その場で確認して付与していた。
でも、たしかにスキル経由なら、事前に個人へ利用権限を持たせることができるかもしれない。
「たとえば、土日共通一日券。入場と休憩区画、水場利用まで。シャワーと食堂は別料金。宿泊は完全予約制」
小坂は指で画面を突かず、言葉で区切っていく。
「クランごとにまとめて買ってもらうんじゃなくて、使う人本人に付与します。本人の探索者IDと紐づければ、偽造できません。譲渡も不可。転売もできません」
「転売できないのは大きいな」
俺は思わず言った。
「Yで話題になってるなら、変な買われ方をされる可能性ありますから」
「それで入口に知らない人が券を持って来るのが一番面倒だ」
黒瀬が表情を硬くする。
「紙の券はやめとけ。基本的に譲れる物は価値がついてしまうと必ず揉める」
「ですよね。だからスキル付与です。券って名前だけど、実際は入場許可データです」
小坂は俺を見る。
「先輩、スキルに聞けます?」
「やってみる」
俺はガイドアシストを呼んだ。
いつもの白い球体が、テーブルの端に小さく出る。
『お呼びになりましたか』
「個人単位で、事前に入場許可みたいなものを付与できるか? 紙や画像じゃなくて、本人に紐づいた利用券だ」
白い球体が少しだけ止まった。
『少々お待ちください……』
白い球体の表面に光の線が何度も流れる。
まるで誰かとやり取りしているようだった。
『現行機能では、管理者または運営スタッフによる事前承認リスト登録として処理可能です』
「それを事前の権利として扱えるか?」
『正式な利用券管理機能は未解放です。ただし、探索者IDまたは受付アプリ登録情報に紐づく一時入場許可、各種フロア、及び、利用区画は都度設定が可能です』
「譲渡は?」
『不可です』
「偽造は?」
『休憩地側の承認情報と一致しない場合、入場できません』
「転売は?」
『本人に紐づくため、権利の移転はできません。管理者側で権利を与える、もしくははく奪、この二種のみです』
小坂が両手を軽く握った。
「いけますね」
「正式機能ではないけどな」
「今は試験運用で十分です。名前は利用券で、実態は事前承認リスト。クラン契約は、いきなり無制限利用じゃなくて、所属者本人に付与する枚数制にしましょう」
黒瀬が頷く。
「今のキャパならそれがいいな。日にちも時間も関係なしに使わせる契約は、まだ早い。だが、券の枚数と利用条件を決めれば、クラン側の希望にも少し寄せられる」
「今回から試すか」
俺が言うと、小坂はすぐに受付アプリの予約画面を開いた。
「土曜分は、堂島さん経由の予約者を事前承認に入れます。予約外は入口で判断。クラン利用券は、まず試験として少数だけ。宿泊は別枠で、必ず事前予約」
「宿泊客は最大で3階フロア分までにしとこうか」
「はい。初回は宿泊営業の経験を積むのが目的です」
ガイドアシストは何も言わず、テーブルの端に浮かんでいる。
いつもは見せない、あの光の線がずっと流れていた。
◇
この世界ではない、もっと別の、もっと遠い場所。
朝倉たちにはうかがい知れないそんな場所で、誰かが熱心に映像を確認していた。
そして、すぐ脇にはあのステータス画面が表示されている。
だが、朝倉たちが見ているステータス画面とは少し違って、色んな項目が並んでいた。
――――――――――――――――――――
観測対象:オリジンスキル【休憩地】
スキル取得者:朝倉歩
補助者:小坂由真、黒瀬亮介
運営課題:入場承認、事前利用権限、宿泊予約、複数人材管理
提案候補:休憩地運営管理アプリ
次回成長時追加候補へ登録しますか?
――――――――――――――――――――
『初のオリジンスキル案件、現地適応良好』
声は誰にも届かない。
小さな手のようなものが、ぽち、と表示を押した。
――――――――――――――――――――
次回成長時追加候補:休憩地運営管理アプリ
登録:完了
――――――――――――――――――――
窓はすぐに閉じた。
黒瀬工務設備の作業場では、朝倉たちがまだ週末営業の持ち物を確認している。
誰も、今、ここで起きていることは知らない。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




