第35話 異界人材採用ミーティング
昼休憩は会社から少し歩いた公園になった。
駅前の店は混んでいるし、会社の休憩スペースで半透明の表示を出すわけにはいかない。
俺はコンビニでおにぎりとお茶を買い、小坂はサンドイッチと紙パックのカフェオレを持ってきた。
公園の奥、植え込みの影になっているベンチに並んで座る。
「じゃあステータス出すぞ」
「ちょっと待ってくださいね…はい、いまはOKです!」
小坂が少し緊張した顔で左右を確認した。
昼休みの公園には人がいる。
だが、こちらをじっと見る人はいない。
俺は【休憩地】を意識し、ステータスを表示させた。
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【休憩地】
表示種別:異界人材応募者名簿
募集種別:一般人材枠
募集対象:人間
技能条件:特殊技能なし
掲載残り:七日
雇用を選択すると、契約成立後ただちに召喚されます。
召喚場所の安全確認を推奨します。
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「召喚場所の安全確認……まぁそうだよな」
「召喚された異世界の人間の安全を担保しろってことですかね。じゃあ、休憩地スキルを展開した状態で雇用しないとダメそうかも」
「そうだな。まぁ何にしても今日は押さないが」
表示の下に、応募者名簿が開く。
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応募者1
氏名:笹原こより
種族:人間
年齢:18歳
身長:159cm
技能:なし
希望作業:受付補助、案内補助、簡易清掃
日額ポイント:50
最低契約期間:七日
備考:未経験。明るい職場を希望。
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「名前もちゃんと書いてあるな…それもこの日本の姓名ルールと同じ法則性をもつ名前だぞ? 異世界の住人なんだよな??」
「た、たしかに…異世界設定はどこに…??」
「それに見て見ろよ。ちゃんと希望作業が書いてある。この、こよりって人は受付系か」
「ほんとですね。これである程度絞れそうです」
「ポイントは…50ポイントか」
「50ポイント? 意外とローコストですね。てっきりもっと取られるかと思ってましたけど」
「一週間で350ポイント。まぁ許容範囲だな」
「先輩、備考のとこ見てください。未経験、明るい職場を希望、ですって」
「さらっと流しそうだけど、結構重要なこと書いてるよな。しかし明るい職場か…」
俺は何気なく小坂をじっと見る。
「…先輩? 私はそれは明るいプラス思考人間ですからねっ?!」
小坂はふんす、と鼻息荒く腕を組んだ。
「あぁわかってるさ。無駄に元気だしなぁ」
「それ、どういう意味です…?」
「さ、さて次見るぞ!」
誤魔化し気味に、俺は表示を次へ進ませる。
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応募者2
氏名:井瀬川湊
種族:人間
年齢:20歳
身長:182cm
技能:なし
希望作業:荷運び補助、リネン補助、備品整理
日額ポイント:65
最低契約期間:七日
備考:力仕事を希望。接客は短時間なら対応可。
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「荷運びとリネン補助、か。要するにバックヤード系の力を使う仕事とか補充に向いてそうだな」
「全体的に必要なポジションですよね」
「備考にも力仕事向きで接客は苦手そうだな」
そして次へと進む。
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応募者3
氏名:花森チカ
種族:人間
年齢:23歳
身長:171cm
技能:なし
希望作業:配膳補助、食器洗い、簡易調理補助
日額ポイント:80
最低契約期間:七日
備考:料理店手伝い経験あり。専門調理技能はなし。
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「…厨房補助」
俺と小坂の声が重なった。
「先輩、今ちょっと前のめりになりました」
「……なってない」
「なってます。まだダメですよ?」
「わ、わかっているよ。次行くぞ」
次の表示が開く。
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応募者4
氏名:真辺リツ
種族:人間
年齢:26歳
身長:164cm
技能:なし
希望作業:客室清掃、備品確認、忘れ物確認
日額ポイント:95
最低契約期間:七日
備考:細かい確認作業を希望。接客は少なめを希望。
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「清掃特化っぽい人ですね」
「宿泊なら一番大事かもしれない」
「分かります。でもまだ決めちゃダメですよ?」
「だから今日は決めないって」
そして最後の一人が表示された。
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応募者5
氏名:葛城ナオ
種族:人間
年齢:24歳
身長:176cm
技能:なし
希望作業:夜間見回り補助、受付補助、施設巡回
日額ポイント:120
最低契約期間:七日
備考:夜間勤務希望。単独判断を伴う警備業務は不可。
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「夜間見回りか。そうだよな。十階層は地上の時間とリンクしてるからちゃんと夜もあるし」
「でも休憩地スキルだと安全が担保されていますよ?」
「まぁそうなんだけど。今は要らないかもだけど、規模が大きくなると必要なのかもな」
表示の下に、確認文が出ている。
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注意:
日額ポイントは、出勤有無にかかわらず契約期間中に消費されます。
最低契約期間は七日です。
契約成立後は即時召喚されます。
契約前に、召喚場所、作業内容、宿泊場所、説明担当者を決定してください。
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俺はおにぎりを食べながら、しばらく表示を見ていた。
表示された五人は、全員が人間で、全員がスキルなしだった。
日額50から120ポイント。
最低契約一週間。
一般人材枠という言葉の通り、スキルとか派手な能力はない。
けれど、宿泊施設を回すなら、派手な能力よりこういう縁の下の力持ち的な人手のほうが必要になる。
小坂が小さく息を吐いた。
「これは雇用するにしても色々と考えないとですね」
「そうだな。勢いで選ぶと後々大変そうだ」
「それと雇用したら、この人たちって雇用中はどこに住んでるんですかね」
「………ガイド、小さく目立たず出てこい」
すると目の前に野球のボール程度の大きさで、あのガイドアシストは出現した。
『お呼びになりましたか』
「あぁ。質問なんだが、この雇用を締結したら、その人たちはどこに住むんだ?」
『選択肢は二つあります。一つ目は時間を決めて都度帰すというやり方です。これは時間設定機能で自由に変更がききます。二つ目はそのまま宿泊地内で休ませるというやり方です。これも設定で変えられます」
「なるほど。それは結構便利だな。部屋は結構あるし、従業員用とかで使わせてもいいしな」
「当分は週末営業だけですから実質二日間ですしね。帰す選択肢あって助かります」
『なお、雇用した人員はそれぞれ体力が設定されています。それがある一定のラインを下回ると、休憩を強制的に取ることになりますので、従業員が休める場所は作っておいた方がよろしいかと』
「なに? 体力設定だと??」
「先輩、これめっちゃゲームです」
俺と小坂は顔を見合わす。
「なんにしてもだ、週末営業に向けて色々と練り直さないとなぁ」
「ですです! なんかめっちゃやる気になってきました!!」
俺は元気いっぱいの小坂を横目で見つつ、この先のことについて頭を巡らせていた。
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