第34話 異界人材の募集告知(後編)
俺は表示を見ながら考えた。
初回募集は一般人材、日額契約、最低一週間。
いきなり人を呼ぶのは危険だ。
けれど、募集告知だけなら、三日後にリストを見るところまでで止められる。
「募集告知したら、すぐ誰か来るわけじゃないんだな?」
『告知から三日後に、スキル内で応募者名簿を確認できます。名簿には応募者の概要、希望条件、日額ポイント、最低契約期間が表示されます』
「そこで条件を見て、よければ雇用」
『はい。雇用を選択すると、契約成立後ただちに召喚されます』
「選ばなければ?」
『掲載期間終了後、名簿は無効になります』
「募集告知の千ポイントは戻るのか?」
『戻りません』
「ですよね」
俺は少し笑った。
小坂は笑わなかった。
「先輩、本気ですか」
「本気というか、確認はしておきたい。いきなり雇わない。まずは最低ランクで募集告知だけ」
「最低ランクって言い方もなかなかですけど」
「そうだな。最近はコンプラとかも厳しいし。一般人材枠、だな」
言い直すと、小坂は少しだけ肩を落とした。
「まあ、リストを見るだけなら……でも、表示を見たら先輩、絶対迷いますよ」
「……それは確実に迷うと思う」
「そこは否定してください」
黒瀬が俺たちのやり取りを聞きながら、ガイドアシストを見る。
「一つ確認だ。こっちの世界の情報を、そいつらが外に漏らすことはあるのか」
『契約中に知り得た休憩地内部情報は、契約制限により無断開示できません。そしてこれは逆もまた同様です』
「契約終了後は?」
『休憩地内部情報は記憶保護対象になります。元の世界へ戻った後も、詳細な再現や第三者への伝達はできません』
「あまりにも便利すぎて逆に怖いな」
黒瀬はそう言ったが、俺を止めるところまではいかなかった。
小坂も難しい顔のまま、もう一度表示を見る。
「三日後にリストが出て、一週間載り続けるんですよね」
『はい』
「昼休みに確認するくらいはできますね」
「じゃあ、とりあえず募集告知はしておくか」
俺が言うと、小坂と黒瀬が同時に俺を見た。
「本当に押すんですね」
「告知までならノーリスクだろ? それに見てみないとなんとも言えないし。一般人材枠で最低費用。契約はもちろんだが、一旦は見るだけということで」
黒瀬は表示をもう一度見てから、顎を引いた。
「俺は反対寄りだ。だが、少なくともリスト確認まではしておいた方がいいだろう。それにこのスキルは底が知れない不気味さがある。だったら否定するよりも早いうちに確認して、使いこなさないとな」
「確かにそうですね」
「後だが……この人材を呼ぶときも場所を考えるべきだ。呼ぶならダンジョン内でのみにしておけ。あそこなら、こっちの街中よりは被害を抑えられる」
「そこは必ず守ります」
俺はガイドアシストへ向き直った。
「一般人材枠、最低費用で募集告知を出してくれ」
『承りました』
表示が一段階切り替わる。
――――――――――――――――――――
【休憩地】
表示種別:募集告知確認
募集種別:一般人材枠
募集対象:人間
技能条件:特殊技能なし
作業範囲:受付補助、清掃補助、配膳補助、リネン補助、荷運び補助
告知費用:1000ポイント
応募者提示:三日後
掲載期間:提示後七日間
この条件で募集告知を実行しますか?
――――――――――――――――――――
「人間に限定できるんだな」
『募集対象は切り替え可能です。ですが、現在の状況では人間のみの雇用に制限されています』
「よし。実行」
『募集告知を実行しました』
半透明の表示の一部が淡く光る。
――――――――――――――――――――
【休憩地】
休憩地ポイント:9000
異界人材募集告知:受付済み
応募者名簿提示予定:三日後
――――――――――――――――――――
「本当に減った」
小坂の声は、半分呆れで半分諦めだった。
『三日後にリストを提示します』
それで、この日の宿泊型ルート初期設定は終わりになった。
終わりと言っても、決まったことは少ない。
むしろめちゃくちゃ増えた。
「これ、黒瀬さんにも三日後に共有します」
「ああ。画面の写真は撮れるのか?」
『休憩地内部表示の撮影は制限されています』
「だろうな」
黒瀬は笑った。
「じゃあ、見た内容をメッセージでくれ。曖昧なまま採用するなよ?」
「もちろんですよ」
作業場を片付けるころには、外はすっかり暗くなっていた。
宿泊施設モデルは消え、白い球体も消えた。
けれど、頭の中にはまだ、応募者名簿という言葉が残っていた。
異界の住人を、出来れば一般人材として最低一週間だけ募集する。
どう考えても、普通の会社員が昼休みに考える内容ではなかった。
◇
そして三日後。
その日は、朝から落ち着かなかった。
営業先へ向かう電車の中でも、資料を確認しているふりをしながら、頭の端ではずっと応募者名簿のことを考えていた。
午前十一時を少し回ったころ、視界の端に小さな表示が浮かんだ。
――――――――――――――――――――
【休憩地】
通知:異界人材募集告知
応募者名簿を確認できます。
――――――――――――――――――――
俺はすぐに小坂へメッセージを送った。
『例のリスト見られるようになったぞ』
返信は早かった。
『人目が少ないところにしましょう。ステータス表示見たいので、公園で昼を取りながらどうですか』
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