第33話 異界人材の募集告知(前編)
「雇用?」
俺だけが、そう口にした。
半透明の宿泊施設モデルはまだ表示されたままだ。
ロビーも、食堂も、客室も、薄い青白い線でそこにある。
その手前に、白い球体のガイドアシストが浮いている。
受付、厨房、清掃、夜間対応まで考えれば、人員が足りないことは分かる。
宿泊型施設をやるなら、人が必要になるのは当たり前だ。
だが、ポイントを払って人を雇う仕組みとなると、俺の想像していた求人や手伝いの範囲を外れていた。
「説明してくれ。人員雇用では何ができるんだ」
俺が聞くと、ガイドアシストはすぐに応答した。
『休憩地ポイントを消費し、運営人員を募集、契約、配置できます』
「募集って、誰を?」
『異界の住人です』
小坂が一歩下がった。
「異界?」
『はい。現在の世界とは異なる環境に属する住人を指します』
「……ちょっと待て」
黒瀬がそこで割って入った。
作業場の床に置いていたメジャーを拾いかけて、途中でやめる。
「人を、別の世界から呼ぶって言ってるのか」
『はい』
「これが本当だったら世界がひっくり返るぞ」
黒瀬の言い方は大げさではなかった。
むしろ、かなり抑えているように聞こえた。
小坂も真顔になっている。
「さすがに信じれません。異界の人って、本当に人間なんですか?」
『人間も含まれます。人間以外の知性体が応募する場合もあります』
「……人間以外? 知性体??」
小坂が俺を見る。
俺も小坂を見る。
黒瀬はガイドアシストを見たまま、眉間にしわを寄せていた。
『初回運用では、一般的な人間の募集をおすすめします』
「……一般的な人間」
「逆に一般的じゃないのも来るってことですよね」
『募集条件により、応募者の傾向は変動します』
俺は半透明のロビーを見た。
受付カウンターらしき場所、食堂、厨房、宿泊客が通る廊下が薄い線の中に見える。
人が足りない。
それは本当に足りない。
それに、異界の住人。
言葉としては危ない、それはこの世界における常識を破壊する行為なのかもしれない。
けれど、俺の中では別の感情がじわじわ強くなっていた。
見てみたい。
めっちゃ見てみたい。
「先輩」
小坂が俺を見た。
たぶん、顔に出ていた。
「今、ちょっとワクワクしてません?」
「……してないとは言わない」
「はぁ。言わないだけなんですね」
黒瀬もつられてため息をついた。
「朝倉、お前な。こういう時だけ肝が据わるな」
「いや、だって、使える機能なら確認は必要でしょ?」
「確認と即採用は別だぞ」
「それはもちろん」
俺はガイドアシストへ向き直った。
「雇用した相手が、俺たちに危害を加えることはあるのか?」
『契約により、被雇用者は雇用主を害することができません』
「逆は?」
『雇用主も、被雇用者を害することはできません』
ガイドアシストの声は変わらない。
だが、その内容はかなり重かった。
『双方が契約相手への敬意を著しく欠いた場合、休憩地スキルの判断により強制契約解除が行われることがあります』
「強制契約解除?」
『被雇用者は元の世界へ送還されます。契約解除後の日額ポイントは消費されません。ただし、すでに消費された当日分のポイントは返還されません』
「つまり、こっちが乱暴に扱っても駄目。向こうがこっちに危害を加えても駄目。互いに最低限の礼儀を守らないと、場合によっては休憩地スキルが判断して強制的に契約を切る、と」
『概ね正しい理解です』
黒瀬が腕を組んだ。
「縛りはある。だが、完全に安心とは言えねえな」
「ですね。危害を加えられないとしても、知らない人をいきなり呼ぶわけですし」
小坂の言葉に、俺も頷いた。
「募集告知は今すぐ使える機能なのか?」
『使用可能です』
ガイドアシストの前に、新しい表示が出た。
――――――――――――――――――――
【休憩地】
表示種別:人事機能
機能名:異界人材募集告知
募集告知費用:一回1000ポイントから
応募者提示:告知から三日後
掲載期間:応募者提示から七日間
契約方式:応募者ごとの条件を確認後、雇用選択
召喚方式:契約成立後、即時召喚
――――――――――――――――――――
「一回千ポイント、か」
初期ポイントは一万なので、十分の一をここで使うことになる。軽いポイント量ではない。
『募集告知を行った時点で、最低1000ポイントを消費します』
「そこからさらに契約ポイントがかかるんだな?」
『はい。契約成立後、被雇用者ごとに設定された日額ポイントを、契約期間中は一日ごとに消費します』
「一回払って終わりじゃないんですね」
小坂が表示をじっと読む。
『日額、週額、月額などの契約形式があります。初回募集では日額契約、最低契約期間一週間の一般人材枠をおすすめします』
「一般人材枠??」
『特殊技能を持たない、基本作業向け人材です。受付補助、清掃補助、配膳補助、リネン補助、荷運び補助などに適性があります』
黒瀬が鼻で息を吐いた。
「いきなり高技能者を呼ぶなってことか」
『はい。優秀な技能、特殊効果、希少種族、専門職適性を持つ応募者ほど、募集告知費用および契約消費ポイントが増加します』
「やっぱり等級があるんですね」
『人材ランク、作業適性、保有技能、契約希望期間により条件が変動します』
「施設の配置だけじゃなくて、人材までランクで分かれるのか」
「募集条件次第で、来る人が変わるってことですよね」
『はい』
「なるほど。しかしこれほんとにゲームっぽいよなぁ。昔、カイ…なんとかソフトっていうゲームアプリにはまってた時期あったんだけど、めっちゃ似てるな」
「先輩、もしかして休憩地スキルがそれを読み取って、そして反映してこのルールを作っている、そんなことありませんか?」
「まさか…まさか、なぁ?」
俺はガイドアシストを見るも、この質問に返答は返ってこなかった。
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