第32話 宿泊型ルートの初期設定(後編)
エントランスからロビーへ入り、右手に小さな売店、奥に食堂と厨房があり、さらにスタッフ用の裏動線と倉庫へつながる扉まで見える。
全部が仮表示なので、壁や床は薄い青白い線でできている。
それでも、人がどこから入り、どこで受付をし、どこで食事を取るかは分かった。
「一階は施設ですね」
「売店と食堂が同じフロアにあるのはいい。ちなみにだが、客が食堂だけ使う時と泊まる時で受付は分けることができるのか?」
黒瀬の質問に、ガイドアシストが即座に反応する。
『初期設定では、ロビー受付にて宿泊、食堂、売店の利用区分を一括管理します』
「受付が一か所だと混むんじゃないか?」
『ポイント消費により受付端末の追加が可能です』
「うーん。またポイントかぁ」
「とりあえず二階を確認するか」
『現在の表示を二階表示に切り替えます』
すぐに一階から二階のレイアウトが周囲に表示された。
廊下の左右に個室が並び、奥に大部屋が一つある。
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【休憩地】
表示種別:宿泊施設モデル
階層:二階、三階
客室構成:各階二人部屋八室、大部屋一室
二人部屋:ベッド二台、ユニットバス、収納棚
大部屋:八人用、共用収納、ユニットバス
備考:間取り変更はポイント消費により可能です。
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「各階、二人部屋が八つに、大部屋一つ」
俺は声に出して数えた。
二人部屋だけで、一フロア十六人。
大部屋を合わせると二十四人。
二階と三階で、最大四十八人。
「これ管理無理じゃないですか?」
「俺もそう思った」
「四十八人を泊めるなら、二人で運営管理とかそういう次元じゃねぇな、これは」
「そうですよね」
俺は半透明の二階を見た。
部屋の扉がずらりと並んでいる。
「部屋の中のトイレと風呂は?」
『各客室には、トイレと浴槽を含むユニットバスを標準搭載します』
「全室ですか?」
『全室です』
「全室ユニットバス……すごいですけど、清掃とかどうしましょうか」
「部屋がこれだけあるともう食事とか云々の話じゃないよなぁ」
「アシスト、水と排水はどうなってる?」
『宿泊型ルート初期施設では、給水、排水、換気、衛生維持は休憩地機能により補助されます。その他厨房機能も同様です。ただし、全てにおいて魔石が必要という前提は変わりません』
「魔石がエネルギー全般をつかさどる源ってことは変わりないのか」
「じゃあ清掃や備品は人間側で用意ってことですかね」
小坂がそう言うと、アシストがまた反応した。
『基本備品は初期サービスとして配置されます。営業開始に必要なアメニティ、タオル類、寝具予備は施設倉庫に格納済みです』
「おお」
俺は思わず声を出した。
営業開始に必要な量がある。
それだけ聞くと、かなり助かる。
しかし、アシストはそこで止まらなかった。
『初期サービス分は自動補充されません。以後の補充はポイント消費により行ってください』
「やっぱりここもポイントか」
「無料で出すのは最初だけ。消耗品は運営費扱いだな」
「ポイント、かなり大事ですね」
「初期ポイントはあるのか?」
俺が聞くと、表示が切り替わった。
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【休憩地】
表示種別:ポイント初期残高
ポイント名:休憩地ポイント
初期残高:10000ポイント
主な消費先:備品補充、外観変更、間取り変更、受付端末追加、設備強化
客室備品補充:一室100ポイント
備考:ポイントは宿泊、施設利用、食堂利用、売店利用などで獲得します。
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「一万ポイント」
「多いのか少ないのか分からないですね」
小坂が首を傾げる。
「一室の備品補充で百ポイントなら、全室やったら千八百ポイントだ」
黒瀬がすぐ計算した。
「二人部屋十六、大部屋二、合わせて十八室。満室で一回転させたら、備品だけで千八百。毎日回したら六日で初期ポイントがほぼ消える」
「普通に運営したら、一週間もたないですね」
俺の声が少し乾いた。
宿泊施設が出て、客室も備品も最初から用意される。
それだけなら夢のような話だ。
だがそこまで甘くはないようである。
「アシスト、結局のところ、営業したらポイントはどれくらい入るんだ?」
『宿泊、施設利用、食堂利用、売店利用により自然蓄積します』
「一泊で何ポイント?」
『営業実績が不足しています』
「食堂利用一回は?」
『営業実績が不足しています』
「売店利用は?」
『営業実績が不足しています』
「徹底してますね」
小坂が苦笑する。
「運営させないと、ポイントのことは分からないってことか」
「ですね。初期ポイントは準備金みたいなもので、使うだけじゃすぐなくなります」
「問題は、使わないと営業できないことだな」
黒瀬は半透明のロビーへ視線を戻した。
「外壁を好みに変えるより先に、受付、清掃、備品補充の方だ。見た目にポイントを使うなよ」
「言われなくても使いません」
「お前、料理には凝るだろ」
「外壁は料理じゃないですよ?」
「食堂の内装なら?」
俺は少し黙った。
「……そこは、慎重にします」
「黒瀬さん、この人間違いなくやりますよ?」
「今の間で信用が減ったぞ」
黒瀬の声に、小坂が笑った。
俺も否定しきれなかった。
初期設定の項目は、まだまだある。
決めることは一気に増えたが、全部を今日決めるのは無理だった。
半透明の施設を一通り見ただけで今、確実に言えることは、二人体制では回らないことだけは分かる。
「これを俺と小坂だけでやるのは無理だな」
俺が言うと、小坂はすぐ頷いた。
「ですです。受付に一人、厨房に一人、清掃に一人、最低でもそのくらいは必要です。宿泊まで見るなら、夜間対応もあります」
「俺は会社員だしな」
「そこも、です。先輩が毎週末ここに泊まり込みで運営するのは、長く続かないと思います」
黒瀬も頷く。
「小さく始めるなら、最初は全室使うな。二人部屋を数室、大部屋は予約制。最初はこんなもんだろう」
「はい」
「それと、さっきも言われてたが、人だ。建物より人員が圧倒的に足りねえ」
白い球体が俺たちの間にすっと寄った。
『運営人員が不足しています』
「コイツに言われた」
小坂が苦笑する。
だが、次に出たメッセージで、俺たちは全員黙った。
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【休憩地】
表示種別:運営改善提案
判定:現行人員では宿泊型施設の通常運営に不足があります。
ポイントによる人員雇用をおすすめします。
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「……雇用?」
宿泊型ルートの初期設定は、建物の話で終わらなかった。
次に出てきたのは、人をどう増やすかという、もっと現実的な問題だった。
そして謎の提案をガイドアシストが提案してきて、三人はより一層困惑するのであった。
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