第31話 宿泊型ルートの初期設定(前編)
黒瀬工務設備の作業場には、前にシャワーユニットを仮組みした時と同じように、屋外スペースが空けられていた。
仮設資材のラックが端へ寄せられ、中央だけがぽっかり空いていた。
黒瀬は軍手を片手だけ外し、俺と小坂を見た。
「で、今度は宿泊型になったから、一回ここで出して確認したいと」
「はい。次に湖畔でいきなり展開するのは怖いので、まず黒瀬さんのところで見てもらいたくて」
「確かにな。しかしお前のスキルはホントによくわかんねぇな。そんな多機能なスキルなんて聞いたこと無いぞ」
「いやぁ、俺もよく分かってないこと多くて」
「まぁいいさ。俺も宿泊型に進化したって聞いてちょっとワクワクしたしな。さっさとやろうか」
俺は作業場の中央に立った。
「では、いきます」
俺がそう告げると、黒瀬は一歩下がり、小坂は遠くの位置からスマホで撮影に入る。
俺は【休憩地】の初期登録へ意識を向ける。
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【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:宿泊型ルート初期登録
登録名:湖畔休憩地
対象:管理者、運営スタッフ、設備協力者共有
宿泊型ルート反映準備中。
…………少々お待ちください。
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「おっ。なんか表示されたぞ」
「黒瀬さんにも見えてます?」
「ああ。俺の前にも出てる。設備協力者共有ってやつか」
「私にも見えてます。前よりだいぶ表示も安定してきましたね。痒い所に手が届き始めてるっていうか」
小坂が表示を見ながら言う。
俺も同じ文字を見ていたが、『少々お待ちください』という文面のせいで妙に落ち着かない。
そして待つこと数十秒、表示がようやく切り替わった。
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【休憩地】
表示種別:宿泊型ルート初期化
初期化します。
周囲の安全確認を行っています。
登録済み設備と宿泊施設モデルの統合準備を行っています。
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「さて、どうなるか……」
「なんかこっちまでドキドキしてきちゃいます!」
「どんな建物が出てくるか……」
直後にファンファーレが鳴った。
どこから音が出ているのか分からない。
天井のない屋外スペースに、金属音とも電子音ともつかない明るい音が広がる。
次に、俺たち三人の目の前で、光の粒がぱっと弾けた。
紙吹雪のような小さな光が上から降り、地面に触れる前に消える。
セレブレーション演出、と言うしかないものだった。
「……なんか……イメージと違って派手ですね、先輩」
「うーん。俺の中のスキル概念が根本から崩れていく……」
「最近のスキルは、こう、なんか演出が入るんだな……」
黒瀬の言葉に俺と小坂はお互いに視線を合わし、『そんなことないだろ』と内心で呟いた。
やがて、三人の前に同じメッセージが表示された。
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【休憩地】
表示種別:宿泊型ルート開始案内
おめでとうございます!
これから宿泊型ルートの初期設定を開始します。
まずは宿泊地モデルを半透明で表示します。
設備登録の時と同じようにカスタマイズできますので、区画設定を行ってください。
確定後、宿泊施設が出現します。
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「黒瀬さん、これ大丈夫ですかね」
「最初はカスタマイズできるように、半透明のカスタマイズモードになるんだろ? だったら問題ないと思うが」
すぐに、光の境界の内側へ巨大な半透明の建物が浮かび上がる。
最初に見えたのは入口だった。
両開きの自動ドアのような形。
その奥に、広めのロビー。
右手に小さな売店らしき区画があり、左奥には食堂につながる入口が見える。
上には二階と三階がある。
想像していた建物の規模感が、一回りどころか二回りは大きい。
俺の想像ではちょっとしたロッジ位だと思っていたので、目の前の半透明になっている建物に俺は内心驚いていた。
ただ、大型ホテルというほどではない。
探索者向けの小型宿泊施設、と言われれば一番しっくり来る規模だった。
「これ、コテージって言う規模じゃないですよね?」
小坂が半透明の外壁を見上げた。
「コテージの大きい版、というより、小さいホテルですね」
「だな。基礎も配管も見えねえが、建物の考え方はホテル寄りだ。入口を入ってすぐロビー、横に売店、奥に食堂。この配置見る限りは小坂の言う通り、ホテル的な構造だろう」
黒瀬は建物の周囲を歩き、半透明の壁を外から見た。
触れようとはしない。
位置、幅、入口、建物まわりを目測で大まかではあるが測っていた。
その時、俺たちの目の前に、バレーボールほどの白い球体が浮かんだ。
表面には顔も模様もない。
ただの無機質な球だ。
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【休憩地】
表示種別:カスタマイズ補助起動
機能名:カスタマイズガイドアシスト
役割:宿泊型ルート初期設定の質問回答、区画確認、ポイント消費案内
備考:未確定項目は案内できません。
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『カスタマイズガイドアシストを起動しました』
球体から、抑揚の少ない声が出た。
「しゃべった!!」
小坂がすぐ反応する。
「これ、質問には答えてくれるのか?」
『宿泊型ルート初期設定に関する質問へ回答します』
「なんという便利機能……これがイルカの姿だったら、お前をけ……」
『外観変更はポイント消費により可能です』
俺は半透明の外壁を見る。
今の外壁は、飾り気のない一般的なビジネスホテルに近い。
白とグレーを混ぜたような、よくある外装だ。
湖畔の景色には悪くないが、特別に合っているとも言いづらい。
「なあ、外壁は変えられるのか?」
『外壁、屋根、看板、照明、窓枠、入口意匠はポイント消費により変更可能です』
「そのポイントって何ですか?」
小坂が聞く。
『営業すると貯まるポイントです』
「……ざっくりですね」
「どう営業したら、どれくらい貯まる?」
『宿泊、食堂利用、売店利用、休憩利用、施設利用によりポイントが発生します』
「具体的な数字は?」
『営業実績が不足しています』
黒瀬が腕を組んだ。
「使わせたいのに、使うまで数字は出さねえタイプか。面倒だな」
「ですね。運営しないとポイントの感覚が分からないみたいです」
俺はまず施設の中へ意識を向けた。
半透明化した建物入口が一部消えて、中に入れるようになった。
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