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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第30話 第一段階進化(後編)

 言葉にした瞬間、小坂が俺の方に向いた。


 「進化ルート、ですか??」


 「あ、ああ。条件を満たして解放になったっぽいな」


 俺はこの選択可能ルートをまじまじと見る。

 小坂も俺の背中側に回って覗き込んだ。


 「おぉ…ホントだ。三択ですね」


 「お店、飲食店、宿泊、この三つのパターンなのだが…」


 「名前だけ見ると、どれも全部ありに見えます…けど」


 「悩むな…なんかこの詳細説明とかないかな」


 そう言うと、ステータス表示がお店ルートを選択寸前ではなく、詳細表示だけを開いた。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:進化ルート詳細

 ルート名:お店ルート

 方向性:物販・販売機能特化

 主な補正:商品棚、販売管理、在庫表示、会計連携、利用者向け商品案内

 将来候補:売店、探索者向け用品店、大型店舗、複合商業施設

 備考:飲食・宿泊よりも、商品販売と在庫管理に成長補正が寄ります。

 ――――――――――――――――――――


 「これは、売店から始まって、最終的には大型スーパーとかモールみたいになるのか?」


 「ダンジョン内モールですか。探索者向けなら需要はありそうです。武器防具や魔道具、ポーションに替え衣服、簡易食、工具…などなど。全部まとめて買える場所って便利ですよね」


 「便利ではある。だが、これだと別に湖畔でやる意味が薄れるよな」


 「そうですね。このスキルの安全領域があれば別にここじゃ無くてもいいですからね。だけど仕入れが大変そうです。商品を置くなら在庫管理が必要ですし、先輩の本業と近すぎるのも気になります」


 「素材流通会社の営業が、ダンジョン内で物販を始めました、は会社に説明しづらいな」


 「その部分はまだ別の問題あるとは思いますが…。あと、湖畔の良さからは少し離れます。買い物は中央広場でもできますから」


 たしかに、お店ルートは便利だ。

 売店棚や会計連携が伸びれば、予約外客への消耗品販売もできる。

 けれど、それは湖畔でゆっくり休む場所というより、探索者向けの売り場に近い。


 次に、飲食店ルートを開く。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:進化ルート詳細

 ルート名:飲食店ルート

 方向性:調理・料理提供特化

 主な補正:厨房区画、仕込み補助、調理効率、提供管理、料理満足度記録

 将来候補:食堂、レストラン、専門料理店、厨房拡張

 備考:休憩・宿泊よりも、料理提供と厨房運用に成長補正が寄ります。

 ――――――――――――――――――――


 「これは分かりやすいですね」


 小坂の声が少しだけ明るくなる。


 「カツカレーの反応を見ると、かなりありです。厨房が良くなれば、先輩の負担も減るかもしれませんし」


 「料理を出す場所として考えるならこのルートはかなり魅力的だ」


 「湖畔食堂。響きはいいです」


 「ただ、食堂に寄りすぎる気もする」


 俺は画面の料理満足度記録という項目を見た。

 ワイルドボア味噌焼き丼、魔物骨出汁スープ、湖畔まかないセット、ワイルドボアカツカレー。

 料理は、湖畔休憩地の大事な柱だ。

 だが、料理を提供するためにここを選んだわけでは無い。


 「飲食店ルートだと、俺が料理担当に固定される未来が見える…」


 「それはありますね。お客さんが増えるほど、先輩がずっと厨房に立つことになります」


 「それに、湖畔休憩地って名前なのに、食事が主役になりすぎる」


 「でも、美味しいご飯は大事ですよ」


 「大事だな。そこは間違いない」


 俺たちは少しだけ黙った。

 飲食店ルートを選べば、厨房を広げ、席を増やし、料理の種類を増やす方向へ進むのだろう。

 けれど、週末の二日で一番困ったのは、料理そのものより、料理を出しながら休憩、水場、シャワー、待機場所まで同時に扱ったことだった。


 最後に、宿泊型ルートを開く。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:進化ルート詳細

 ルート名:宿泊型ルート

 方向性:滞在・休憩・宿泊機能特化

 主な補正:休憩区画、仮眠設備、長時間滞在、安全維持、衛生区画連携

 将来候補:簡易宿泊、湖畔ロッジ、探索者向け宿泊拠点

 備考:販売・料理単体よりも、長時間休むための区画と安全維持に成長補正が寄ります。

 他のルートと違ってバランス補正が入ります。

 ――――――――――――――――――――


 表示を読み終えたところで、小坂が俺を見た。


 「これですね」


 「早いな」


 「だって、湖畔休憩地ですよ。お店でも食堂でもなく、休憩地です」


 小坂はそう言ってから、受付アプリの週末利用区分を開いた。

 休憩のみ、水場利用、シャワー利用、食堂利用。

 その中で、二日間ずっと安定して多かったのは、休憩のみの利用だった。


 「みんな、座りたかったんです。装備を下ろして、水を飲んで、魔物を気にしないで五分だけでもいいので、とにかく安全に休む場所が欲しかった。シャワーも食事も、その延長にありました」


 「宿泊型だと、そこを伸ばせる、と」


 「ですです。仮眠、長時間滞在など安全に補正がかかるのは、需要の部分でもそうですけど、休憩地としては譲れないポイントかなと思います。そもそもですけど、ダンジョン内で安全に横になれる場所なんて、普通はありません」


 「デメリットは?」


 「うーん。どれもそうですけど管理や人員についてテコ入れ必須、というとこでしょうか。泊まるなら、フロント機能や清掃管理、飲食提供など全てがバランスよく求められます」


 「そうだよなぁ。人も今よりかはかなり必要になるのは明らかだ」


 「お店ルートも飲食店ルートも、人は必要です。だったら、一番コンセプトに合う方向へ伸ばした方がいいと私はそう、思います」


 小坂はふんす、と息を立てこちらを見る。


 俺は表示に並んだ「湖畔ロッジ」や「探索者向け宿泊拠点」という文字を見た。


 まだまだ先の言葉だ。

 今の俺たちには、二日間の営業だけでかなり限界が見えている。

 けれど、湖の近くで、探索者が装備を外し、温かい食事を食べ、シャワーを浴び、安全に眠れる場所。

 それは、最初に【休憩地】を見た時よりも、ずっとはっきり想像できた。


 「俺も、宿泊型だと思う」


 「決めます?」


 小坂の声は明るいが、急かしてはいなかった。

 俺が押すものだと分かっていて、最後の確認だけ聞いてくれている。


 「お店は便利だ。飲食店も魅力はある。でも、湖畔休憩地として一番欲しいのは、探索者がちゃんと休める場所だと思う」


 「はい」


 「宿泊型ルートでいく」


 俺は宿泊型ルートの選択欄へ意識を合わせた。

 確認表示が開く。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:進化ルート選択確認

 登録名:湖畔休憩地

 選択ルート:宿泊型ルート

 主成長補正:滞在・休憩・宿泊機能

 確認:このルートで確定しますか?

 ――――――――――――――――――――


 俺は一度、小坂を見る。

 小坂はうなずいた。


 「確定する」


 声に出すと、表示の文字が揺れた。

 次の瞬間、通知が切り替わる。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 スキル区分:オリジンスキル

 表示種別:進化ルート確定

 登録名:湖畔休憩地

 確定ルート:宿泊型ルート

 備考:次回展開時、登録地点で進化反映を行います。

 ――――――――――――――――――――


 「次回展開時、か」


 「つまり、次に湖畔で出した時ですね」


 小坂の声が、少しだけ楽しそうになる。

 俺も同じ表示を見ながら、週末の草地を思い出した。

 タープ、椅子、受付テーブル、厨房、シャワーブース、水場。

 あれが次にどう変わるのか、まだ分からない。


 ただ、もう単なる野営キャンプ場では終わらない。

 湖畔休憩地は、探索者が座って食事をする場所から、横になって明日へ戻る場所へ進もうとしている。


 「先輩」


 「何だ?」


 「次の週末、寝具の相談も要りますね」


 「……黒瀬さんに連絡する内容が増えたな」


 「黒瀬社長、また呆れそうです」


 「湖畔で展開するまえに、黒瀬さんのとこで見てもらった方がよさそうだよな」


 「それがいいです。なにもスキル機能を確認せずに宿泊営業はさすがに無謀過ぎかなと」


 小坂はそう言って、お茶のペットボトルを手に取った。

 俺はスマホの予約欄と、まだ消えていない進化ルート確定表示を交互に見る。


 利用者二百人超え、食材ぎりぎり、二人運営の限界。

 だが新たに宿泊型ルートという新しい道に俺らは進んだ。


 テーブルには、週末に積み残した課題が、画面の数字にそのまま並んでいる。

 俺はそれを一つずつ見ながら、次の週末までに必要な相談先を頭の中で数え始めた。

読んでいただきありがとうございます。

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