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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第21話 堂島班、正式利用する

 堂島班が湖畔の草地へ入ってくる。

 先頭は堂島で、その少し後ろに補助引率らしい女性がいた。

 新人たちは六人。

 前に来た時より隊列は整っている。

 ただ、最後尾にいた新人の一人が、タープと受付テーブルを見て思わず声を漏らした。


 「本当にこんなところで野営してるんだ……」


 隣の新人も、簡易キッチンの方を見て小さく続ける。


 「すげえ。普通に店みたいだ」


 小坂は受付テーブルの前で、深くなりすぎない角度で頭を下げる。


 「おはようございます。湖畔休憩地です。本日、受付と利用案内を担当します、小坂です」


 堂島が足を止める。

 新人たちも、そこでぴたりと止まった。


 「《銀嶺の道標》、堂島班だ。引率二名、新人六名。予約は午前から昼過ぎまで」


 「はい。団体予約、堂島班八名様で確認しています。昼食八名分、水場と休憩区画の利用、シャワーブースは希望者のみ試験利用ですね」


 小坂の声は明るいが、全く緊張した素振りはない。

 堂島班の視線を受けても、スマホの受付画面と相手の顔を交互に見て、必要なところだけ確認していく。

 むしろ俺の方が緊張していて、包丁で指を切らないかどうか心配である。


 「頼もしい後輩だな。俺も頑張んないと」


 その時俺の目には、堂島班の足元に薄い表示が重なって見えた。

 思わず手が止まる。


 「なんだこれ……」


 小坂を運営スタッフとして登録したからか。

 少なくとも、前に堂島たちが来た時にはこんな表示は出ていなかった。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 表示種別:運営スタッフ用AR表示

 対象:堂島班

 承認状態:承認待ち

 予約区分:団体予約者

 飲食区画:利用可

 休憩区画:手動確認

 水場区画:手動確認

 シャワーブース:希望者確認待ち

 表示対象:管理者・運営スタッフのみ

 ――――――――――――――――――――


 客側には見えていない。

 堂島は受付テーブルを見ているし、新人たちは水場と休憩用の椅子を気にしている。


 「頼んだ覚えはないんだけどな。便利ではあるけど、色分けとかマーカーくらいでいいんだよな。受付済みとか、入れる区画が一目で分かるくらいで」


 受け入れられるかどうかは分からないが、一応要望は口に出しておく。

 そして受付をみると小坂が受付画面を操作していた。


 「では、入場承認します。今日は試験運用なので、使ってみて気になったところがあれば遠慮なく言ってください」


 「分かった」


 堂島が短く答える。

 その横で、補助引率の女性が一歩前へ出た。


 「久我沙織です。女性側の利用確認は、私が見ます」


 「ありがとうございます。シャワーブース希望の方は、あとで私か久我さんへ声をかけてください。時間を見て順番にご案内します」


 小坂がそう言うと、女子新人二人が小さく頷いた。

 警戒というより、ほっとした反応に近い。


 堂島が受付を終えてこちらへ来る。


 「朝倉さん、今日の昼は何を用意してもらっている?」


 「ワイルドボアの味噌焼き丼と、魔物骨出汁のスープです。午後も動けるように、重すぎない範囲で腹に残るようにしました」


 「……それを十階層で出すのか。戻る時間を少し早めるか」


 「まだそんなにメニュー開発進んでないんですよね…なのでこれで我慢してください」


 「我慢というか…まぁいい。それだけのものを食べられるのであれば、こちらとしては何も文句はない」


 堂島はそう言いながら、口元だけで笑った。

 小坂が受付テーブルの横から声をかけた。


 「出発前に水場だけ確認していってください。個人のボトル程度であれば水の補給はしても大丈夫です。それから休憩区画は今のうちに座ってもらって大丈夫です。昼に戻ったら、先に手を洗ってから食事にします」


 新人たちが水場へ動く。

 前回は、俺が声をかけながら鍋も見て、椅子も出して、支払いも受けていた。

 今日は小坂が人の流れを作ってくれる。

 その分、俺は昼飯を出す時間だけ考えていればよかった。


 堂島班は十分ほど休憩してから、湖畔の草地を離れた。

 新人たちは出発前にもう一度だけタープを振り返ったが、堂島に促されて訓練へ戻っていく。


 二時間半後。


 先に戻ってきたのは、補助引率の久我だった。

 その後ろから、堂島と新人たちが続く。

 朝より隊列は少し崩れていて、肩や膝には草の切れ端と土がついていた。


 「予定より少し早く戻りました。昼食の準備は、もうお願いできますか」


 「大丈夫です。今ちょうど焼き始めたところです」


 俺は簡易キッチンの前で、鉄板の火を少し強めた。

 今日は前回のステーキ丼だけではない。

 堂島班が午後も訓練で動くことを考えて、飯は腹に残るものにした。


 ワイルドボアの薄切り肉を、今回は趣向を変えて味噌だれで焼く。

 脂が落ちるたび、鉄板から香ばしい匂いが立った。

 別の鍋では、昨日から仕込んでおいた魔物骨出汁のスープが温まっている。

 具は地上野菜と、細かく切ったホーンラビットの肉。


 「昼食の方、手を洗った方から順番にどうぞ。装備は休憩区画の外側に寄せて、通路を空けてくださいね」


 小坂の声で、新人たちが水場へ動く。

 俺は肉を焼くタイミングを外さずに済んだ。


 丼に飯を盛り、味噌だれの絡んだワイルドボアをのせる。

 上から同じくフライパンで丁寧に焼いた玉ねぎのみじん切りを散らすと、脂の匂いが少し軽くなった。

 スープは紙椀に注ぎ、熱すぎないところで渡す。

 最初の一杯を受け取った新人が、椀を持ったまま固まった。


 「……うわぁ…ホットミールだ…。これ、本当に食べていいんですか?」


 「金は払ってる。食え食え」


 堂島が即答する。

 周囲で待っている新人にも同様に声をかける。


 新人は慌てて椅子に座り、周囲をみて行き渡っているかどうか確認する。


 「……いただきます」


 お箸を手に取り、そして肉とご飯を一緒に口へ運ぶ。

 次の瞬間、すぐに丼へと視線が戻る。


 「堂島さん、午後も魔物相手ですよね?」


 「ああ。食ったら装備の点検に入れ」


 「……先に聞くんじゃなかったです」


 「聞いても聞かなくてもかわらん。しっかりと食べておけよ」


 堂島は言いながら、自分の丼にも箸を入れた。

 一口食べて、しばらく黙る。

 文句は出なかった。

 俺は次の丼へ肉をのせる。


 久我は女子新人二人を見てから、自分のスープに口をつけた。

 それから二人の席へ少し体を向ける。


 「温かい汁物があるなら、先に飲んでおきなさい。午後も魔物を相手にするんだから、冷たい水だけで済ませない方がいい」


 女子新人二人は素直に頷いて、丼とスープを交互に食べ始めた。

 小坂は受付テーブルに立ったまま、配膳が行き渡ったか、通路が空いているかを見ている。

 楽しそうではあるが、客の動きから目を離しきらない。


 最後の椀を渡し終えると、受付アプリに記録完了の通知が出た。

 小坂は画面を確認し、こちらへ声をかけずに記録だけ確定する。

 その直後、俺の前に薄い表示が出る。


 ――――――――――――――――――――

 【休憩地】

 表示種別:利用実績更新

 登録名:湖畔休憩地

 団体利用:記録

 運営スタッフ対応:記録

 食事提供:八名分

 料理名:ワイルドボア味噌焼き丼

 料理名:魔物骨出汁スープ

 食事満足反応:集計中

 備考:複数名同時提供の実績を確認

 ――――――――――――――――――――


 表示を見て、俺は鉄板の火を弱めた。

 八人分の食事が出て、団体客が受付を通り、小坂の運営スタッフ対応までまとめて記録されている。


 今までは、俺が休憩地を使っていた。

 今日は違う。

 客が来て、受付を通り、飯を食べている。


 堂島が丼を半分ほど食べたところで、俺に視線を向けた。


 「これ、うちのクラン内でも利用者間違いなく増えるぞ」


 「…え? どういうことですか?」


 「この十階層は、結構色んなクランの訓練だったり使われているのは知っているだろ?」


 「はい、それはもちろん。だからここを選んだっていうのもありますし」


 「だからウチもよくここで新人研修で利用しているわけだが。ちょうどこの前うちのクランでの会議中にここの話をしたところ、他の幹部連中から随分と根掘り葉掘り聞かれてだな。あの反応だと多分俺に仲介くるのも時間の問題だと思う」


 堂島は丼を置き、スープを手前に寄せた。


 「安全に温かい飯とシャワー利用や、休憩までできるんだぞ? 何よりもコストがダンジョン都市よりも圧倒的に安いと分かったら、研修関係なく利用したがるのは何となく想像がつくだろ?」


 「なるほど…それはたしかに、まぁ。うちにとっては嬉しい限りですが…」


 「なんにせよ、この業界は広いようで狭いからな。早めに準備しといた方がいいぞ」


 「何の準備ですか?」


 堂島は驚いたような表情を見せる。


 「決まっているだろう。営業日数を増やす準備だよ。この価値が知れ渡ったら、そういう要望はものすごく出てくるぞ」


 「……そこまで、ですか?」


 「お前な…。ダンジョン都市よりも安いコストでシャワーも浴びれて、安全に休憩できる場所なんてこの世に存在しない。その利点わかっててこの休憩地を試験運用してるんだろう?」


 堂島の指摘に俺は思わず言葉が出ない。

 確かにそうだ。

 俺は何の勝算も無しに、この事業をやろうと思ったわけでは無い。

 堂島が指摘するように、その価値が計り知れないと思っていたから、今ここで試験運用中なのだ。

 

 「アドバイスありがとうございます。とりあえずですが、そちらのクランからであれば、堂島さんを経由してもらえると助かります」


 「あぁ。それは引き受けよう」


 「営業時間もそうですけど、試験運用もそろそろ切り上げようかと思っているところです」


 「そうか。それは俺にとっても朗報だ」


 俺が堂島と話すすぐ横で、新人の一人がスープを持ったまま頷いていた。

 小坂が小さく笑い、受付アプリのメモ欄に何かを入力する。


 「先輩、紹介経由の予約は、人数と利用時間を先に聞く形にしましょう。メニュー名も、たぶん聞かれます」


 「それもそうだし、もう少し何が提供できるか、告知の方法も考えた方がいいよなぁ」


 「ですです!」


 堂島班の昼飯は、まだ始まったばかりだ。

 けれど我らが湖畔休憩地は、次のミッションまでも既に姿を現しつつあった。

読んでいただきありがとうございます。

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