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ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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19/61

第19話 週末前夜の最終確認

 終業後の会社は、昼間より静かだった。


 複合機の動く音と、誰かがキーボードを叩く音だけが残っている。

 その中で俺は、堂島へ送るメッセージを何度も読み返していた。


 来週土曜、午前から昼過ぎまで。

 相手は新人訓練班八名で、内容は休憩、昼食、水場、トイレ、希望者のみシャワーブース試験利用。


 前に堂島班が来た時は、その場の流れでなんとかした。

 だが今回は予約だ。

 こっちから「この内容で受けます」と言う以上、曖昧なままでは済まない。


 小坂からメッセージが来たのは、俺が料金の文面で止まっている時だった。


 『先輩、いま少し大丈夫ですか? 受付アプリの利用区分、まとめてみました』


 すぐに通話をつなぐと、小坂の声はいつもより少し弾んでいた。


 『えっと、まず堂島班は団体予約でまとめます。入場は受付で私が確認して、予約済みの八名だけ入退場承認を出す形ですね。食事ありの人は決済完了で飲食区画利用、シャワー希望者は追加決済のあとでシャワーブース利用を付ける。ここまでは昨日の権限設定と合いますよね』


 「ああ、その整理で大丈夫だ。小坂の受付補助権限なら入場承認はできるし、決済と自動でつながるのは飲食区画とシャワーブースだけだ」


『残るのは、休憩だけの人と水場だけの人ですね。そこはまだ自動連携できないので、受付で利用内容を確認してから通します』


 「そうなる。休憩のみ、水場利用、時間管理は未対応って表示だったから、そこは小坂に受付で見てもらう」


『じゃあ、そこは受付で説明して手動確認にしましょう。お金の流れまで全部自動にしようとすると、たぶん当日こっちが混乱します』


 小坂の言い方は軽いが、内容はかなり堅実だった。


 俺は堂島宛ての文面に、休憩地利用料、昼食代、シャワーブース試験利用料を分けて書く。水場は今回は団体利用料に含める。ただし飲用水の補給ではなく、手洗い、装備の泥落とし、簡単な洗浄までと明記した。


 「シャワーは十五分で区切る。当日は最初に低ランク魔石で魔石水タンクを補給して、八人が水場とシャワーを使ったらどれくらい減るか見たい。水そのものはかなり安く足せるけど、実際の消費量は一度測っておきたいな」


 『それ、すごく大事です。女性新人さんがいるなら、使えるって聞いた時点で期待しちゃいます。でも当日いきなり全員どうぞは危ないので、試験利用って最初に言い切った方が安全かもですね』


 小坂の後ろで、紙をめくる音がした。


 『あと、私のことですけど』


 「報酬の話か」


 『はい。手伝うのは面白そうですし、正直めちゃくちゃやってみたいです。でも、そこはちゃんとしてください。会社の仕事じゃないので』


 「もちろん。日当と交通費、あと昼食はこっち持ち。危険手当も別で出す。金額はこのくらいでどうだ?」


 俺はチャットに数字を打ち込む。

 数秒だけ変な沈黙があった。


 『……先輩、思ったよりちゃんとしてますね』


 「なんて失礼なやつだ」


 『いえ、褒めてます。面白そうだからってタダで手伝う形にしたら、あとで絶対ぐちゃぐちゃになります。そこを最初に分けるの、すごく大事ですから』


 そこは小坂らしい。

 楽しそうに食いつく一方で、引くべき線はちゃんと引いている。


 俺は堂島への最終案内を完成させた。

 集合場所は十階層湖畔北側、前回利用地点。

 開設時間は午前十時から午後二時まで。


 団体受付後、利用説明は最初に全員へまとめて行う。

 無断入場、予約外利用、シャワーブースの時間超過はできない。


 最後の一文で少し迷ったあと、俺はこう書いた。


 『今回は正式営業前の最終試験運用です。利用後、改善点があれば率直に教えてください』


 送信ボタンを押してから、俺は料金表のメモをもう一度見直した。すぐに既読がついたわけではないが、堂島に送る文面が固まったことで、残る確認は小坂の報酬だけになった。


 『先輩』


 「何だ?」


 『明日、探索者装備に受付用のポーチを付けていきます。スマホ、予備バッテリー、受付メモ、替えの手袋はすぐ出せるようにしておきますね』


 「助かる。小坂が探索者だったの、こういう時に実感するな」


 『四級ですけどね。でも受付が最初にびびってたら、お客さんの方が不安になりますから』


 その言葉で、週末の光景が少し浮かんだ。

 湖畔に休憩地を展開する。

 俺は料理の準備をする。

 入口には小坂が立ち、堂島班を迎える。


 前回は一人で全部やろうとして、堂島に料金を取れと言われた。

 今回は最初から受付があり、料金があり、利用区分がある。

 なによりもメンバーが増えた。


 まだ店と呼ぶには足りない。

 けれど、ただの思いつきではなくなってきた。


 堂島から返信が届いたのは、帰り支度をしている時だった。


『内容確認した。こちらは予定通り八名で向かう。新人には試験運用であることを伝えておく。久我が衛生区画を確認したがっている。よろしく頼む』


 俺はスマホの画面を小坂に転送した。

 すぐに返ってきたのは、短い文章だった。


 『了解です。受付、がんばります』


 そのあとに、少し間を置いてもう一つ届く。


 『あと、先輩も料理とスキル操作、がんばってください。店長なので』


 …店長……店長か。


 画面の中の二文字を見て、俺は会社の廊下でしばらく立ち止まった。


 まだ看板もない。

 正式な予約表も、在庫置き場も足りていない。


 それでも週末、湖畔には客が来る。

 俺はスマホをしまい、会社の出口へ向かった。


 土曜の朝までにやることは、まだ残っている。

 だが少なくとも、もう一人で全部を抱える必要はなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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