↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/114

第110話 史上最大のカーニバル③

 第10階層でも、最初の迎撃は順調に進んだ。


 安全領域から離れた草地では、探索者たちが持ち込んだ部材で簡易バリケードを組み、押し寄せる魔物をその前で受け止めていた。

 魔物がバリケードへ食い込むたび、左右に控えた前衛が踏み込み、正面へ攻撃を集中させる。

 倒れた魔物のあとにドロップ品が残ると、回収役が走り込み、次の魔物が来る前に袋へ放り込んだ。


 「右から来るぞ!」


 「こっちで止める! 回収は下がれ!」


 群れの最後の一体が倒れると、後ろから別の探索者たちが部材を担いで走ってきた。

 バリケードの端へ新しい部材を組みつけ、バリケードを横へ延ばしていく。


 「回収袋が足りない! 空の袋を持ってきてくれ!」


 「すぐ持っていく! 次も全部拾え!」


 後方で待っていた探索者が空の袋を抱えて草地を駆ける。

 その先に次の群れが姿を現すと、バリケードの前から「また来たぞ!」と歓声が上がった。


 「交代だ。そこの前衛、いったん補給へ戻れ!」


 「まだやれる!」


 「肩当てが割れてる。替えたらすぐ戻ってこい!」


 前衛は「俺の分も残しとけよ!」と言い残して後ろへ下がり、待機していた探索者が同じ場所へ駆け込んだ。


 新宿北側方面と東京湾岸ダンジョン入口側の第10階層との間には直通ルートがなく、大きく迂回しなければ行き来できない。

 カーニバル発生の通知が出た区域は、湖畔から相当に離れていた。


 それでも同じ東京ダンジョン内の異変なら、壁や地面に生じる魔物の卵の数や孵化の時期が、第10階層でも多少偏ったのだろう。


 湖畔周辺の探索者たちは、目の前の増加をその程度の影響だと考えていた。

 前線まで移動する必要がなく、背後には湖畔休憩地もある。

 数が増えるほど、探索者たちは好都合な狩り場を引き当てたと沸き立ち、バリケードの前から退こうとしなかった。


 交代で湖畔休憩地へ戻ってきた探索者たちは、食事を受け取り、傷んだ防具を替え、消耗品の補充を終えた者から外へ向かった。


 「起点から遠いのに、全然減らないんですよ」


 交換した防具の留め具を締め終えた探索者が立ち上がった。


 「倒した場所に、すぐ次が来るんです。こんな当たりの場所、初めてですよ」


 外から「次が来たぞ!」と呼ばれると、探索者は笑い、待っていた仲間を追い越して正門へ駆けていった。



 ◇



 特別営業は、俺たちが考えたとおりに動いていた。


 「先輩、ニュースでは見たことがありますけど、私、カーニバルの最中にダンジョンへ入るのは初めてです。中ではこんなことになるんですね」


 「俺も初めてだよ。ニュースで見ていた時は魔物の数ばかり気にしてたけど、補給で戻ってくる人数もすごいな」


 「保存倉庫は、補給物資で棚が埋まるまで詰めましたよね。それでも、このペースだと1日で使い切りそうです」


 「普段の営業なら何日ももつ量なんだけどな。売店と厨房には、足りなくなりそうな物が出たらすぐ知らせてもらおう」


 「そうします。今日ばかりは、普段の営業で何がよく出るかなんて、あてになりませんから」


 厨房から出した食事は待たせず渡せている。

 若井の売店では補修品と交換用装備が動き、客室へ入った探索者も、休んだあと自分で歩いて正門へ戻っていった。


 異変が見え始めたのは、同じ探索者が戻ってくるまでの間隔だった。


 仲間と戻っていた人が、単独で消耗品だけを求めて走り込んでくる。

 井瀬川と熊谷が保存倉庫から運ぶ箱の数が増え、売店の棚には空いた場所が目立ち始めた。


 食事を受け取った人も、席へは向かわない。

 その場で食べながら、正門へ戻っていく。


 「先輩、戻ってくるのが早くなっていませんか。さっき装備を替えた方が、もう消耗品を取りに来ています」


 小坂に言われ、俺も正門へ向き直る。


 それまで戻ってきた探索者から聞いたのは、数が多い、倒しても途切れないという話までだった。


 その直後、血のついた防具の探索者が正門から飛び込んできた。

 中へ入って数歩で体勢を崩し、片膝をつく。


 「先輩、怪我人です!」


 俺は探索者へ駆け寄り、倒れかけた身体を支えた。

 左腕の防具が割れ、その隙間から流れた血が手袋まで濡らしている。


 「小坂、保存倉庫からポーションを箱ごと持ってきてくれ! 応急手当ての箱も頼む!」


 カーニバルに備えて、ポーション類は普段より多く保存倉庫へ入れてある。

 小坂が保存倉庫へ走るあいだに、俺は探索者を正門の内側へ座らせ、防具の留め具を指して自分で外せるか尋ねた。


 探索者が自分で防具を外したところへ、小坂がポーションの箱と応急手当ての箱を抱えて戻ってくる。

 俺はポーションを1本渡し、応急手当ての箱から清潔な布を取り出して腕の傷へ当てた。


 「何があったんですか? 前線でやられたんですか??」


 探索者はポーションを飲み終えると、手当てを受けたまま答えた。


 「後ろにも湧いた」


 「後ろ?」


 「新宿北側からこっちへ流れてきた群れじゃない。俺たちの戦線の後ろ、それも回収場所よりさらに後方で、いきなり大量に湧いた」


 「戦線の後方で、新しく大量に湧いたんですか?」


 「ああ。さっきまで何もいなかった場所だ。突然大量に湧いて、後ろから襲われた」


 探索者は座ったままスマートフォンを取り出し、仲間へ戦線後方での大量発生を知らせ始めた。


 「小坂、受付で外からの報告を記録して、同じ内容が重なったら探索者協会の連絡先にも送ってくれ」


 「分かりました」


 湖畔休憩地には、別々のクランから探索者が戻ってくる。

 俺たちが戦況を判断することはできなくても、ここへ集まった報告を止めてはいけない。


 間もなく、探索者向けアプリへダンジョン庁の緊急更新が届く。


 小坂がスマートフォンに届いた緊急更新を開いた。


 「先輩、ダンジョン庁の緊急更新です」


 「何が出た?」


 「各方面の発生数だけではありません。発生の継続時間も、同時に成立している戦線の数も、過去の記録を超えています」


 「第10階層と同じことが、ほかでも起きているのか」


 「はい。戦線の後方で新たな大量発生を確認した区域も増えています。新宿北側の起点から各方面へ広がるという想定は、撤回されました」


 「規模判定は?」


 「……今回のカーニバルは、観測史上最大規模です」


 店内から歓声は上がらなかった。


 画面の文面を読み直した探索者たちが、仲間の位置と退路を確認し始める。

 食堂で交わされる話は、今日の稼ぎから、どこまで下がれるかへ変わっていく。


 後退命令が各戦線へ届くまでの数分間、別々の方面に配置されたクランが同じ異変に直面していた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。