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【書籍化決定!】ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


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第109話 史上最大のカーニバル②

 本日カクヨムのほうでサポーター専用SS『カレーとワイルドボアと秘密兵器』を公開されています!

 今回は、朝倉がワイルドボア肉を選び、カツカレーを完成させるまでのお話です。

 小坂にスパイスへのこだわりを止められたあと、朝倉は本当に試作を終えたのか。

 第26話で冷蔵庫から出てきた《秘密兵器》が完成するまでを描きます。

 

 ※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 湖畔休憩地も、朝からいつもとは違う営業を始めていた。


 今日は宿泊客を取らない。

 通常の利用券と予約による人数制限も設けず、来た人をそのまま受け入れる。


 客室は、装備を外して休む人と、緊急時の負傷者のために空けてある。

 食堂では、席に座って食べる料理より、受け取ってすぐ食べられる物と飲料を多く用意していた。


 売店には携帯食や消耗品だけでなく、普段はまとまった数を置かない交換用装備と応急補修用品が並んでいる。


 「先輩、正門側の準備はできました」


 小坂が、受付から俺のところへ戻ってきた。


 小坂が正門の案内をまとめ、こよりと曽布川が来た人を目的に合った場所へ送る。

 若井は売店を担当し、井瀬川と熊谷が保存倉庫から必要な商品を運ぶ。


 厨房では海路とチカたちが、まとめて作った食事を受け渡し口へ並べていた。

 珍田には、正門から館内へ続く通路が荷物や人で塞がらないよう見てもらっている。


 「今日は長く滞在してもらうより、食事と補給を終えた人を次へ送り出す方を優先します。ただ、怪我をしている人や、休まないと動けない人まで急かさないでください」


 集まっていたスタッフがうなずいた。


 「状況が変わったら、正門から湖畔側までの通路を避難に使います。外の対応は探索者に任せて、皆さんは安全領域から出ないでください」


 全員が担当へ戻り、特別営業が始まった。


 安全領域の外には、いつもの週末以上にテントが増えていた。

 北側草地の道沿いにはクランごとの待機場所が作られ、簡易バリケードの部材や空の回収袋まで置かれている。


 店内へ入ってくる探索者たちの話題も、カーニバル一色だった。


 「第10階層に湖畔休憩地があって、本当によかったよな。都市まで戻らなくても、ここで食って装備を替えたらすぐ行ける」


 「今日は稼げるだけ稼ぐぞ。大手が前を固めてるんだ。俺たちはその後ろで数を減らしていけばいい」


 「防衛線の通知だけは見ておけよ」


 「見てるって。それより、どの方面へ行くか決めようぜ」


 庁の警告を知らないわけではない。

 それでも、彼らが話すのは危険より、今日いくら稼げるかだった。


 「皆さん、もう始まる前からお祭りですね」


 小坂が、正門の外を見て言った。


 「大手が集まっているのは心強いけど、庁が何度も注意してるからなぁ。俺たちは、戻ってきた人がすぐ補給できるようにしておこうか」


 「はい。食事は厨房へ追加を頼んで、売店の商品も切らさないようにします」


 それからしばらくして、草地の下から低い振動が届いた。


 食堂内の食器が擦れ合いかすかに鳴る。

 屋外にいた探索者たちが、ほぼ同時にスマートフォンを取り出した。


 俺の画面にも、探索者向けアプリから通知が届いていた。


 『新宿北側方面において、魔物発生数の急激な増加を確認。カーニバル(狂宴)の発生と判定。指定区域の探索者は担当者の指示に従ってください』


 安全領域の外から、大きな歓声が上がった。


 探索者たちは装備を持ち、クランごとに決められた方面へ動き始める。

 食事を口に押し込みながら出ていく者もいれば、売店で買った補修品を鞄へ入れて走り出す者もいた。


 「珍田さん、入ってくる人と出る人を分けてください!」


 「承知した」


 正門に二つの流れができた。

 始まったばかりのカーニバルは、まだ誰にとっても待ち望んだ稼ぎ時だった。



 ◇



 最初の戦闘は、各方面で順調に進んだ。


 新宿北側方面では、大手クランの前衛が魔物を防衛線の前で止め、後衛が攻撃を集中させた。

 討ち漏らした魔物は中堅クランが倒し、回収班は戦闘の邪魔にならない位置までドロップ品を運ぶ。


 負傷者を後方へ送り、空いた位置には交代要員が入った。

 事前に決めた連絡ラインも、後退路も機能している。


 配信画面では、有名探索者の攻撃で魔物の集団が崩れるたびに歓声が上がった。


 『平時の討伐記録をもう超えました! まだ始まったばかりです!』


 コメント欄には祝福と、ドロップ品の金額予想が流れ続ける。

 現場の探索者も、「回収班が足りないそ!」「今回の担当区域は当たりだ」と騒いでいた。


 そしてダンジョン都市には早くも最初の回収便が最前線から戻ってきていた。


 査定員が区分を決め、仕分けを終えた箱から荷車へ載せ、大階段側へ送る。

 準備していた臨時査定所と搬送便は滞ることなく動き、素材業者は予想より早い戻りを喜ぶ。


 探索者協会からダンジョン庁へ届く報告も、防衛線維持、予定区域内で対応中という内容が続いていた。


 支援室の三人も、災害対応本部の補助へ回されていた。

 日下部たちに作戦を決める権限はない。

 ダンジョン管理部から上がる情報を確認し、関係先への連絡を補助するのが役目だった。


 篠塚は、探索者協会から届いた報告を時刻順に並べ、発見位置を地図へ落としていた。

 報告の大半は、想定された区域内に収まっている。


 甲斐谷が外部向け文面の確認を中断した。


 「篠塚さん。新宿北側から離れた区域で、魔物の集団を確認したと報告が入りました。想定していた進行経路から外れています」


 「発見位置と時刻、進行方向は?」


 「すべて届いています。探索者協会が近隣クランの報告と照合しています」


 対応本部では、新宿北側から防衛線の外を回り込んだ集団ではないかと考えた。

 だが、発生からの時間と報告地点までの距離が合わない。

 観測担当が記録を確認している間に、別方面からも報告が届いた。

 そこへ移動してきたのではなく、その周辺一帯で魔物の数が増えたように見えたという内容だった。


 「新宿北側から来た群れでは説明できないな。起点が複数あるのか?」


 日下部が、概略図を見ながら口にした。


 観測担当は返答せず、各地点の記録を開き直した。

 探索者協会へ追加の位置情報を求める連絡が飛ぶ。


 回答を待つ間にも、報告地点は増えていった。


 新宿北側から離れた地点。

 そこからも別方向にある地点。

 さらに、東京湾岸ダンジョン入口側に近い方面。


 概略図へ報告地点を加えるたび、クランの担当区域と担当区域の間に、新しい前線が生まれた。


 「また増えました。今度は東京湾岸ダンジョン入口側に近い方面です」


 篠塚が、新しく届いた報告を観測担当へ渡した。


 「一般向けには、まだ複数起点と断定できません。ですが、単一起点の想定だけで案内を続けるのは危険です」


 甲斐谷の指摘を受け、対応本部は各方面へ警戒情報を出した。


 複数地点で同時に発生している可能性がある。

 担当区域の前方だけでなく、側面と後方も警戒すること。


 戦線はまだ崩れていなかった。

 だが、最初に用意した想定図は、もう現場と合わなくなっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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