第100話 湖畔休憩地、宿泊施設をアップグレードします!①
湖畔スイートポテトの販売を始めてから数日後には、Yに写真や感想が次々と投稿されるようになった。
スイートポテトを割った瞬間に、金色の光がこぼれる動画もある。
ステーキを食べ終えたあとでも、もう1個注文したという報告もあった。
館内や湖畔を撮影し、どこで食事や休憩ができるのかをまとめた利用案内まである。
投稿の末尾には、誰が最初に付けたのか分からない「#湖畔休憩地」という同じ言葉が並んでいた。
スイートポテトだけでなく、新しい料理、混雑する時間、空いているシャワー枠といった情報まで、そのタグで探せる。
専用タグには毎日新しい投稿が加わり、営業前から料理や設備について質問する人まで現れた。
ところが、湖畔休憩地を褒める投稿ばかりが増えたわけではない。
定休日明けの朝、受付で営業準備をしていた小坂が、自分のスマートフォンを見たまま眉を寄せた。
「……これは、いかんですね」
「何の話だ?」
「最近、ダンジョン都市が叩かれてまして」
「何が原因なんだ?」
小坂はスマートフォンを受付台へ置き、画面を俺にも見える向きへ変えた。
専用タグの検索結果には、ダンジョン都市の食堂、共同シャワー、宿泊施設との料金比較がいくつも並んでいる。
湖畔休憩地のAセットは4,200円で、都市の温かい食事は8,000円。
シャワーはどちらも15分だが、湖畔休憩地は2,400円、都市は10,000円。
金額だけでなく、料理の写真や店員の対応を書いた投稿も増えていた。
「ああ、なるほど。サービス面か……。でも、あれだけの都市をダンジョン内で維持しているんだろ? 地上より金がかかる部分も多いだろうに」
「そこは探索者も分かっているんですよ。でも先輩も知ってのとおり、あそこって高いだけじゃなくて、接客の悪い店も多いじゃないですか。ほかに選択肢がないから使うだろって、足元を見ている店もありますし」
「ああ……。そういうことか」
「ですです。今までも不満は出ていたんですけど、嫌なら使うなで終わってたんですよ。でも、うちができちゃいましたからねえ」
値段の差だけなら、都市を維持するために必要だという説明もできる。
しかし、同じダンジョン内に別の店ができれば、払った金額に見合う料理や接客だったかまで比べられる。
「ははは……。なんと言えばいいのやら」
「とはいっても、私たちがダンジョン都市のお店に口を出せるわけでもないですし、よそはよそ、うちはうち、です!」
小坂はスマートフォンをしまい、受付用タブレットを立ち上げた。
「そうだな。俺たちは、ここに来てくれた人へ料理と休む場所を用意する。それを続けるだけだ」
開店時間になると、待っていた探索者が入口回廊から入ってきた。
俺は厨房へ入り、小坂は受付に残る。
そのあとは都市の投稿を見る暇もなく、昼過ぎまで注文が途切れなかった。
◇
食堂の席が半分ほど空いたところで、俺は小坂に話があると声をかけ、2階のスタッフ休憩室へ上がった。
受付と食堂は、休憩を終えたスタッフへ交代している。
休憩室には、先に休憩へ入っていた、こより、井瀬川、チカが、テーブルを囲んで飲み物を飲んでいた。
小坂と二人で話すつもりだったが、三人に聞かれて困るような話でもないし、別にいいだろう。
俺は空いている椅子へ腰を下ろし、小坂へ話を切り出す。
「小坂。そろそろ湖畔休憩地のアップデートをしようと思ってさ」
休憩室の話し声が止まった。
こよりが持っていたカップをテーブルへ戻し、井瀬川とチカも椅子をこちらへ向ける。
「えっ、朝倉さん! アップデートって、何をするんですか!?」
こよりが椅子から立ち上がる横で、小坂は口を開けたまま俺を見ている。
「ま、まさか……」
「ふふふ……。さすがは小坂。もう何が起きたのか、見当がついたようだな」
俺はわざと芝居がかった口調で続けた。
「そうだ。湖畔休憩地のレベルが上がった。この館も、アップグレードできるらしい!」
まだ座っていた三人も勢いよく立ち上がり、3脚の椅子が床を滑った。
先に立っていたこよりは、その場で何度も跳ねている。
「えええっ!?」
「キ、キターーーー!!!!」
小坂の歓声が休憩室の壁に跳ね返った。
「お前のそれを聞くと、レベルが上がった実感が湧くな」
「そ、そんなことより、ステータスを見せてくださいっ!」
「分かった、分かった。今日は皆にも見えるようにするよ」
「えっ!? 私たちも見ていいんですか?」
こよりが胸の前で両手を握る。
「ああ。今回見せるのは、施設の成長通知とアップグレード情報だけだ。運営スタッフ共有へ切り替えるぞ」
俺が【休憩地】を開き、表示対象へこの場にいる四人を加える。
五人の前に、同じ半透明の画面が現れた。
――――――――――――――――――――
【休憩地】★通知:新規解放あり
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:成長通知
登録名:湖畔休憩地
成長結果:休憩地Lv.10→休憩地Lv.11
到達理由:継続営業/利用者増加/新商品提供実績
★新規解放★
宿泊型施設アップグレード
――――――――――――――――――――
「おお! レベルアップしとるーーーー!」
小坂が画面へ身を乗り出す。
こよりはLv.11の文字を2度読み、井瀬川とチカも新規解放の行を読み終えるまで黙っていた。
「宿泊型施設アップグレード……。この建物が大きくなるんですか?」
井瀬川の質問に、俺は詳細画面を開いた。
――――――――――――――――――――
【休憩地】
スキル区分:オリジンスキル
表示種別:宿泊型施設アップグレード ★新規
登録名:湖畔休憩地
対象施設:宿泊施設
現行施設規模:宿泊型(小) ★新規
>変更後施設規模:宿泊型(中) ★新規
必要ポイント:100,000ポイント ★新規
現在ポイント:131,910ポイント
実行可能:はい ★新規
施設詳細:アップグレード完了後に表示 ★新規
――――――――――――――――――――
「せ、先輩! どのくらい大きくなるんですか?」
「それが、どこにも書いてないんだ。この画面に出ているのは、小から中へ変わることと、必要なポイントだけだ」
俺が必要ポイントの項目を拡大すると、小坂の声が裏返った。
「……100,000ポイント!?」
こよりも桁を数え、目を丸くする。
「じゅ、100,000ポイントですか!? 1回でそんなに使うんですか!?」
「残りは31,910ポイント。払えない額ではないけど、簡単に使える額でもないな」
俺が答えると、チカが窓のそばへ立った。
安全地帯の野外休憩所は埋まり、その先にも食堂の空席を待つ探索者が並んでいる。
「でも、広くできるなら早いほうがよさそうねぇ。今日も外で待っている人がいるもの」
「そうなんだよ。客室も休憩室も毎回埋まるし、食堂も昼は席が足りない。規模の拡大は急ぎたい事情がある」
「そうなると、次の定休日ですかね」
小坂も窓際へ行き、外の列を数えた。
「ただ、ここでいきなり試すのはまずくないですか? 建物がどのくらい大きくなるのかも分かりませんし、人に見つかりやすいです」
「俺も同じことを考えていた。大きさが分からないまま、この場所で建て直すのは危ない。まずは木場の地上基地で試そう」
木場の地上基地は、小坂が祖父から相続した旧小坂鉄工所の跡地だ。
主工場の大きなシャッターを閉じれば、道路から中は見えない。
中央も空けてあるので、宿泊型(中)を展開して、建物の幅、高さ、室内、必要な設備を調べられる。
「ですよねえ。じゃあ、次の定休日から3日ほど休むと告知して、検証しませんか? 1日目は私たちだけで建物や設備を確認して、2日目からスタッフのみんなにも手伝ってもらいましょう。幸い次回分の利用券は、まだ販売を始めていませんし」
「それなら、予約済みの客へ返金する必要もないな。今日中に告知を出して、休業中の勤務表も組み直そう」
「私、公式サイトとYのお知らせを作ります!」
こよりが手を上げると、井瀬川も続いた。
「告知文は私も確認する。営業再開日は断定せず、検証が終わったら改めて知らせる形でいい?」
「ああ。予定どおりなら3日目の夜に再開を知らせる。延びる時は、その前にもう一度告知しよう」
小坂は営業管理表に3日分の休業予定を入れ、木場での検証を予定欄へ追加した。
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