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居酒屋店員が異世界転生して、兵站で魔王を倒し元の世界へ帰るまで  作者: もしものべりすと


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第十四章 反撃の組み立て

夜が、明けた。


 俺は、王城の、参謀本部の、大広間に、招かれていた。


 長いテーブルの上に、王国の、地図が、広げられていた。


 地図の上には、敵領の、各地に、黒い印が、置かれていた。


 黒い印は、闇の眷属の、目撃情報の、ある場所だった。


 国王陛下が、テーブルの、上座に、座っていた。


 その隣に、アリエル王女。


 その下座に、セバス参謀。


 マルキューズ団長と、ガイウス料理人筆頭が、両脇に、控えていた。


 俺は、いちばん下座の、空いた、椅子に、座らされた。


 国王陛下が、低い声で、口を、開いた。


「鳴海どの。今、王国軍は、闇の眷属の、本拠地を、突き止めた」


「どこ、ですか」


「敵領の最深部の廃神殿。三百年前に、《調停の御使い》が、討ち滅ぼされた、その地、に、ござる」


 俺は地図を覗き込んだ。


 黒い印が、もっとも、密集している、一点。


 深い山岳地帯の、奥だった。


 到達には、王都から、十二日かかる、と、地図に、書かれていた。


「兵力は」


 俺は、自然に、訊いた。


 セバス参謀が、答えた。


「我が王国軍、十万。ただし、出せるのは、五万、にござる」


「冒険者ギルドは」


「ザムザ・ギルドマスター、率いる、三千」


「足りますか」


「ぎりぎり、にござる」


 俺は、地図の上の、自分の店の、跡地を見た。


 そこから、敵領まで、九日。


 俺は、頭の中で、計算を、はじめた。


 いつものホールの、ピーク中の、感覚で。


「セバスさん」


「は」


「焼け落ちた、店の、跡地を、補給拠点として、復活させます」


「あの、廃墟をでござるか」


「ええ。冷蔵庫は、横倒しでしたが、まだ、動いています。土台は、無事です」


 俺は、地図に、指を、置いた。


「ここに、保冷倉庫を、再建。前線への、補給路の、起点に、します」


「九日……、九日の距離。なんとか、間に合いまするか」


「中継拠点を、三日ずつに、三カ所」


 俺は、地図に、線を、引いた。


「日数別の、移動先入れ先出し。あと、料理人を、各拠点に、配置します」


「料理人……、戦線に、ですか」


「ええ」



 大広間の、誰もが、ざわめいた。


「料理人を、戦線に、置く、と、おっしゃるか」


「五千人の、料理人を、補給拠点に?」


「前代未聞、にござる」


 貴族たちの、ざわめきが、テーブルの、両端から、響いてきた。


 俺は、いつものように、首を、軽く、傾けた。


「兵士を、生かすのは、結局、メシ、なんです」


「メ、メシ、とおっしゃるか」


「兵士の、メシが、ちゃんと、温かければ、半分は、勝てます」


 大広間が、ふっ、と、静まり返った。


 国王陛下が、口元を、わずかに、緩めた。


「鳴海どの。卿は、いつも、たった一言で、五百年の、慣習を、ひっくり返される」


「いえ、そんなつもりは」


「よろしい。鳴海どのの、御指図のとおりに、料理人を、戦線に、配置せよ」


 国王陛下の、命令が、その場で、確定した。


 大広間の、貴族たちが、いっせいに、頭を、下げた。


 俺は、ガイウス氏に、視線を、向けた。


「ガイウスさん。料理人の、ネットワーク、ありますか」


 ガイウス氏は、白い口髭を、ふるりと、震わせた。


「王都の、料理ギルドに、千人。各地方、合わせて、四千人、にござる」


「全員、動員、できますか」


「私が、頭を、下げれば」


「お願いします」


 ガイウス氏は、立ち上がった。


 彼は、深く、頭を、下げた。


「鳴海どの。本日より、我が王国の、料理人ギルドの、全勢力を、貴公の、指揮下に、置きまする」


 大広間が、ざわめいた。


 料理人の、ギルドが、軍の、指揮下に入る。


 ヴェルディノス王国、五百年の、歴史で、初めての、ことだった。


 国王陛下が、ゆっくりと、口を、開いた。


「鳴海どの。卿の作戦の名は、何と、申されるか」


「名前、ですか」


「歴史に、刻まねば、ならぬ。名前を、賜りたい」


 俺は、しばらく考えた。


 ……閉店オペレーション。


 居酒屋で、店仕舞いの、片付けの、手順を、そう、呼ぶ。


 全ての、料理を、出し終え、全ての、お客様を、見送り、全ての、清掃を、終える、までの、一連の流れ。


 ピーク中の、ホールよりも、むしろ、難しい、最後の難関だった。


 俺は、口にした。


「閉店、オペレーションで」


「閉店、オペレーション……」


 国王陛下が、その音を、口の中で、転がした。


「店を、閉じる、と、いう、ことか」


「ええ、魔王軍の、商売を、店仕舞い、させます」


 大広間の、誰かが、ぷっ、と、吹き出した。


 アリエル王女だった。


 彼女は、扇で、口を、隠した。


 肩が、震えていた。


 国王陛下も、首を、振りながら、肩を、震わせていた。


「鳴海どの。卿は、本当に、王の、心を、軽くする、お人だ」


 俺は、いつも通り、お辞儀した。


「お客様、笑って、お帰しできるよう、頑張ります」


 大広間の、空気が、急に、温かくなった。



 会議の、合間に、俺は、いったん、リリアナさんの、治療室に、戻った。


 彼女は、まだ、眠っていた。


 頬の、灰色は、もう、こめかみまで、達していた。


 白いシーツの、上に、彼女の、銀色の髪が、静かに、流れていた。


 俺は、エプロンの、内ポケットから、業務日報を、取り出し、彼女の枕元の机に、置いた。


 彼女に、お土産、らしい、お土産では、なかった。


 でも、これが、俺の、できる、ありったけ、だった。


「リリアナさん」


 俺は、彼女の耳元で、低く、囁いた。


「ちょっと、迎撃に、行ってきます。すぐ、帰ります」


 彼女の、まぶたが、わずかに、震えた。


 返事は、なかった。


 でも、その、まつげの、震えが、聞こえた、と、答えてくれた、気がした。


 俺は、もう一度、彼女の布団を、整えて、廊下に出た。


 マルキューズ団長が、廊下の壁に、寄りかかって、待っていた。


 彼は、俺の顔を見て、ただ、ひと言、頷いた。


 俺たちは、無言で、参謀本部に、戻った。


 夕刻、参謀本部の、大広間に、もうひとり、男が、入ってきた。


 四十代の巨漢。


 背中に、二本の、両手剣を、交差させて、背負っていた。


 左の頬に、爪痕の、傷。


 冒険者ギルドの、ザムザ・ギルドマスター、だった。


「お前さんが、噂の、調停の御使い、ってやつか」


「いえ、ただの居酒屋のバイトです」


 ザムザは、ぎょっとした顔で、俺を、見下ろした。


 それから、ぶは、と、噴き出した。


「俺は、ザムザだ。S級冒険者、引退して、十年、ギルドマスター、やってる」


「鳴海蓮です」


「お前さんの、串、食わせてもらった」


「ええ、いつでも」


「もう、店、燃えちまったろうが」


 ザムザは、苦笑した。


 でも、その目は、俺を、まっすぐに、見ていた。


「鳴海。俺の配下の冒険者、三千、お前の、指示通りに、動かす」


「ありがとうございます」


「お前みたいな、現場の人間と、仕事できんのは、久々だぜ。王宮の、上品な連中、ばっかりで、肩こりが、ひでえんだ」


 ザムザは、両肩を、ぐるぐると、回した。


 その、骨の鳴る音が、大広間に、響いた。


 俺は、自然と、頬が、ゆるんだ。


 ……現場の、人間と、現場の、人間が、出会う時の独特の空気が、あった。



 外で、伝令の馬が、地響きを、立てて、駆け出した。


 ヴェルディノス王国、全土の、料理人ギルドへ、号令が、届いた。

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