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夢からの守り人  作者: kanisaku
21/22

黄泉からの恋

阿求、どうして君は美しいんだろう。

 阿求、どうして君は短い命をそんな男と過ごすのだろう。

  阿求、どうして君は僕にその笑顔を向けてくれないのだろう。

   阿求、どうして君は………。 


三途の川。黄泉へと続く川の中でその思いは募っていった。抑えきれない感情が高ぶり、ついにその思いを秘めた生物が高く跳ねた。

  小町「またアイツか…。いい加減大人しくさせないとオチオチ人魂一人運べやしない…」

水先案内人である小町は船を漕ぎだし、遊泳する「ソイツ」の真上まで忍び寄る。小町がここを通ることは珍しくはないので、「ソイツ」も油断しきっていると踏んだからだ。

  小町(すまいないね。そろそろ。アンタもあの世に行って楽に…)

大きな鎌を振りかざした途端。感ずかれたように真下の「ソイツ」は暴れ始めた。逆に不意を食らって慌てしまい、ボチャンと川に落ちてしまった。

  小町「っぷふぁ!あ、おい!まて!」

呼び止めたが聞くはずもない。所詮アイツは…。

  小町「鯉め…」



小町から逃れた鯉は黄泉から抜け出そうと必死に現世への海流に乗ろうとしていた。

三途の川の中には、一部分だけ現世に繋がる流れがあるらしく、そこを通ることができれば死んだ人間でも元の世界に戻ることができるのだそうで、鯉はソコを通ろうとしているのだ。

  鯉「この流れだ!ここを上手く通り抜けられれば、阿求の元に…!」

鯉はただただ真っ直ぐに泳ぎ続ける。途中何度も別の流れに惑わされそうになったが、それでも進み続けた。そして…。



  阿求「九月さん。慧音さんからお餅を貰ってきたのですが、一緒に食べませんか?一人じゃ食べきれなくて…」

4つの桜色をした美味しそうな餅を差し出してきた阿求に二言返事をし、その餅を頬張る。

なんとも言えない甘さと歯ごたえが絶妙に絡み合い、九月を舌鼓させるには充分なものだった。

  九月「美味しい…!慧音さんも太っ腹だね。こんな美味いのくれるなんて…」

  阿求「本当に美味しい」

美味な食べ物は人を幸せにする。まさに二人は今幸せだった。そこに突然一人の来客が来るまでは…。

  小町「あーん…、ん~!美味しいねぇ!」

  九月「!?っ!ゲホッ!ゲホッ!え!?だ、誰!?」

餅を危うく喉に詰まらせてしまいそうになったが、なんとか通し切った九月は驚きつつ阿求の前に移動し、守りの体勢に入る。

  阿求「九月さん、この方は敵なんかじゃありません」

  小町「おっ、なんだいなんだい?男でもできたのか?」

  阿求「そ、そんなんじゃ…ありませんよ」

顔を少し赤らめながら顔を俯ける阿求を見て、どうやら彼女が敵ではないということが分かった。


使用人に差し出されたお茶をズズズっと飲み。ため息をついた彼女は話し始める。

  小町「阿求とは度々あってるんだけど、アンタとは初めてだね。よろしく」

  阿求「小町さんは死神で、幻想郷からの死者の魂をあの世に送る仕事をしてるんですよ」

  九月「へぇ~。でもなんでその死神がこんな所に?もしかして…阿求の命をっ!」

刀に手をかける九月だったが、小町は依然として動かない。

  小町「ここにはただノンビリするために来てるだけさ。魂を狩るのは他の死神の仕事だからね」

そういうと、最後のお餅もヒョイと食べてしまった。「ん~♪」と美味しさを噛みしめる小町は話を続けた。

  小町「それでね…。今日ものんびりしたいんだけど、そうもいかなくてねぇ…」

困った顔をして言うには、どうやら黄泉の川を泳いでいる大きな鯉が現世に逃げ出したらしい。 それも、その鯉の目的が…。

  小町「アンタを連れ去って、黄泉で一緒に暮らすんだとさ…阿求」

  阿求「そんな…」

  小町「だから気をつけな。アタシもなるべくここら周辺を見回るようにするけど、怪しい奴が居たらすぐに離れた方がいい。アイツは人間にも化けるからね」

  そういうと小町は気怠そうに立ち上がり、内庭に降り立ってスゥっと消えた。どうやら死神はなんでも出来るみたいだ。

  九月「鯉…か…。阿求。今夜は気を付けような」

  阿求「はい」

二人はいずれ来るであろう妖怪に注意を払いつつ夜を待った…。



夜も闇が濃くなり、野犬妖怪すら鳴かなくなった頃。九月は怪しげな気配を感じて内庭で刀を構えていた。

  九月(なんだ…この感じ…まるで、死ぬことが怖くなってくるような感覚…)

ジワリと冷や汗を掻いてしまう。その時だ。阿求の悲鳴が聞こえた。

  九月「阿求!」

内庭に出た自分の行動を悔やむ。阿求を狙っているというのなら、阿求のすぐ隣で守ってあげるべきだったのだ。誰にも向けようのない怒りを糧に急いで駆け寄り、襖を開けた。

遅かった。敷いてあった布団には誰も入っておらず、暴れた様子も無く、最初から誰もいなかったような静かな室内に、荒だたしい九月の息遣いだけが虚しく響いていた。

  九月「そんな…くそっ!」

  ?「九月…お前が九月か…」

聞きなれない声のする方へ振り返る。さっきまで自分が立っていた位置に、ある筈のない大きな水たまりができていた。声はその中からしているようだ。

  九月「誰だ…まさか、お前が阿求を」

  ?「阿求はお前なんかじゃない。僕にこそ相応しいんだ…!お前なんか!」

荒々しくなっていく声はそこで途切れ、一匹の巨大な鯉がもの凄い速度で突っ込んできた。全長2m以上はありそうな巨体の出現は突然で、反応しきれずにモロに攻撃食らってしまった。

  九月「あぐぅ!?」

鯉はそのまま地面に落下する…。と思いきや、突然真下に水たまりがあらわれ、その中に鯉はボチャンと入り込んでいった。どうやらこの力を使って阿求を連れて行ったようだ。

  九月「ふざけんな…!阿求を返せ…!あの子は、俺が守るって約束したんだ!」

別の場所に水たまりができる。あそこだ。次はあの場所から来る!

予想した通り、鯉は先ほどと同じように一直線に飛んできた。小刀を手に取って投げつけようと引き抜いた。その時、突然片足がガクリと沈んだ。

  九月「!?」

足元に目をやると、右足が水たまりの中に太ももまで沈んでしまっている。

  九月「ヤバい…うあぁ!」

慌てて引き抜くが、その間に鯉が飛来し、巨体から繰り出される体当たりに弾かれ、屋敷の柱にぶつかる。

  鯉「もっと痛めつけてやりたいけど…まぁいいや。どうせお前なんかじゃ黄泉までこれやしない…」

  九月「なんだあの野郎…、くそ、阿求が…!」

  小町「やられたみたいだね。ちょっと来るのが遅かったみたいだよ」

どこからか小町が現れた。しかし、いくら彼女が来ても後の祭り。もう阿求は連れ去れてしまったのだ。途方に暮れる九月に対し、小町は一つの提案をした。

  小町「助ける方法が一つだけあるんだ。かなり危険だけど、するかい?」

する。答えはそうに決まっている。小町もそれは内心分かっていたらしく、「ついてきな」と案内された。



しばらく小町に抱かれて空を移動する。人里を超え、森を抜け、たどり着いたのは赤い彼岸花が咲き誇る丘のような場所だった。

  九月「ここは…?」

  小町「無縁塚って場所さ。縁者のない死体なんかはここで埋葬されてあの世に行くんだ」

  九月「それで、なんでこんな場所に?」

小町は鎌を取り出して地面にガツンと突き立てる。

  小町「これからアンタを黄泉に連れて行く…。つまり殺すってことさ」

その言葉に息をのむ。体中の血の気が引いていくのがハッキリわかった。

  小町「『阿求を守るのは自分だ』って覚悟があるならそれに付き合ってあげるよ。大丈夫、死んだとしても1時間以内なら私がなんとかして二人をこっちに戻すことができる…。どうする?」

  九月「さっきも言っただろ…。俺は、阿求を助けに行く!」

  小町「上等っ」

鎌は瞬き一つする間もなく九月の首を刎ねた。ただ、刎ねられたのは生首ではなく、魂だった。なんの抵抗もできず、そのまま意識が遠のいていく…。



  小町「…な…おきな…。九月っ」

徐々に戻っていく意識の中。小町が自分を呼び続けているのに気付いた。半身を起こして辺りを確認すると、先ほどとは全く違う川辺に居た。

石が大量に敷き詰められ、所々小さく石が積まれている。どうやらここが三途の川という場所のようだ。

  小町「ここに来てからもう10分は経ってる。あと50分でアイツから阿求を取り返さないと、二人とももう元には戻れないよ。途中まで案内してあげるから、後は自分で頑張りな」

小舟に乗った小町は九月を手招きする。一刻も早く助けなればいけないのだ。ノロノロする暇もない。急いで乗り込むと、船は誰が操縦するわけでもなく勝手に進み始めた。

  小町「アンタは今半分死んでる状態だ。魂の少しを現世に残してきてる。死者だけが溺れる川なんだけど、アンタなら何でもなく泳げる筈だよ…あの子は分からないけどね」

  九月「じゃあなおさら急がないと…!」

  小町「いや、あの鯉だって馬鹿じゃない。阿求が死んじゃったら有無を言わさず映姫様の所に連れて行かれるからね。手放さない為に水中に閉じ込めてる筈だ。アイツを倒して阿求さえ連れてこれれば、後はアタシが幻想郷まで戻してあげるよ。…そろそろ着くね」

船は辺りに何もない川の上で取り残されたように停止した。どうやら鯉はこの真下にいるとのことだ。

  小町「気をつけな。アンタなら水中で多少は動けるけど、水の中はアイツの土俵…足元掬われないようにね」

  九月「あぁ、わかってる。…ありがとうな。こんなところまで手伝ってもらって」

  小町「全部終わってから言ってくれ。アタシは気長に待ってるからさ」

  九月「うん…行ってくる!」

静かな水面に身を写す。とても冷たそうだ。しかし、今の自分は半分死んでいる。冷たさもあまり感じないだろう…。

              バシャン!

思い切って飛び込み、阿求を救いだしにどんどん潜る。小町が言っていたようにあまり苦しく思わない。それどころか、水中でさえ息ができると思える程に楽だ。

  九月「(阿求、待っててくれ!)」

潜ること2分程。上から差し込む光が徐々に弱くなっていくのが分かる。これ以上進めば、戦うどころかまともに攻撃を避けることもできなくなってしまうほど暗くなりそうだ。

その時、底の方から声が響く。

  鯉「来たな人間め…!」

  九月「阿求を返せ!」

喋れた。水中でもなんとか動けることを知った九月は刀を引き抜き、声がした方に構える。

  鯉「阿求は誰にも渡さない。お前みたいな人間に…あの子は不釣り合いだ!」

  九月「不釣り合いかどうかは…彼女が決めることだ!」

  鯉「うるさい!」

最初に襲ってきたときよりもさらに速い速度で突進してきた。半身を逸らしてなんとか直撃は免れたが、乱雑に振り回す尾びれの平打ちが顔面に直撃する。

  九月「ぐぅ!」

  鯉「人間ごときが、水の中で僕に勝てるわけがない!」

  九月「やってみなくちゃわかんないぜ!  ぐはっ!」

そう言ったはいいが、今度は真下から来た鯉にアッパーを食らってしまう。

構えるどころか防ぐ隙さえあたえさせてくれない猛攻だ。四方八方から突き進んでくる魚に、九月は完全なサンドバッグ状態だった。

  九月「くそっ!でりゃあ!」

自棄で投げたツバメ返しだったが、水中では斬る風もなく、水中を漂うだけだった。

  九月「そんな…、がは!?」

何かが首筋に刺さる。激痛を伴いながらもそれを引き抜いて確認する。鱗だった。赤くキラキラ光る鱗。

  鯉「陸でも僕に勝てなかった奴が。水中で勝てると思うな!」

今度は右腕を刺される。深く刺さり、今度はとれそうにない。

  九月「うぐぅぅ~!」

  鯉「どうしたんだ!かかってこいよ!」

  九月「ぐああっ!」

背中に全力の体当たりを食らい、口から血を吐いてしまう。水中じゃ避けるどころか刀を振ることさえさせてもらえない。

  九月「俺は…!阿求を…!」

その時、上から声がした。

  小町「九月!聞こえるかい!?」

  九月「こ、小町…?」

  小町「いくら武器もってても、そこじゃ振り回せないだろ!?一回だけチャンスがある!ソイツが、真下から向かってくるときだ。タイミングを見計らって、鯉の水面との距離を縮めて、水上に上げる。そこを突きな!」

  九月「…わかった!」

  鯉「何を話してる!今更考えたって無駄だ!このまま殺してやる!」

  九月「俺は…阿求を、助けるんだ!」

刀を鞘に納め、動きやすい体勢をとる。これでやっと鯉の突進がギリギリ避けられるようになった。

上から来たのを後ろに下がって避けると、Uターンして鯉は上ってきた!

  小町・九月「今だ!」

小町が水面を鎌で斬りつけると、水面上に飛び出す勢いで鯉は宙を舞った。

  鯉「な!?」

  九月「うおおおぉぉぉ!!」

同じく距離を縮められた九月は、水中から刀を突き出し、鯉の心臓を一突きで貫通させた!

  鯉「~~っがは!」

口から血を吐き、刀に刺さったままピクピクと痙攣する。

  九月「阿求はどこだ!」

  鯉「だ、誰が、言うもんか…こうなったら、地獄でもなんでも言って阿求と一緒に…!」

  九月「言えっ!」

  鯉「言わないぃ!」

阿求がここに来てかなり経つ。いそいで幻想郷に戻らなければ、阿求の肉体は魂ごとあの世まで持っていかれてしまう。

鯉は自分の死を感じ、阿求も道連れにしようと考えているのだ。

  小町「…アンタ。魚にしても最低な男だよ」

  鯉「な、なんだと…、死神風情が…!」

  小町「その死神風情に言われるぐらい今のアンタは落ちぶれてるんだよ。自分が死ぬから愛した人も殺す?冗談じゃないよ。アンタはそれでいいかもしれないが、愛された人はたまったもんじゃない…。コイツが、なんのためにアンタに戦いを挑みにここまで来たと思ってるんだい?」

  鯉「…!」

  小町「こんなにボロボロになって、好きな人を殺したくないから…必死になって戦ってたんじゃないか。アンタだって、阿求をここまで連れてきて死なないように気を付けたろ。死んでほしくなかったろ…。同じ気持ちを、なんでわかってやれないんだい!?」

  鯉「……」

小町が怒鳴った。その気迫に、言われていない筈の九月も押し黙ってしまう。

  鯉「海底の底の…重箱に…」

  小町「そうかい。わかった…九月、離してやりな…。刺しっぱなしは可哀想だよ…」

  九月「あ、ああ…」

なるべく痛くないように気を付けながら引き抜き、血を払い落として鞘に納める。そして、鯉が言ったように海底を深く深く潜っていく…。


すると、光など殆どなかった場所に一つだけ、小さくキラキラと輝く場所があった。大きな重箱が置かれており、阿求なら入れるスペースだと確信してゆっくり開ける。

  阿求「く……九月さん!」

戦いで傷だらけの九月を見て、涙を流して抱き着く。

  九月「やっと見つけた…阿求…。帰ろう」

  阿求「はい…!」



  鯉「なんだよ。折角合わせてあげたのに…お前も阿求を泣かせてるじゃないか…」


沈みゆく中、鯉は二人をぼんやりと見つめる。阿求が涙を流している。鯉はそれが嫌だった。彼女の涙を見たくないと思っていた。しかし…。

  鯉「でも…あの涙は…。なんだか、温かそうだ…なぁ……」

鯉の眼から光が無くなった。






・・・・。


幻想郷に戻った二人は、小町にお礼を言って屋敷に戻る。二人揃って縁側に座り、温かい日を浴びる。

  九月「それにしても…あの鯉はどこで阿求のことを知ったんだろう」

  阿求「ちょうど60年ほど前でしょうか…。私が転生の為に一度あの世に行った時。あの鯉に会ったんです。優しい人でした。黄泉での話をたくさん聞かせてくれて、次転生しに来たらもう一度お話しようって約束もしていたんです…」

  九月「…俺、悪いことしちゃったかな」

  阿求「いいえ。そんなことはありません。彼とはまた会えますよ。彼があの世に留まっているなら。次の転生に…。その時は、たくさんお話します…」

静かに彼との再会を想う阿求は、九月の手を握りしめる。





幻想郷に全面戦争を宣告する月の依姫。九月は阿求を守るため、刀を月に向ける…!


次回、夢からの守人『目覚める九月』

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