目覚める九月
その日。幻想郷は騒然としていた。
豊姫「小生意気な幻想郷の妖怪達に、我々月人の恐ろしさを今一度思い知らせてやるのよ!」
月から次々と送り込まれる戦闘部隊に、幻想郷は一団となって対抗していた。そして、それに一人の青年も…。
霊夢「…来たわね、九月」
九月「ああ。こんな大事な時だ。俺だって戦うさ」
霊夢「そうね…アナタの力はまだ未知数よ。この戦いで失うには惜しい人…。私と一緒に行きましょう。そして、月のあの二人を倒すのよ」
何時もの博麗神社の境内。数日前なら妖精や妖怪達で賑わってたであろうこの場所も、今は閑散としてしまっている。無理もない。皆、各地で月からの攻撃に備えているのだから。
九月「…」
霊夢「他のメンバーがそろったら出発よ、それまでに何かしておくことはないかしら?」
九月「手紙…。手紙を書きたいんだ。いいかな」
霊夢「ふぅ。貴方、やっぱり」
九月「あぁ、今まで一度も言えなかった。けど…これでよかったような気がする」
霊夢「…」
九月は懐から一本の簪を取り出す。金色と黒の美しい簪で、紫の花飾りがついている。
九月「あの子の誕生日に送り物をしたんだけど、その時にもらったんだ。『私がアナタの本当の一番になった時…これを私につけてください』って…」
霊夢「そう…。待ってて。書くもの…必要でしょ?」
九月「そうだな。ありがとう」
部屋に入った霊夢はタンスから長方形の紙と筆を取り出し、墨を磨る。
シャッシャッシャ…。静かで風情のある音が耳を癒し、これから起こるであろう激戦とはかけ離れた落ち着きを二人に与えている。
霊夢「これが最後の墨摺り…」
九月「不吉なこと言うなよ。きっと戻ってこれるさ。皆もついてるんだ。それに紫だって」
霊夢「そうよね。きっと…」
フッと笑う霊夢に、つい笑みがこぼれてしまう。そこへ一人の魔法少女が箒にのってやってきた。
魔理沙「おー。九月じゃないか。早いな」
九月「魔理沙。久しぶりだね」
魔理沙「だな。あと来てないのは…」
霊夢「紫、藍、レミリア…。神子と天子かしら」
魔理沙「萃香もじゃなかったか?あとたしか…神奈子とか諏訪子とか」
霊夢「ほんと、凄い面々よね」
九月「なんだか緊張するなぁ…。神様とかいるんでしょ?」
魔理沙「神だけじゃないぜ。天人や鬼、妖獣…あと、人間と魔法使い」
指折り数える魔理沙はなんだか楽しそうだ。
霊夢「できたわよ。揃うまでにかき上げて頂戴ね」
九月「うん」
今に上がらせてもらった九月は、慣れない筆でなんとか字を書き連ねる。出会った時の事。小刀を貰った時のこと…。地底で鬼の亡霊と戦ったり、水の底まで助けに来てくれたことなど、一つ思い出すと連鎖的に別の思い出が湧き続ける。
魔理沙「随分アツアツなんだな」
九月「よ、よせやい恥ずかしい」
魔理沙「恥ずかしがんなって。私だってさっきアリスに会ってきたばっかりだったんだけどさ。もう泣きに泣いてて…まるで子供みたいだったぜ」
九月「あれ?魔理沙もまだ子供でしょ?」
魔理沙「私はもう十分大人だぜ」
談笑しながらだが、なんとかかき上げた。数枚の紙を封筒に入れ、霊夢の小さな陰陽玉に乗せて阿求の元まで運ぶ。
しばらくすると、幻想郷屈指の強者たちが続々と揃ってきた。数多くの妖怪達から阿求を守ってきた九月だが、その集団の中では一番弱いと言い切れるだろう。
紫「皆揃ったわね…」
レミリア「前回負けたのはちょっとしたお遊びよ。今回は弾幕なんて生易しいものじゃないわ。アイツらの生血で月を染めてやりましょう」
天子「ワクワクするわね。どんなに強いのかしら…!」
朱い剣をブンブンと振りまわす青い髪の少女は笑う。
紫「相手は弾幕なんか通用しないわ。みんな、死にたくなかったら…全力で戦いなさい」
扇子で口元を隠しそう言う紫は、大きな隙間をみんなの前に作り出した。
紫「中から攻めるわよ。皆が中に入ったら、すぐに向こうへの入り口を開けるわ。目の前に敵が見えたらすぐに攻撃しなさい。話す余裕も抵抗する余裕もなく…ね」
九月「……」
一人不服そうな表情を見せる九月に紫は気づく。
紫「あら、どうしたの?なにか不満かしら」
九月「やっぱり……放し合えないのかな」
魔理沙「無理だぜ…それは」
九月「でも…」
レミリア「逃げ腰ならここから退きなさい。アナタ一人いなくなったところで私達の戦力に変わりはないわ」
天子「やっぱり人間なんてそんなものよね。特にアナタは、能力も持たない『ただの人間』だものねぇ」
九月「…わかった。行こう」
そうだ。今更迷っていてはいけない。刀を強く握り、紫に向かって静かに頷く。
紫「そう。決意は決まったわね…。皆。行くわよ…!」
紫が扇子を勢いよく振り下すと、前方にグワッと部屋の中が映し出される。
紫「魔理沙。先陣を切って頂戴」
魔理沙「あぁ。任せてくれ」
八卦炉を取り出し、全力で魔力を注ぐ。
天子「あら。私も混ぜてもらうわよ」
魔理沙の手を取り、一緒に八卦炉を持つ。魔女のエネルギーに天人の力も加わり威力はいつもの倍以上だ!
隙間から発射された超極太の七色光線が月の城を内部から破壊し、宇宙に一筋の光を映し出す。
月兎「な!?」
月兎2「敵襲…。敵襲だぁ!」
訓練をしていた月兎や、幻想郷に向かって出撃する準備をしていた月兎も慌てて城に駆け込む。
萃香「うおおぉぉぉ!」
巨大化して城をさらに崩壊させる。その他の面々も、自身の能力を使って兵達をなぎ倒していく。
依姫「く…やはり来たわね。でも甘いわ。その程度の奇襲で、私達は負けない!」
神を身に宿した赤い服の少女は紫に斬りかかる。
九月「危ない!」
九月も刀を抜いて剣撃を弾き返す。
依姫「コイツは…」
九月「俺は九月…!初代守人の九月だ!」
小刀を依姫に投げ、同時に突撃する。簡単に弾かれた小刀を左手に持ち、即座に二刀流となって依姫と対峙する。
紫「(九月…成長したのね)」
九月「うおぉぉぉお!」
依姫「(くぅ、コイツの攻撃…重い!どうして。私は月人。こんな奴の何百倍と長く生きてきたのに…どうして!)うああああああ!」
怪力の神を身に宿し、渾身の一撃を振り下す!地面が割れ、九月を遠くまで吹き飛ばした。
九月「ぐぅ!」
神奈子「おっと。次は私達が相手だ」
諏訪子「ボスラッシュと言ってね」
藍「私は違うがな。紫様。見てるだけじゃないで一緒に戦ってください」
紫「はいはい…」
依姫「……姉さんは何をしているの」
・・・。
豊姫「ぐぅ…ぐぅ……」
崩壊した城の瓦礫の中。布団だけはちゃんと被り、深い眠りについている豊姫。もちろん襲撃にあっているなど気づいてもいない。
依姫「こうなったら…100の神を、宿らせる…!」
恐ろしい剣幕で刀を地面に突き刺した彼女の背中に大量の霊魂のようなものが入り込んでいく。
紫「今までのはお遊びだったようね…」
魔理沙「ああ…こりゃ勝てないかもな…」
全長40m。あり得ないサイズになった依姫は、月面の敵を睨みつける。
依姫「どうだ。これでもうお前達に勝ち目はない…今日ここで全員葬り去ってやる…!神も、鬼も、妖怪も…人も…!」
萃香「そんなことさせると思ってるのかい!? ぐふっ!?」
同じサイズにまでなった萃香が拳を振り上げるが、それを遥かに上回る速度で回し蹴りを入れられる。
たったの一撃で萃香を気絶させてしまい。戦力を削られてしまった。
依姫「まずは一匹だ…!次は、人間のお前だ」
逃げることができずにいる九月を掴みあげた依姫は九月を幻想郷の方に向けて強く投げ飛ばした。
九月「うわあああ~!!」
刀が帯から外れ、武器がなくなってしまった。
無酸素の宇宙をただただ直進する。息が苦しい。もうダメだ。幻想郷で待っててくれている阿求に申し訳ない。
九月「(阿求…)」
薄れていく意識の中、九月が最後に見たものは…。
阿求「九月さ~~~ん!!」
赤と白を基準としたカラーリングの巨大ロボットに乗った阿求の姿だった。九月をそっと手に乗せ、コックピット内に入れる。
阿求「よかった。間に合った…」
九月「阿求…どうしてここに?」
にとり「月の民との戦いに備えて私が昔から密かに作っていた『ニトリューノΩ』が完成したから、阿求を乗せてきたんだ。操縦が難解なのが問題だったんだけど、記憶能力がある阿求なら操作できると思って寝て…大正解だったよ」
巨大化した依り姫とほぼ同じサイズのロボットが月面に降り立ち、地面を浮き上がらせる。
依姫「こんなもの…勝つのは私だぁ!」
阿求「九月さん!行きますよ!」
九月「おう!」
副操縦席に座る九月とにとり。3人の力で迫る依姫と対峙する。
互いに拳と拳がぶつかり、強い衝撃波を辺りに響かせる。
相手の手を掴みあい、脚を踏ん張って向かい合う。
依姫「ぐぐぐぅ…!」
阿求「ぬぬぬぅ…!」
にとり「埒が明かない。こうなったら、出力全開のフルパワーで一気に押し切るんんだ!」
阿求「九月さん! 九月さん! 九月さん?」
返事が無い。振り返ってみると何故かベッドと共に寝ている豊姫。そして九月はその横で添い寝をしていた。
阿求「え!?ちょ、ちょっと…!寝ないでください!というかなんでこの人がこんな所に!?あぁもう、私以外の人と寝ないでくださいぃぃ~!」
ベッドの横に立ち、九月の顔をバンバン叩く阿求。
九月「ああゴメンゴメン。つい眠く……!?」
阿求「いい加減…起きてください…!」
阿求がとても重そうに「30kg」と書かれた巨大ハンマーを持ち上げている。振り下す気だ!
九月「わー!わー!起きてる!起きてるって!」
阿求「とりゃああー!」
九月「うわあああぁぁぁ!」
迫ってくるハンマー。流れる涙。
九月「うわああああ!」
その時、九月は自分の布団から勢いよく起き上がった。大量の冷や汗を掻き、息も荒くなっている。
九月「はぁ…はぁ…。え。なにあれ。夢…?」
阿求「むにゅぅ…。どうしたんですか大きな声で…」
九月「……いや。なんか悪い夢見ちゃったみたいで…」
空もまだ白んでいないというのに、変な起き方をしてしまった。阿求はそのまま寝てしまったが自分はどうしても寝付けない。
気晴らしに縁側に出て星空を眺めみる。いつもは、何時来るか分からない妖怪との戦いの為眺めることなど無かった星空だ。キラキラと輝き、夢の中でさえ疲れ切った九月の心をいやしてくれる。
九月「………ふぅ。そろそろ寝るかな」
九月が星空に背を向けた瞬間、空に浮かぶ月から七色で一筋の光が飛び出ていき、そこへ白と赤を基準としたカラーリングのロボットが月へ…。
それに気づくことなく、九月は襖をそっと閉めた。
金!金!金!空から降り注ぐ大量の大判小判!人の欲を弄ぶ妖怪が最後に狙うのは…!?
次回、夢からの守人『笑う妖怪』




