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夢からの守り人  作者: kanisaku
18/22

赤き月の兎

幻想郷の昼。さんさんと降り注ぐ太陽の光を、所々雲が遮っている。気温は高くも低くもなく、人が生活するにはこれ以上ないほどの適温だ。そんな時、一人の少女が高熱で倒れた。


  使用人「阿求様…お茶が入りまし…阿求様?阿求様!?誰か!阿求様が!」

使用人達に運ばれ、阿求はすぐに竹林にある永遠亭の病室に寝かされた。

  永琳「うーん…ただの風邪ね。心配することないわ。結構高いけど、薬を飲んで大人しくしてれば二日もかからずに治るわよ」

診察室に設置されているベッドに寝かされている阿求の体温と容体を確認して永琳が言うと、使用人たちはホッとしたように表情を緩める。

  永琳「一応、あの子にも連絡しておいた方がいいわ。えっと確か…九月、だったしら」



その晩、幻想入りしてきた九月は、足元に置手紙が落ちているのに気付き、内容を確認した。

  九月「…阿求、風邪で竹林の医者の所に…。行ってみるか」

手紙を懐に入れ、心配する心を体現したように急ぎ足で竹林の奥へと向かった。



竹林の目の前まで来たはいいものの、永遠亭への道が分からずに九月は立ち往生してしまっている。

周囲をウロウロと歩き回るが何か変わるわけではなかった。そんな困り果てた九月の元に、提灯を持った二人の里人が近寄ってきた。

  里人1「兄さん、何か困ってんのかい?」

  九月「永遠亭っていう場所に行きたいんですけど…道が分からなくて…」

  里人1「あ~、夜は危ないから行かない方がいいよ。最近、夜になると大きな妖怪がうろついてるって話だからさ」

  九月「大きな妖怪?」

  里人2「なんでも、こんなにでっかい兎の妖怪が、竹林に入った人間を襲ってるんだってよ」

両手を大きく広げる里人の言葉を聞き、考え込む。永遠亭は竹林の奥にあり、自分が居ない今…阿求を守ってくれる人は居ない。ましてや病院なんかで襲われたら、他の人たちにも危害が及ぶかもしれない。結論はすぐに出た。

  九月「ありがとうございます。俺、行ってきます」

  里人2「おいおい、今の話聞いてたのか?妖怪が…」

  九月「俺は稗田阿求の守り人の九月です。妖怪の一匹や二匹、簡単に倒して見せますよ。そうすれば、これ以上誰かが襲われることもないでしょう?」

腰に下げた刀を手でトントンと叩き、自分が戦えるのだとアピールする。それを見て戸惑いながらも、二人は九月を途中まで見送ってくれると言った。



竹林に入ってから10分程経っただろうか、里人の二人はこれ以上入ると危ないから、と引き返していった。それに手を振って礼をして、気を引き締めて先を進む。

  九月「良い人たちだったな…。幻想郷って、皆あんな感じなのかな~」

外の世界でも優しい人はたくさんいる。けれども、危ないと分かっている場所に入ってまで道案内をしてくれるような人は中々いない。

薄茶色の落ち葉をジャリジャリと音をたてながら踏み進んでいくと、何やら獣のうなり声が聞こえてきて足を止める。ゆっくりを刀に手を伸ばし、体勢を低くしてその声がどこからするのかジッと耳を澄ます。

  ?「ギャウッ!」

後ろからガサガサという草をかき分ける音とその獣のものであろう声が響いた。振り向きながら小刀を掴み、離れた場所にいるその獣に向かって刀を抜き、投げる。

グルグルと回転しながら小刀は威力を落とすことなく飛んでいき、茂みの中に突っ込む。

小刀がその茂みに入りきった瞬間、そこから飛びかかるように巨体な生物が襲ってきた。自分より確実に大きく2mはありそうな獣は、高く飛び上がって月を明かりを隠した。その両目はとても赤く、今にも自分を襲うという意思をむき出しにしている。

横に跳んでその飛びかかりを避けて刀を抜く。茂みからも小刀が戻ってきたのでそれを鞘に戻し、里人が言っていたであろう妖怪と対峙した。

長く大きな耳、真っ赤な目、それは完全に兎だった。しかしその指先には不似合に伸びた鋭い爪が生えている。

  九月「コイツがさっき言ってた妖怪か…。確かに人を襲いそうな奴だ…」

先に攻撃を仕掛けたとはいえ相手も反撃をしてきたのだ。つまり戦う気があったということ…。ギュッと刀を握る手に力を入れ、ただ目の前でこちらの動きを見計らっている兎を睨みつける。

  九月「…うおおおぉぉー!!」

刀を横に構えて走る。兎と距離を詰め、真上から斬りかかるように見せかけて大きく飛び上がる。空中前転しながら後ろに回り込み、大振りのモーションで刀を振った。

しかしその瞬間、突然体が動かなくなった。まるで刀が何かに刺さってしまい、抜けなくなったように宙でピタリと止まり、それを握っている自分の身体も全く言うことを聞いてくれない。

  九月(ど、どうなってるんだ!?このままじゃ殺される…!)

九月の焦りを察したように兎は振り返った。あの赤い眼と再びにらみ合うが、今度は自分が圧倒的に不利だった。

  うどんげ「そこまでよ、九月さん…」

兎の後ろ側から一人の女の子が歩いてきた。うどんげだ。前に自分の傷の手当や妖怪の弾幕に対する特訓をしてくれた彼女が、何故、危険な妖怪を前にした自分に対してそんな事を言うのか分からなかった。

  九月「うどんげ…!?なんで」

  うどんげ「この子は、私個人の問題なの…。アナタは引き下がってちょうだい」

右手をピストルのように構えた彼女の指先から一つの光弾が放たれ、自分の額に直撃する。仰け反るように後ろに倒れ、その威力の前に気絶してしまう。




目が覚めた時、知らない一室のベッドで寝かされていた。横を見ると、うどんげと一緒に居た赤と青の服を着た女性が椅子に座って紙に何かを書いている。

  九月「ん…あれ…?」

  永琳「あら、気がついたの?」

  九月「なんでここに…、てか、ここはどこですか?」

椅子から立ち上がり、額に手を当てられながらそう質問すると永琳は症状を確認し終えて言った。

  永琳「うどんげよ…。あの子、最近あの妖怪の所にばっかり行って…」

  九月「何かあったんですか?俺も、人里の人達が危ない妖怪だって聞いて。阿求のお見舞いついでに遭遇したんですけど」

  永琳「…あの兎は、あの子の能力の犠牲者よ」

永琳は呆れたように話してくれた。永琳が作った新薬をうどんげが兎の一匹に飲ませてしまったこと。その兎が、うどんげが月から地上に来た際に一緒に連れてきた大事な兎だったということを…。

  九月「そんな大事な兎を…、なんでうどんげは」

  永琳「あの子はいつまでたっても半人前。私が作った薬すらろくに覚えきれてないわ。本当に飲ませたかったのはこっちみたいね」

ポケットから取り出した肌色の薬を見つめながら永琳は言う。

  九月「どんな効果があるんですか?」

  永琳「風邪薬よ。あの子の飼ってた兎が風邪をひいてて、そのための薬だったんだけど、間違えてかなり危険な方の薬を飲ませてしまったみたいね…」

  九月「そんな」

  永琳「私もうどんげに協力しようって思って薬を作ったんだけど、いらないって言われたわ…」

そういうとポケットからもう一つの粉薬を取り出した。

  九月「…その薬。貰えませんか?」

  永琳「いいけど、何に使うの?」

  九月「その薬、うどんげは」

  永琳「もちろん持ってないし、あの子は使おうと思わないでしょうね。片意地を張って、完全に自分だけのせいって責任を感じてるみたいだし…」

  九月「だったら、俺がもう一回行って、この薬を使います」

  永琳「言っておくけど、あの子の所に行ってもまたここに逆戻りさせられるだけよ」

  九月「けど…彼女には、特訓に付き合ってもらった、傷の手当てもしてもらった。その恩があるんです。あの子だけで解決できるなら…もうとっくに解決してる筈です…」

  永琳「…はぁ」

九月の熱意のこもった言葉にため息がでた。何を言っても彼女の手助けをするつもりだろう。彼の決意は揺るがない。

  永琳「それより、ここに来たのだからせめて阿求の容体でも見ていく?」

  九月「…いいえ、これが解決したら、全部終わったら。阿求に会いに行きます。誰の手伝いもできずに…阿求に合わせる顔がない」

  永琳「そう。じゃあ、行ってらっしゃい」

貰った薬を懐にしまい、ベッドの横に立て掛けてあった刀を腰につけて永遠亭を走って出ていく。



  うどんげ「はぁ…はぁ…」

うどんげは相変わらず、兎の目の前にたって兎の攻撃をなんとか避けている。何度も狂気の瞳を使って言うことを聞かせようとするが、その赤い眼をもってしても兎の暴走は止まらなかった。

  うどんげ「お願い…、良い子だから…元に戻って…」

ポロポロと涙を流し、兎の猛攻を避けているが、もう限界だった。ふらついた足がもつれ、尻もちをついてしまう。

  うどんげ「!?」

その隙を兎は見逃さなかった。大きく跳んでうどんげに襲いかかる。

  九月「うぉぁあああー!」

うどんげの真後ろから走ってきたのは九月。間に合え!と言わんばかりに小刀を手に取り、全力で兎に投げつける。高速で回転しながら飛んでいった小刀は、兎がうどんげを押しつぶす前に兎の腹部に突き刺さった。たまらず怯んだ兎は空中でバランスを崩し、うどんげのすぐ目の前で地面に落ちる。

  うどんげ「あなた…なんで」

  九月「うどんげ、この薬…」

永琳からもらった薬をうどんげに見せる。しかし、反応はさっきと同じように冷たいものだった。

  うどんげ「あの子に…、永兎えいとに何てことするの!」

九月を赤い両目でキッと睨みつける。しかし九月もその目が危険だということは永琳から聞いていた。すぐに両目を瞑って対処する。

  九月「聞いてくれ、この薬があれば…その…永兎、だっけか。治るかもしれないんだ」

  うどんげ「そうよ…。師匠が作った薬。けど、私はそんなのに頼らなくても」

  九月「なんで…なんでそうやって大事な人が助かるかもしれないのに、自分だけで解決しようとするんだ!」

うどんげの言葉を遮って九月は怒鳴った。

  九月「永琳だって心配してたんだ!だから俺はこの薬を持ってきた!」

九月が座り込むうどんげに言ってると、刺さった小刀をそのままに永兎が飛びかかってきた。

いち早く反応した九月はうどんげを抱えて横に跳び、その圧し掛かりを避ける。

  九月「永兎のことで心配してるのは、うどんげだけじゃない。永琳も…そして俺だって、こんな兎の姿見たら悲しくなってくる…」

九月の目に溜まる涙を見て、うどんげまで泣きそうになってしまった。溢れる涙を拭い。自分から九月の腕を降りる。

  うどんげ「…わかったわ。なら、一回だけ…力を貸して…」

  九月「もとからそのつもりだよ…!」

うどんげに薬を渡し、九月は単身で威嚇の声を上げる永兎に向かって走る。

  九月「絶対に…、元に戻してやるからな!」

鋭く伸びた二つの前歯。噛まれれば腕なんて簡単に千切られてしまうだろうその牙を、九月の脳天目掛けて振り下してくる。しゃがみつつ前進しその攻撃をすり抜けた。刺さったままの小刀を引き抜き、永兎の口を小刀と刀で無理やり上下にこじ開ける。

暴れて抵抗する永兎だったが、九月は粘ってその体勢を維持し続ける。

  九月「うどんげ!今だぁ!」

指先に薬の入った袋を巻き付け、ピストルを構えるように人差し指を永兎に向ける。

  うどんげ(お願い…入って!)

その一心で指先から放たれた弾幕の一粒。指に巻き付けていた薬はその弾に移動していて、永兎の口に直行する。

口に入り、喉に当たって胃に入る。数秒にも満たない賭けは成功した。

二つの刀を口元から離し、今度は逆に素手で口を無理矢理閉じさせる。ここで吐かれては、意味がなくなってしまう。

両足をしっかり地面に着け、全身を使って抑え込む。6秒程暴れて、永兎はおとなしくなった。

  九月「…?」

  うどんげ「…」

ゆっくりと離れ、眠るように横たわる永兎を見つめる。

すると、永兎は徐々に小さくなっていった。

  うどんげ「!!」

シュルシュルと巨体が収縮されていく。それにつれて、凶暴な牙も爪も無くなるように見えなくなって、元の大きさに戻って行った。最終的には、普通の兎となんら変わりない姿の永兎がそこで寝ていた。

  うどんげ「永兎!…良かった…良かったよぉ…」

永兎を抱きしめ、ポロポロと大粒の涙を流す。気がついて目が覚めた永兎は、うどんげの腕の中でモゾモゾと動いては嬉しそうに耳を動かしていた。




  阿求「九月さん…来てくれたんですね」

  九月「阿求。身体は大丈夫?」

病室で半身を起して本を読んでいた阿求は、部屋に入ってきた九月に笑顔を向ける。

  阿求「はい。ここのお薬は良く効くんです。おかげで、少し寝たらだいぶ良くなり…」

フラッと倒れかける阿求を慌てて支えた九月は、無理をさせないように阿求をベッドの上に寝かせる。

  阿求「…何かありましたか?」

  九月「いや。兎って、可愛いもんだなって思ってさ」

  阿求「そういえば、永遠亭では兎を飼ってるらしいですね。今日はまだ見てないのですが…九月さん知ってましたか?」

  九月「あぁ、知ってるよ。優しい兎が一匹。他の兎の為に頑張ってるのを見守ってたから」

どこかを見ている九月の顔は、何か満足したようなものだった。しかし、阿求にはどういう意味なのかはよく分からない。

  阿求「?」

  九月「まっ、阿求が風邪を治したら話してあげないこともないな~」

  阿求「えー、気になるじゃないですか。教えてくださいよ~」

残念そうな顔をする阿求だったが、九月の表情を見て、つい笑顔がこぼれてしまった。

九月と互角の戦いを繰り広げる謎の武者。彼は自分は不死身だと言うが…。武者に隠された過去とは…。


次回、夢からの守り人『明日にさようなら』

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