表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢からの守り人  作者: kanisaku
15/22

地底の街

入口であるトンネルをしばらく進むと、松明の塊が壁に固定してある籠の中で燃えていた。その明かりの真下には幅2m強の大きな穴があり、さらにその真上には白い頑丈そうな紐が吊るしてある。

  阿求「これで降りれるんですかね…」

  九月「そうかな…ちょっと覗いてみるよ」

地面に膝をついて、恐る恐る中をのぞいてみる。真っ暗な穴の中は、シンと静まり返っていた。

  九月「特に何もないみたいだ…」

後ろを振り向いて阿求を見る九月の一瞬の隙をついて、覗き込んでいた穴の中から一人の人物が飛び出してきた。

  阿求「九月さん!」

驚いて言う阿求の言葉も間に合わず、ソイツは九月の首を両腕で固める。

  九月「!?」

  ヤマメ「いらっしゃーい!」

その少女は、両腕でがっちり九月を捕まえてニコニコとほほ笑んで体を密着させてきていた。

  九月「え?え!?誰、誰誰!?」

軽いパニックになってい後ろを向こうとしている九月を弄ぶように右へ左へ体を逸らして正体を明かさない少女。

  ヤマメ「へへへ~、久々のお客さんだ~♪」

嬉しそうに九月のうなじに頬ずりする少女。慣れない感触に、ゾワゾワとしたものが背筋に走る。

  阿求「貴方は、誰ですか?」

  ヤマメ「私は黒谷ヤマメ。妖怪やってま~す」

軽い口調で言う少女は、パッと九月から離れて自己紹介をする。

  九月「妖怪!?」

  ヤマメ「そう身構えないでよ。私は別に貴方達にどうこうしようって訳じゃないから」

  阿求「では、いったいなんでしょうか…?」

  ヤマメ「貴方達は地霊殿に用事があるんでしょ?こんなところに来るなんてそれ以外に理由はないしね」

  阿求「そうなのですか」

  ヤマメ「兎に角!ここまで来たからには…入っちゃうよね?」

九月の片腕を抱き寄せながら、風俗にでも誘うかのように言うヤマメに、阿求はムッとしていた。それを見て九月も急いでヤマメから腕を離す。

  九月「ま、まぁ…結構大事な用事だからね。阿求、行こうよ」

  阿求「そうですね…っ!」

自分を通り過ぎると同時に、さりげなく右足を思いっきり踏みつけられる。

  九月「!?」

  ヤマメ「?」


ヤマメに連れられて糸をスルスルと降りていく3人。不思議と腕は痛くならず、阿求でさえ楽に降りれていた。

  ヤマメ「この糸は私が作った糸なの。頑丈だし、掴んでても痛くないようにしてあるのよ」

  九月「どういう仕組みなの?」

  ヤマメ「それは秘密」

口元に指を当ててウィンクするヤマメ。そんなことをしている内に、地面に降り立つ。

  ヤマメ「キスメ~。明かり点けて~」

ヤマメが真っ暗な闇の中でそういうと、ボボッと自分達が立っている場所に道を作るように火の玉が一列に並んだ。

そして、桶に入った少女が、その桶を糸で吊るした状態で降りてきた。

  キスメ「お客…?」

  ヤマメ「そんなところかな。さとりに用事があるって言ってるから、地霊殿まで連れて行こうよ」

  阿求「ちょっと待ってください。貴方達妖怪ですよね?」

急いで荷物を取り出す阿求に、ヤマメとキスメの二人は頷く。

それを確認して、筆を取り出し、阿求は一言だけ。「書かせてください」と言った。



それから数十分の間、阿求は聞いては書き、書いては聞いての繰り返しだった。相手にしている二人も自分の事を言うのは恥ずかしいらしく、互いに自分がどうなのかを言い合っている。  

  阿求「ヤマメさんが土蜘蛛の妖怪で…キスメさんがつるべ落としの妖怪ですか。なるほど。ありがとうございます」

  九月「随分書いたね…」

  阿求「彼女達だけで一本丸々使ってしまいましたよ。それでも充分な成果です」

  ヤマメ「さとりのところに案内したかったけど、時間も時間だな~。今夜は街に泊まっていきなよ」

  九月「さとり?街?」

  キスメ「地霊殿の前は繁華街になってるの。そこに宿屋があるから、好きなの使って。一日寝泊りするだけならお金もいらないから」

  阿求「それは助かります。九月さん、行きましょう」

  ヤマメ「道中嫉妬されないようにね~」

  阿求「嫉妬?」

疲れている阿求は、自然と九月の手を握っていた。九月もそれを気にすることは無く二人は進んでいく。


そのまま、火の玉に沿って歩き続けていると途中で火の玉は途切れた。その代りに、奥には繁華街の明かりらしきキラキラとした光の集団と、その手前に見える橋が見えてきた。

  九月「橋…?」

  阿求「誰かいますね」

橋の中央部分に少女が立っている。橋の両端にある落下防止の木の棒に腕を置き、何か考え事でもしているようにジッと一点を見つめていた。

  阿求「妖怪…でしょうか?」

  九月「危ない妖怪かもしれない。気を付けながら行こう」

握り合っている手に力を入れ、一歩ずつ少女との距離を近づける。

  パルスィ「…何よ。仲が良いのを見せつけてるつもり?」

  九月「え、いや、そんなつもりは」

  パルスィ「いいや、今私をジッと見ながら歩いてたでしょ?どうせ『お前みたいな一人ぼっちと違って俺達はこんなにラブラブだぜ』って思ってたに違いないわ、妬ましい、妬ましい…!」

どこから取り出したのか黄色いハンカチを両手で握りしめ端をギリギリと噛みながら、緑色の目に涙を浮かべて、自分達に恨みでもあるかのように「妬ましい」と呟き、背後の憎悪の念をユラユラと出現させる少女。

  九月「阿求、これはマズイっ!」

阿求をお姫様抱っこして一気に橋を突き抜ける。

  パルスィ「待てえぇ!逃がさないわよ!突然逃げるなんて妬ましいわ!」

後ろから全速力で追いかけてくる少女に、自分も必至で逃げる。捕まったら何をされるかわからないので怖くて仕方がない。それに阿求を危険な目に合わせるわけにもいかない。

そんな時、前に誰か立っているのが見えた。人影だけだが、額に角らしきものが生えているのを確認してから、人間じゃないことを確信する。

  勇儀「パルスィー!一緒に飲もうー!」

体操着っぽい上着に、赤色のスカートを穿いた女性は、酒瓶と赤く大きな杯を持っている。顔が赤いことから、酔っているのだろう。

  パルスィ「ゆ、勇儀…」

追いかけてきていた足取りは急に弱まり、その場で立ち止まる。

  勇儀「どうしたんだ?てか、そこに居る二人は…」

  阿求「あ、えっと、初めまして」

  勇儀「ここじゃ見ない顔だな。私は鬼の四天王の一人」

  九月「鬼!?」

  勇儀「?」

  阿求「そういえば、前に九月さん、青鬼と戦ったことがありましたね」

  九月「あの時は、本当に危なかったよ…。死ぬかと思った」

  勇儀「青鬼…そいつ、背がこのくらいで二本角じゃなかったか?」

勇儀が片手をあげ、身長を示す。2m程の高さまで上げているので、自分が戦った青鬼に違いない。

  九月「そう、そのくらいの…。結局、角を斬って倒したけど」

  勇儀「アイツは人間嫌いだったからな~。まぁ、死んじゃったのは…悲しいかな」

寂しげな表情を見せる勇儀に、申し訳なく感じていると後ろからパルスィと呼ばれた少女に肩を掴まれる。

  パルスィ「追いついたわよ…」

  九月「やばっ…」

  勇儀「おいおい、あんまり嫉妬するな。こいつ等は…まぁ悪い奴らには見えないし、用事があってここにいるんだろう」

  阿求「そうなんです」



阿求は今までの事を全て勇儀と、九月を睨みつけているパルスィに話した。それに納得した様子で勇儀が頷く。

  勇儀「なるほど…じゃあ、今夜泊まれる場所まで連れてってやる。ついてきな、あとパルスィも」

  パルスィ「わ、わかってるわよ…」

何故か顔を赤くしながら後ろからついてくるパルスィ。それを見つめる阿求が一言。

  阿求「勇儀さんに惚れてるんですか?」

  パルスィ「ち、違うわ!だって勇儀女じゃない!女が女好きになったってしょうがないでしょ!?」

  九月(わっかりやすい~)


橋から少し離れた場所にある、目的地である繁華街のような大通り。多くの妖怪達が

勇儀に連れられて来た一件の借家。そこに泊まらせてくれるとのことで、それに甘えて部屋に入り込み、荷物を置いて一息つく。

  九月「ふぅ~。やっとここまでついたね」

  阿求「そうですね。九月さん、お疲れ様です」

  九月「うん。それにしても…地底ってちょっと暑いね…。温度高いような気がする」

胸元をパタパタと仰いで風を送り込むが、そんなに意味を成していない。

  阿求「そういえば、さっき勇儀さんが、この近くに温泉があるって言ってました。行ってみましょう」

  九月「そうだね。じゃあ早速」

阿求と借家を出て徒歩5分。温泉らしき湯気が立ち上る場所が見えてきた。かなり広いらしく、広範囲に渡ってユラユラと湯気が見えている。

  阿求「あそこですね。楽しみです。旅行みたいですよ」

  九月「自分はデートとも思えるな~」

  阿求「え…あ、はい。確かにそうですね」

俯いて突然大人しくなる阿求。何か余計な事を言ってしまっただろうか。女性の心は難しい。


銭湯の暖簾をくぐると、番台に一つ目の妖怪が居座っている。他の妖怪達と楽しそうに話しているのを見て驚き、こんな所も妖怪が営んでいるのかとつい後ずさりしてしまう。

  番台の妖怪「ん?お、人間のお客かい、いらっしゃい。珍しいね」

薄緑色の肌は確かに妖怪だが、敵意は無さそうだ。

  九月「ここは、妖怪が多いんだな」

  番台の妖怪「まぁね。人間なんてそうそう居ないよ。かと言って、俺達が襲ったりしてるわけでもないけどな。ここは妖怪の楽園だよ」

  阿求「と、言いますと…」

  番台の妖怪「ここは旧地獄街って言ってな。外の妖怪や人間からも嫌われた妖怪達が住んでるんだ。だから、外からは分かりにくい場所に入口があるし、人が来るなんてそうそうないんだ」

  阿求「そうなのですか…」

  番台の妖怪「まっ、嬢ちゃん達に恨みは無いし、客ってんならおもてなしするぜ。ちなみに、ここの風呂は混浴だが…大丈夫かい?」

  阿求「こ!こ、ここ…混浴…ですか…」

  九月「混浴…」

  阿求「へ、変な事考えないでください!」

  九月「してないよ!?」

  番台の妖怪「安心しな。今は丁度、常連客も上がってる頃だ。お二人でゆっくり楽しめるよ。アンタたちは今回が初めてってことだから、料金の方はタダにしていてやるぜ?」

  阿求「そういうことじゃ…」

番台の妖怪に背を向け、顔を近付けて小さな声で話してみた。

  九月「でも、ここで別の場所に行くなんて言ったらちょっと失礼じゃない?」

  阿求「…見たいんですか九月さん?」

  九月「え?いやそう言うわけじゃないんだけど、あの妖怪に失礼かな~って」

  阿求「そんな事言って」

  九月「まぁまぁまぁ、ね?大丈夫。見えそうになったら俺目隠すからさ」

  阿求「本当ですか…?それなら…」



番台の横にある入口を通り、脱衣所に入る。

  阿求「見ないでくださいね?」

  九月「大丈夫、見てないから…」

背を向けあって服を脱ぐ。お互いに恥ずかしいのか、せわしなく服を畳んで籠に入れる。

  九月「あ、そういえば阿求」

そう言って振り返った途端。「しまった」と、その行動を後悔した。

タオルを持ち上げようとしている阿求。その露わになった肌を凝視してしまっているのを阿求に見られてしまった。

  阿求「く…九月さん…!」

  九月「ゴメン!」

急いでタオルと桶を持って浴場に走りこむ。後ろから「馬鹿ー!」と声が聞こえ、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。


湯を被り、風呂に入った自分の後に、不機嫌そうにそっぽを向いて阿求が入ってきた。

  九月「あの…」

  阿求「話しかけないでください。九月さんなんか嫌いですっ」

プイッと背を向けられてしまった。余計に謝り辛い…。その時、奥でクスクスと笑い声が聞こえ来た。二人が視線をそちらにやると、ピンクの髪をした一人の少女が湯に浸かりながらこちらを見て笑っている。

  少女「ふふふ…面白い人たちね」

ゆっくりと近寄ってくる少女に、不思議な恐怖心を感じた。まるで、自分の全部が、いろんな方向から見られているような感覚。思わず辺りを見回してしまう。阿求も同じようで、心配した表情で自分と距離を縮める。

今は喧嘩をしている場合じゃない。言葉を交わさなくても意思疎通できた。危ない…。

  少女「ふふふ、『危ない』ですって…そうね。確かに危ないかもね」

  九月(!?  どういうことだ。何が危ないんだ?!)

  少女「どういうことって、貴方が思ったんでしょ?『危ない』って…」

  阿求「あの…貴方は」

  少女「『怖い』『何かあったら九月さんが助けてくれる』『何も起こらないで』…。心配症ね。それに、彼に頼りっぱなしじゃない」

  阿求「え…」

  九月「ちょっと、お前は誰なんだ!どういう事だ。さっきから何を」

威嚇するように言う九月の言葉を遮って、不敵に笑う少女。その不気味さに、湯に浸かっているにも関わらず、二人の背筋は氷そうな程冷たく感じられている。

  少女「うふふふふ…『なんだコイツ』ですって。失礼ね。私は地霊殿の主。古明地さとりよ。ご存じないかしら?」

  阿求「あ、貴方が地霊殿の主!?」

  さとり「そこの貴方、失礼よ。『こんな子供に』だなんて…。私は妖怪なの、貴方よりも断然年上だし、力だってある。それを弁えなさい」

  九月「あ、ああ…」

間違いない。「さとり」。彼女は、あのさとりだ。人の心を読んで、他人を弄ぶ妖怪。しかし、自分が読んだ本の絵とは全く違う姿をしている。自分が見たさとりの絵は、体が赤い毛に覆われた猿の妖怪だった筈。なのに、さとりを名乗る彼女はただの女の子にしか見えない…。

  さとり「さっきから何?人を変な姿で想像しないでくれる?」

  阿求「九月さん、また変な想像してたんですか?!」

  九月「あ、いや違う!俺が読んだ本のやつと姿が違うから」

  さとり「ふふ、彼。私の裸を想像してたわよ?不純ね…」

  阿求「九月さん…!!」

それは嘘だ!しかし、今さらそんなことを嘘だと言っても意味はないだろう。怒りに震える阿求。それを横で見ているだけのさとり。

  九月「阿求、コイツは今嘘をついたんだ。俺はそんなこと思ってない!」

必死に説得をしようとして、阿求に近寄るが、全力でビンタを食らって湯の中に倒れこむ。

  阿求「私もう上がります!お二人でごゆっくり!」

  九月「ぷはぁ!あ、え、ちょっと!阿求!待って!」

自分が止めようと手を伸ばした時。その手はいつの間にか真横に来ていた少女に止められる。

  さとり「折角のお風呂、一緒に楽しみましょ?」

その姿を見た阿求はフルフルと小さく震え、近くにあった桶を自分に投げつけてあがって行った。桶は見事命中し、浴槽に情けなく浮かぶ自分の姿がそこにはあった。

  さとり「嫌われたわね」

  九月「誰のせいだよ…てか、あんなことして何がしたかったんだ。まさか、本当に俺と阿求の仲を裂くのが目的じゃ…」

  さとり「そうかもしれないわね…私は嫌われているもの。貴方も嫌われた。嫌われた者同士。仲良くしましょう?」

  九月「…」

  さとり「『阿求は、本気で自分を嫌ってない』…そうね。彼女の心もそうだったわ。『私は何をしていの?九月さんに謝らないと』って、出ていく時に思ってた。けど、私が居たから素直になれなかった…」

  九月「そうだな。俺が謝りに行ってくる。そんでお前の事も話してくる」

そういって立ち上がった瞬間、さとりに腕を掴まれ、足を滑らせてまたも湯にダイブするように倒れこんでしまう。

  九月「なにすんだよ…!」

  さとり「言ったでしょ?一緒に楽しみましょうって」

  九月「お前なんかと楽しめるか」

  さとり「酷いわ…」

  九月「酷くて結構だ」

タオルを腰に巻いて、次こそ上がろうと湯から上がり、脱衣所に向かう。その時、さとりが言った。

  さとり「貴方達、死ぬかもしれないのに…」

  九月「…何?」

  さとり「死ぬかもしれないって言ったの。あの子も、貴方も…」

その言葉の意味は分からなかった。しかし、その言葉のせいで、ここで何かよからぬ出来事が起きようとしているのが、薄らと分かったようか気がした…。

さとりから危機を告げられた九月は阿求を追って走る。その時、地底に大量の鬼が現れた。旧地獄街が騒然とする。急げ九月!


次回、夢からの守り人『死闘、鬼の襲撃』


次も暇つぶし程度に見てください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ