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『魔女の置き土産』--魔女と呼ばれた聖女の遺産を、弟子の俺がすべて破壊する物語  作者: キョウ


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第4話 願いの残骸

森を抜ける帰り道。


西日が木々の隙間から斜めに差し込み、三人の影を長く引き伸ばしていた。


アナの指先は、まだわずかに震えている。

握っていた剣の感触が、掌に残って離れない。


「さっきの……すごかったです」


「普通」


即答だった。


「普通じゃないです!」


(普通じゃないよ)


シグレが小さく笑う。


アナは迷いながら、言葉を選ぶ。


「さっきの斧……暴走型って言ってましたよね」


「ああ」


「本物の魔装は、もっと強いんですか?」


「強い」


短い返答。


だがユキは、わずかに視線を落とし、言葉を足した。


「その中でも《魔女の置き土産》は格が違う」


木漏れ日が揺れる。


「魔装は持ち主の力を増幅する道具だ。だが――」


わずかな沈黙。


「《魔女の置き土産》は、持ち主の心を映す」


アナが息を呑む。


(あれはね)


シグレの声は穏やかだった。


(持つ人の“願い”を拾うの)


ユキは目を細める。


「願いを叶える形に変わることもある。だから強い」


そして、ほんの少しだけ声を落とした。


「だが同時に――持ち主次第で、どこまでも歪む」


風が吹き抜け、落ち葉が足元をかすめる。


アナの胸がざわついた。


「でも、それって……武器じゃないんですか?」


ユキは少し考え、静かに答えた。


「願いの残骸だ」


森の空気が、わずかに澄む。


「だから普通の魔装とは比べるな」


断言というより、線を引くような声音だった。


アナは息を整え、もう一歩踏み込む。


「作ったのは……“魔女セレスティア”なんですよね」


一瞬、森の音が遠のいた気がした。


ユキは前を向いたまま言う。


「聖女だ」


その声は、揺れない。


「俺にとっては」


夕陽が横顔を照らす。


長く伸びた影が、足元で交わる。


「でも、魔女セレスティアは、戦争を起こしたって……」


「武器は道具だ」


間を置かず、続ける。


「使ったのは人間だ」


森がざわめく。


その言葉を、受け止めるかのように。


「セラはいつも、人のためを思って作っていた」


名を呼ぶ声音に迷いはない。


アナは気づく。


この人は、世界と違う景色を見ている。


沈黙が落ちる。


遠くで鳥が羽ばたいた。


「じゃあ……どうして壊すんですか?」


ユキの足が止まる。


ほんの一瞬だけ。


シグレも、息を潜める。


夕陽が三人を橙色に染める。


「……セラが望んだからだ」


空気が変わる。


「もし、この力が誰かを守れなくなった時は」


「全部、消してくれって」


穏やかな声だった。


だが、その奥には揺るがない決意がある。


(約束、だもんね)


シグレがそっと添える。


ユキは前を見る。


森の出口。


街の門。


帰る場所。


「それが、聖女セレスティアの弟子である俺の仕事だ」


夕陽が沈みかける。


影が溶け、色が深まる。


門が見えた瞬間。


ユキは小さく言った。


「俺が終わらせる」


振り返らない。


誇らない。


ただ、歩く。


アナは胸の奥が締めつけられるのを感じた。


シグレは何も言わない。


空だけが赤く染まっていた。


それは血の色にも、祈りの色にも見えた。


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