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『魔女の置き土産』ーー魔女と呼ばれた聖女の遺産を、弟子の俺がすべて破壊する  作者: キョウ
第4章 幽霊屋敷

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第43話 ギルドへの帰還

「さあ、出発だ」


サイカの声で、王都の朝が動き出す。


昨日、アイファの服を買ったあと、ユキたちは宿へ戻り、そのまま解散し、各々休息を取った。


一晩明けた朝、王都の空はよく晴れている。


王都での任務は終わり、ほんの少しの暇も過ごした。そんなユキたちに残されたのは、ギルドへ戻ることだけだ。


宿の前には、すでに馬車が用意され、サイカは御者と短く言葉を交わし、荷物の確認をしている。


アナはまだ眠そうに目元を擦りながらも、犬耳をぴんと立てている。


「ひゃっ……シグレさん、やめてください……」


そんなアナの横で、シグレが犬耳をつんつんと指で突いている。


「眠そうだったから、起こしてあげようと思って」


「起きてます!」


そんなやり取りを他所に、アイファは昨日買った灰色の服に身を包んで、何度か自分の袖口を確かめるように指で触れていた。


「まだ慣れないか」


ユキが声をかけると、アイファはわずかに視線を下げる。


「慣れない」


「動きづらいか?」


「いや。動きやすい。だから、変だ」


「なんだそれ」


アナがぱっと笑う。


「これからですよ、アイファさん! たくさん着れば、きっとアイファさんの服になります!」


「……そういうものか」


「そういうものです!」


アイファは納得したのかしていないのか分からない顔で、こくりと頷く。


シグレがにやにやと笑う。


「よかったね、ユキ。朝から女の子の服をじろじろ見られて」


「見てない」


「見てたよ」


サイカが呆れたように息を吐いた。


「朝から騒がしいな。乗れ。ギルドへ戻るぞ」



馬車に乗り込み、一刻ほど経った頃。

ユキは思い出したように、はっと顔を上げる。


「アイファ」


ユキが声をかけると、長い耳がわずかに動く。


「……なんだ」


「ギルドに着いたら、余計なことは言うなよ」


「余計なこととは」


「元敵だとか、弟の復讐だとか、魔女の福音を壊すとか、そういうやつだ」


アイファは少し考える。


「事実だ」


「だから言うなって言ってる」


「難しいな」


「難しくない」


「私は嘘が得意ではない」


「本当のことを全部言うのは、嘘が下手なのとは違う」


シグレが横から口を挟む。


「大丈夫だよ。アイファは自己紹介で『ユキの友達です』って言えばいいから」


「……友達」


アイファが真顔で繰り返す。


ユキは嫌な予感がして、眉間を押さえる。


「それも言わなくていい」


「なぜだ。前に、そう決まった」


「決まってない」


「決まったよ、ユキ」


「シグレ、お前は黙ってろ」


アナが小さく笑う。

馬車の中に、穏やかな空気が戻った。


こうしてユキたちは、ギルドへの帰路を進んでいった。



やがて馬車は、見慣れた街の外れへ入る。

アナが窓の外を見て、ぱっと犬耳を立てた。


「帰ってきましたね!」


「ああ」


ユキは短く返し、窓の外へ目を向ける。


街の中央通りを抜け、馬車が一軒の大きな建物の前で止まった。


冒険者ギルド《灯守の会》。


年季の入った木造の壁に、何度も修理された跡があり、入口の上には小さな灯火を両手で包む意匠の看板が掲げられている。


世界を照らす巨大な光ではなく、消えかけた灯を守る場所。

その名前の通りの、少し古く、少し温かい建物だった。


ユキたちが中へ入ると、すぐにいつもの喧騒が耳に届いた。


王都の高級宿より、よほど落ち着く。


そう思った自分に、ユキは少しだけ呆れた。


「あっ!」


受付にいたリーナが、ぱっと顔を上げる。


「お帰りなさいませ、ユキさん、アナさん、サイカさん!」


「ただいまです!」


アナが元気よく返し、サイカも軽く手を上げる。


「今戻った」


「お疲れさまでした。王都の護衛任務、大変だったと聞いています。お怪我は……」


リーナの視線が、そこで止まる。


ユキでも、アナでも、サイカでもない。


その後ろに立つ、褐色の肌と銀灰の髪を持つダークエルフの女を見て、リーナは数回まばたきをした。


「……えっと、その方は?」


ユキは短く答えた。


「増えた」


「何がですか」


「仲間が」


「説明が少なすぎます」


もっともな抗議だった。


アイファは一歩前に出る。表情はほとんど変わらないが、わずかに緊張しているのが耳の動きで分かる。


「アイファだ」


「アイファさん、ですね。私は受付のリーナです。よろしくお願いします」


リーナが丁寧に頭を下げる。


アイファは少し遅れて、ぎこちなく頭を下げる。


「……よろしく頼む。」


「……私は、ユキの友達だ」


ユキが固まった。


アナがぱっと笑顔になる。


シグレは口元を押さえて肩を震わせている。


リーナは一瞬だけ意味を考えたあと、にこりと笑った。


「そうなんですね。ユキさんのお友達が増えるのは、良いことだと思います」


「違う」


「違うのですか?」


「……違わなくはないが、そういう言い方をするな」


「ややこしいですね」


受付嬢として完璧な笑顔で、リーナは容赦なく言った。


その時、奥のテーブルから聞き慣れた声が飛んでくる。


「お、帰ってきたか!」


アッシュだった。


片手に木のジョッキを持ったまま近づいてきた彼は、ユキたちを見て、次にアイファを見て、露骨に目を丸くした。


「誰だ、その美人」


「元敵だ」


「なんで元敵を連れて帰ってきてんだよ!?」


想定通りの反応だ。


アッシュはアイファを上から下まで見てから、ユキに詰め寄る。


「お前、王女の護衛に行って、なんで女を増やして帰ってくるんだ」


「拾った」


「拾ったで済むか!」


「済ませる」


「済ませるな!」


アイファが首を傾げる。


「私は拾われたのか」


「違うから気にしなくていいです!」


アナが慌ててフォローする。


シグレは完全に面白がっていた。


「ユキ、よかったね。ギルドでも友達認定されそうだよ」


「黙れ」


「照れなくてもいいのに」


「照れてない」


ギルド内の冒険者たちも、ちらちらとこちらを見ている。

その騒ぎを切るように、リーナが咳払いをした。


「皆さん、すみません。サイカさん、ギルドマスターがお呼びです。王女殿下の護衛任務について、報告を聞きたいとのことです」


サイカの表情が少し引き締まる。


王都での任務は、まだ完全には終わっていない。

それを思い出させるように、リーナの視線はギルドの奥へ向けられていた。

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