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『魔女の置き土産』--魔女と呼ばれた聖女の遺産を、弟子の俺がすべて破壊する物語  作者: キョウ


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第10話 歪んだ願い

月が森を白く照らしている。


森の外れにはすでに青年が立っていた。その隣には、静かに佇む彼女の姿。


首元には小さな銀のペンダント。

埋め込まれた青い石が、ゆっくりと脈打つように光を放っている。


「……来たか」


低く押し殺した声だった。


ユキは距離を保ったまま、視線を首元へ向ける。


「それを、どこで手に入れた」


青年の指が、無意識にペンダントへ触れる。


「行商人だ」


アナが眉をひそめた。


「行商人……?」


青年は小さく鼻で笑う。


「怪しい奴だったさ。でもな、俺には分かった」


視線が、わずかに熱を帯びる。


「本物だってな」


ユキの目が細くなる。


「何を言われた」


青年は一瞬、視線を逸らす。


「“願いを叶える品だ”って」


「“触れて念じろ”ってな」


苦い笑いが漏れる。


「最初は信じなかった。だが、どうすれば良かった?」


彼女は動けない。

医者は首を振った。

希望はないと言われた。


だから――


「俺は買った」


声が低く沈む。


「有り金全部渡した。借金もした」


ペンダントを握る。


青い光が、わずかに強くなる。


「これを握って願ったんだ」


「もう一度だけ、立ってくれって」


女性の足が、ゆっくりと動く。


ぎこちなく、それでも確実に青年の方へ寄っていく。


「立ったんだ」


声が震える。


「俺の方に歩いた」


アナは息を呑む。


ユキは、糸を見る。


首元から伸びる光。

青年の手へと繋がる線。

そこからさらに広がる、濃い気配。


(最初から仕組まれてる)


シグレが低く告げる。


ユキは問いを重ねる。


「それから」


青年は視線を落とした。


「……村のじいさんが倒れた。腰をやって、動けなくなった」


声がわずかに揺れる。


「じいさんは悲しんでいた」


「だから俺は、じいさんに触れた」


短い沈黙。


「彼女と同じ様に、じいさんも動けた」


月光の中で、糸がきらりと揺れる。


「みんな喜んだ。奇跡だって」


青年の瞳が揺らぐ。


「俺は間違ってない。助けてるだけだ」


女性の瞳は虚ろなまま。

瞬きも遅い。


ユキは低く言う。


「最初から、神経は戻ってない」


青年の呼吸が止まる。


「黙れ」


「分かってるだろ。それは、動かしているだけだ。」


その瞬間、青年の指が強くペンダントを握りしめた。


青い光が脈打つ。


「分かってる!」


叫びだった。


初めて、取り繕わない声。


「でも立ってる!」


「動いてる!」


「俺の隣にいる!」


糸が強く張り詰める。


森の奥で、気配が動いた。


「もう一度動けなくなるくらいなら……」


声が震える。


「操ってでもいい!」


夜が軋む。


アナが震えながら言う。


「それは……」


ユキが一歩、前に出る。


「無意味だ」


断言ではなく、事実のように。


青年の目が赤くなる。


「お前に何が分かる!!」


「トモエ、魔装顕現!!」


ペンダントが強く輝いた。


青い光が爆ぜ、糸が一斉に広がる。


森の奥から足音が響く。


一つではない。


十、二十、それ以上。


月光の中に、村人たちが現れる。


目は虚ろ。


首元に、同じ淡い光。


糸が彼らを繋ぎ、束ねている。


額に汗を滲ませながらも、青年はペンダントを握り続けた。


「奪わせない!」


叫びと同時に、村人たちが一斉に踏み出す。


土が鳴り、圧が夜を満たす。


アナが剣を握る。


「こんなの……!」


斬れない。


相手は村人だ。


傷つけることはできない。


ユキは静かに刀を抜いた。


月光を受けた刃が、白く光る。


「シグレ」


(うん)


「魔装顕現」


黒い魔力が広がる。


青い光と、正面からぶつかる。


夜が軋み、糸が張り詰める。


青年は叫ぶ。


「これは奇跡だ!」


「俺の……俺たちの!」


女性の身体が、ぎこちなく一歩前へ出る。


虚ろな瞳。


だが確かに、ユキを見ている。


ユキはその姿を見つめ、低く言った。


「……そいつは」


一歩、前に出る。


黒い光が足元から静かに広がる。


「お前が持つべきモノじゃない」


怒鳴りではない。


断罪でもない。


ただ、揺るがない確信。


青年の瞳が揺れ、糸が震える。


次の瞬間――

村人たちが一斉に踏み出す。

青い糸が、夜を裂いた。

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