第310話
「謝らないで! こうしてまた会えたんだもん! 今はそれだけですっごく嬉しい!」
「きゅるちゃん……うん! そうだね」
「ママ……あのね、司おにいちゃんがきゅるの事助けてくれたんだよ! それにね! それにね! 司おにいちゃんが言ってたの! きゅる、すっごく頑張ったんだって! あとあと……」
話したい事が山のようにあるのだろう。安心感と喜びも相まって、このままでは夜明けまで喋り続ける事を察したテトラは微笑みながら優しく声を掛ける。
「ちょっと待って。その続きはお家に帰ってからにしよ? きっと今のきゅるちゃん、自分が思ってる以上に疲れてると思うの。それにお腹も空いてるでしょ? 一緒にお風呂に入って、一緒にご飯食べて、一緒に寝よ? その時に色んなお話しよ? ね?」
その言葉にキュルキオネの瞳がパァッと輝いた。
「本当!? きゅる、ママの作ったご飯食べたい!」
「ふふ。それじゃあ今日はご馳走作っちゃおっかな」
「やったー!」
2人のそんな光景とやり取りを見て司はキュルキオネを救えて本当に良かったと安堵の気持ちで満たされた。
どこかで歯車が狂っていたらこの幸せな結末は迎えられなかったのかも知れない。
司が微笑みを浮かべているとキュルキオネは何かを思い出したかのように「あ」と口にすると、ようやくテトラから離れる。そしてクルッと振り返ってから手をフリフリと大きく振って司の事を呼んだ。
「司おにいちゃん! そんな所に立ってないでこっちに来てよー!」
「うん!」
キュルキオネの可愛さ、眩しさを知っているからこそ暴走状態の彼女は見ていてとても辛いものがあった。表情も声も雰囲気も、何もかもが別人になってしまったあの状態は、悪夢としか言いようがない。
「司くん……」
2人の側まで歩き立ち止まった司を見たテトラは彼の名前を呼ぶ。再会した時は状況が状況なだけあって落ち着いた会話や思い出話ができる状態では無かったが今は違う。
脅威は全て消え去ったのだ。エマが界庭羅船から脱退し、損得だけの関係ではあるが仲間にする事ができた。シャックスに誘拐され、來冥力の暴走まで引き起こしたキュルキオネを助け出す事ができた。
まさに円満解決と言ったところだろう。ゲーテにこれ以上の策のようなものや別計画は存在せず、彼の後ろ盾となっているクオリネに関しても今この瞬間においては脅威にはならない事を司は知っている。
ようやくできた落ち着ける時間。こうして向かい合うと、お互い数年振りの再会に対する喜びが込み上げてくるはずだ。
「ありがとう、司くん。きゅるちゃんの事……もう何てお礼を言ったら良いか……」
「僕だってキュルキオネを助けたい気持ちは同じだったんだ。だからその気持ちに従った行動を起こしただけだよ。だから彼女を救う事ができて、僕も本当に嬉しい」
「司くん……。何と言うか……本当に強くなったし、頼もしくなったね」
「……この数年間、僕は妹を殺した奴の逮捕と同じくらい、ずっとある事を目標にして頑張ったんだ。……テトラたちに、WPUに少しでも近付きたいって……」
「ふふ、そっか。次に会った時はお互い成長した姿を見せ合う……だったよね? もう、成長し過ぎだよ司くんは。別人レベルで大人になってる!」
「そ、そうかな?」
「あ! でも今の顔ちょっとあの時の司くんの面影ある! ふふ、懐かしいなぁ」
「そう言うテトラは……うん。変わってないね。見た目に関して言えば」
「う。こ、これでも18歳になったんだからね! えっと、もう大人なんだよ! 全然変わってないって事は無いでしょ!」
「会話の時に『えっと』って言っちゃう口癖も変わってないね」
「嘘!? 私そんな口癖あるの!?」
「気付いてなかったんだ。まぁテトラらしいと言えばテトラらしいか」
「何か恥ずかしい……えっと、どうすれば、あ、ホントだ、言っちゃってる……!」
「ふっ……」
「もう! 笑わないでよ!」
頬を赤らめながら照れるテトラ。まるで今この場には2人しか居ないかのような空気感だ。だがそんな空気を出せるのは司たちが勝利した証拠なのかも知れない。




