第309話
テトラは居たたまれない気持ちが最高潮に達してしまった。
戦闘時では互いを認め合い、息の合った共闘をしていたレギュラオンとエマだが、こうして非戦闘の時間に戻ってしまえば仲の悪さと言うか相性が良くない事が露呈する。
ただケンカするだけなら構わないが生きた心地がしない時間を過ごしている状況下で空気まで悪くなってしまったら堪ったものではないだろう。
テトラがなるべく聞かないフリを続けるも2人の口ゲンカはヒートアップしていく。
エマもレギュラオンもどこにそんな体力があるのか不思議だ。特にレギュラオンに関しては今も顔を抑えたまま血を流しているが、舌だけは変わらず回っているところを見ると実は全然余力があるのではと思えてくる。
「ふん。我々の傘下に入りたいと思うのなら、まずは口の利き方から教えねばならんようだな」
「さ!? 言うに事欠いて傘下ぁ!? 冗談じゃないわよ! 何であたしがあんたらの下につくみたいな流れになってんのよ! あたしは自分より雑魚な奴らに下手に出るつもりはないからね!」
「行く当てのない不良少女であるお前を拾ってやる上に、お前の復讐に協力してやるのだぞ? 界庭羅船の関係者を迎え入れるだけでも拒絶反応を示す者が多い事が予想される中で横柄な態度を取るつもりか? ……どうやら本気で私の教育を受けたいようだな」
「ハッ! なーにが教育よ! 恐怖を植え付ける事しかできないあんたに、まともな教育ができる訳……」
「ストーップ! 2人ともそこまで! こうしてる間にも司くんがきゅるちゃんを救う為に必死になって戦っているのに、待ってる私たちがケンカなんかしてちゃ……」
これ以上は見ていられないし聞きたくもなかったテトラは意を決して仲裁に入る。
「「お前は黙ってろ・あんたは黙ってなさい!」」
変な所で息の合った2人は同時にテトラを睨む。
「 (ひ、酷いよ、もう……) 」
どうしてこんな目に遭わなければならないのか。
テトラが理不尽さに嘆いていた、まさにその時である。
「な……っ……!」
完全に蚊帳の外だったゲーテが驚きの声を上げた事で全員の意識がそちら側に逸れる。
「なに……? って、あ……あ……ああ……!」
テトラが視線を向けたその先に見えた光景。それはずっと彼女が待ち望んでいた光景であったのだ。
「ふん。待ちくたびれたぞ」
「あんたねぇ、こんな時ぐらい素直によくやったなって褒めてあげなさいよ」
「つ、つ……」
テトラは自分で制御できないレベルで勝手に溢れ出る涙を抑えようと両手で顔を抑えるが、それだけでは涙が止まってくれない。
やがてテトラは大きな声で視線の先に居る2人の名前を呼んだ。
「司くん! きゅるちゃん!」
そこには笑顔の司とキュルキオネが居たのだ。2人とも目立った外傷はなくピンピンとしている。まるで戦いなんて初めから無かったみたいであった。
「ただいまテトラ。約束守れたよ。ほら、キュルキオネ」
司はキュルキオネに目配せすると、キュルキオネはテトラを見つけたようで心の底から喜びの声を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「あー! ママだー!」
やがてキュルキオネはまるでテトラ以外が見えていないかのように全力で彼女の元へと駆け出し、正面から抱き着いた。
「ママ! ママ! 会いたかった……きゅる、ずっとずっと、ママに会いたかった……」
テトラの温もりや匂い、抱き着いた時の感触、キュルキオネが欲していたものの全てがそこにあったのだろう。最初こそ笑顔で抱き着いた彼女は次第に我慢していた感情が爆発したかのように、堪え切れないように涙を流した。
「うん……うん……! 私も! ずっと会いたかったよ。助けるのが遅くなって、怖い思いさせちゃって、本当にごめんね……」
自分の未熟さを痛感したテトラはキュルキオネを危険な目に遭わせてしまった事に対して大きな負い目を感じていた。
しかし後悔や自責だけでは前に進めない。大切なのは同じ悲劇を繰り返さない事だ。




