第304話
「キュルキオネ……今の君に1番必要なもの、今君が1番求めているもの……それは、安心感だよね」
「うああ……あああ、あ……つかさ……おにい……あ、あ、あ、あああ……っ……!」
司が与える温かさと安らぎは、これまでキュルキオネを縛り付けていた鎖を1本ずつ断ち切っていくかのような感覚を彼女に与えた。
次第にキュルキオネは頭を押さえていた手を離すと、その手を司の背中に回し、彼の服を握り締める。
「君が落ち着くまで僕はずっと側に居るし、絶対に離れない。君の痛みも苦しみも不安も全部僕が受け止める。キュルキオネ……僕を信じてくれ。僕を信じて、君を苦しめている來冥力……それを全部吐き出して欲しい」
「うっ……ひっく……ううぅ……つ、か、さ、おにい、ちゃん……うあ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
意識を若干取り戻したキュルキオネは本能に従って來冥力の解放を試みる。
來冥力の暴走を引き起こしている今、本来ならばできない事であるが苦しみから解放されたい気持ちと司への安心感が相乗効果を生み、支配力が低下していた事も相まって見事打ち勝ったのだ。
恐らく史上初の現象であり、氷雨のような研究者が見れば目を輝かせて貴重なデータと捉える事だろう。だがそんな事2人にしてみれば知った事ではない。奇跡だろうと例外だろうと、この苦しみが消滅するなら何だって良い。
そんな思いでキュルキオネは全力で來冥力を解き放ち、司はその來冥力を体が密着した状態で受け止めた。
キュルキオネの体から発せられた紫色の光が全て彼女の來冥力を光として可視化したものなのであれば、司の体は彼女の來冥力に包まれている状況となる。
必然、未だ暴走扱いとなっている來冥力であるが故に、高い攻撃性を含んだそれを全身に浴び続ける事になった司は地獄の苦しみを味わう事になってしまった。
「うぐぅ……っ……! (やばい……少しでも気を抜くと……一瞬で気絶しそうだ……! こんな苦痛に、彼女は耐えていたのか? いや、実際はもっと來冥力の量が多かったはずだから、これ以上の……!) 」
拷問なんて比ではない、意識が吹き飛びそうな激痛が全身に広がったのだ。
刀で斬り付けられ、刃物で串刺しにされ、金砕棒で殴られ、熱した焼印で肉を焼かれ、そんなありとあらゆる痛みが同時に襲い掛かってくるかのような感じだ。
司は今支配力が低下した状態でこの來冥力を受けているが、完全に支配されていた状態のキュルキオネは何倍もの苦痛を経験していたのだろう。
そう考えた司はこの程度で倒れる訳にはいかないと自分に活を入れる。
「辛かったよね、キュルキオネ……でも……うぐ……もう、大丈夫だから! あと少しの辛抱だから!」
こうしている間にもキュルキオネの來冥力は放出され続けている。恐らくあと少しで底をつくはずだ。
「……キュルキオネ。僕さ、結局君とはよく知らずに別れちゃったでしょ? 容態が落ち着いたら、色んな話を君としたいな。何だったらアルカナ・ヘヴンに遊びに来なよ。会わせたい友達だって居るんだ」
「ああああ! ああああああ!」
「遊園地に遊びに行く? そうだ、ケーキバイキングとかもありだよね。君が行きたいと思った場所だったら、どこにだって連れて行くよ。たくさん遊ぼう……きっと楽しい思い出をいっぱい作れるはずだから……! だから……頑張れ! キュルキオネ! 自分の來冥力に、負けちゃダメだッ!」
司はキュルキオネを抱き締める手に力を込める。するとキュルキオネもまた抱き締め返す手に力を込めた。
「ああああ……ああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
「――――――――――ッ!」
間違いなく今日1番の叫び声を轟かせたキュルキオネの解放來冥力はより勢いと攻撃性を高め、体外に放出される。それはつまり司を蝕む力も増すという事に他ならない。
「 (ぐぅっ! 耐えろ、耐えるんだ……! キュルキオネはこの何倍もの苦痛に耐えている……。僕が先にダウンする訳にはいかない! それに、約束したじゃないか……キュルキオネの事を……絶対に……助ける……って……ああ、まずい……意識が……遠のいてきた……まだ、倒れる訳には、いかないの、に……) 」




