第301話
真っ向から否定すべきか、否定するとしたらどんな言葉を投げ掛けるべきか、そんな事を考えている内にテトラがゲーテに追い打ちをかけた。
「ゲーテ。あなたがどんなに言葉を並べようと、どんなに常識を語ろうと、それでも私は信じてる! 司くんはきゅるちゃんを救えるって! だって、司くんは……」
司が今の時代にとってどんな來冥者なのか。テトラは彼を表現する最も適切な言葉をゲーテに伝えた。
「司くんは……新時代の黎明を告げる存在なんだから!」
黎明。夜明けや明け方を意味したその言葉は、転じて新しい文化、技術、時代が始まろうとする時期を指す。特にそんな時期を黎明期などと言ったりもする。
今の世界において新時代とは界庭羅船の時代を塗り替える、反撃の時代を指す。そして司はそんな新時代の黎明を告げる存在と呼ぶに相応しいのかも知れない。
故に司の今回の開花適応とキュルキオネ戦は、彼が黎明を告げる存在たるに相応しい狼煙に成り得るだろう。
だが当の本人は自分が新時代の黎明などと評価されている事など知らないし、自覚も無いに決まっている。ただ目の前の少女を助ける事で精一杯なだけだ。
「「……」」
司は火柱の中で目覚め、自身が当然のように爆発に巻き込まれた事を悟る。キュルキオネとは数十メートル離れた位置でうつ伏せに倒れ、体が焼けるように熱い。
火柱の中であるにも拘わらずその程度の感覚で済んでいるのは彼の來冥力が防護服の役目を果たしてくれているからだ。
とは言え2人とも満身創痍といった様子であり、司とキュルキオネの合算された來冥力が飽和状態になった事によって引き起こされた特大爆発は、致命的なダメージとなっている事を物語っている。
「く……」
司はまだ來冥者形態が解除されておらず戦える意思を見せる。
そしてそれはキュルキオネも同じようで、業火の中で2人はヨロヨロと立ち上がった。
「「……」」
炎の中でお互い見つめ合った直後、2人は同タイミングで前方へ駆け出す。
「「あああああああああああああああああああ!」」
普通であれば喉が焼け、声を出すどころか呼吸すら行えない状況だろう。だが今の2人は当たり前が通用しない事が当たり前かのように声を轟かせる。
やがて2人は助走の勢いを利用して前方へと跳び上がり、お互いの拳をぶつけた。
來冥力同士の衝突が生み出した衝撃波は半球状に急速な広がりを見せ、火柱を消滅させる事に成功した。つまりまだまだそれだけの來冥力が残されていた訳だ。
火柱が消滅した事で視界も良好になる。その結果この辺一帯が更地になり、木々などは全て塵すら残らずに蒸発した事が改めて判明した。障害物は無くなり道も平坦になった事は以降の戦いをシンプルな内容へ導く事だろう。
「……。決着、つけよっか、キュルキオネ」
未だお互いの拳がグーの形で触れ合っている中で司はそう言った。その声は先ほどまでの気合の入ったものではなく、静かで落ち着きを感じさせる声であった。
「ああああ、ああああああああああ!」
対してキュルキオネに静を思わせる雰囲気は一切無い。
相も変わらず苦痛に満ちた声を上げると真上にジャンプする。垂直跳びによって到達可能な最高点に達すると、彼女は斜め上に顔を向けた。
「……!」
何か仕掛けてくる――そう思った司は警戒心を限界まで引き上げ彼女がどんな手段の攻撃を行って来ても即対応できるよう心掛ける。
「あああああああああああああああ――――――――――!」
この戦いが始まってから1番の金切り声を上げたキュルキオネ。
直後、咆哮から発せられた音波にキュルキオネの來冥力が計上された事によってそれらは三日月型の刃と化し、雨のように司に襲い掛かった。
何百何千と放たれた音の刃は音速を超える速度で上空から撃ち落とされ、司を切り刻もうとする。
「やっぱりそう簡単にはいかないか……望むところだ!」




