第300話
その大規模な爆発は離れた位置に居るテトラたちにも見えていた。
どうやら相当距離が離れていたようで半径何百メートル規模の特大爆発でも彼女たちが居る位置までは影響を及ぼさなかったようだ。
この場所までを完全に更地にする事はなく特定の一点から伸びる火柱の下部分が木々に覆い隠されているような光景であった。
「な、何よ今の爆発とあの火柱! 司とキュルキオネが居る位置よね!?」
「……」
動揺が広がるエマだが彼女とは対照的にレギュラオンは冷静そのものだ。ただただ司の勝利と彼の帰還を信じているのか、慌てず騒がず火柱を見つめる。
「くっ……う……司、くん……きゅるちゃん……」
ここで自分だけが倒れて休んでいる訳にはいかないと思ったテトラは、歯を食いしばりながら必死に立ち上がり戦地を見つめる。
「はぁ、はぁ……頑張って、司くん……!」
祈りと応援しかできない現実にテトラは悔しさと腹立たしさを覚えていたが、それでも今彼女にできる事はそれしかなかった。ならばどれだけその行為が司に届かなかったとしても、それを全力でやり続けるだけであった。
そんな健気なテトラを見たゲーテは半ばバカにしているかのような不快な笑い声を彼女たちの耳に届ける。
「ふふふふふふ。無駄ですよ、テトラさん。どれだけ司くんが1人の來冥者として常軌を逸した存在であろうと、今彼が相手にしているのは開花適応レベル4クラスの來冥者なのです」
「……」
「確かに來冥力に支配され、かつ戦闘経験もまともにないキュルキオネはその分ハンデを背負ってはいますが、その程度の向かい風など微々たるものであるはずですよ」
「……」
「彼は数年前のあの時、レイクネスさんに勝てましたか? 勝てなかったでしょう? 開花適応のレベル差と言うのは、現状判明している來冥者同士の戦いにおいて最も勝敗を決定付ける要因です。さて、数字の大小関係を比較した時、司くんはキュルキオネに勝てるでしょうか? ふふふ、その答えは分かり切っている事で――」
「うるさい」
黙って聞いていたテトラはついに我慢できなくなったのか、怒りの感情が乗った声色で一言だけ発した。しかし視線は司とキュルキオネが戦っているであろう場所から逸らしていない。
ゲーテはそんな彼女を見て呆れた様子で話を続ける。
「テトラさん……あなたがしている事はただの自分への言い聞かせです。開花適応レベル1の時点でレイクネスさんと渡り合った彼がレベル2になった今、負けるなんて有り得ない、とね」
「うるさいって言ったのが聞こえなかったの? それともハッキリ言葉にした方が黙ってくれるのかな? ――自分に言い聞かしているのはあなたの方だってね」
その言葉を聞いてゲーテの眉がピクリと反応する。
「ほぉ? 面白い事を言いますねぇ、あなたは」
「確かに開花適応のレベル差は基本的に絶対的なものだよ。下の來冥者が上の來冥者に勝てるなんて、本来は有り得ない。でも」
テトラの言葉の先をレギュラオンが引き継ぐ形で口にした。
「どんな時代にも、どんな世界にも、常識や絶対が通用しない存在は居るものだ。そしてそんな存在はいつだって新しい時代を築き上げてくれる。……ゲーテ、お前は先ほど自分で言っていたな? 『來冥力に支配され、かつ戦闘経験もまともにないキュルキオネはその分ハンデを背負ってはいる』と」
「……」
恐らく最も目を逸らしたかった事実、最も自分に言い聞かせたかった事が無意識に言葉として出てしまったのだろう。本心は隠せない、そういう事だ。
「ふん。お前も心の奥底では天賀谷司の事を正しく認識しているからこそ、そして認めたくないからこそ、言葉に出す事で自分に言い聞かせたかったのだろう? ――『その程度の向かい風は微々たるものであるはずだ』とな。お前が口にしたその評価はそうであって欲しいと願う気持ちの表れだ。その証拠にお前は『はず』と口にし、断言はしなかった」
図星を突かれた事でゲーテは苦虫を嚙み潰したような顔になる。




